物流よもやま話 Blog

残業と休日出勤「わたしの事情」

カテゴリ: 実態

昨今の労務基準の改変と順守徹底については、拙ブログでも何度も書いてきた。
労働者保護、経営の健全化、労働市場の活性化に向けての、、、
謳い文句も千差万別に、さまざまな人々がさまざまな立場でさまざまな意見や批評を声高に述べたり記したりしていて、目的の内容がかえって検索しづらい。
降って湧いたような「労務の専門家」の大量発生を、苦笑交じりの呆れ顔で眺めている。

個人的には大きな流れとして正しいと思うし、総論で賛成である。
経済成熟国の一員たるゆえんを表す不可避の国策とされているのだとか。
人口動態の変化による労働人口の減少や、歯止めのかからない内需縮小に策がない、と露見した際に政治家が常套的に用いる効能微妙な薬でもある。平均所得下落を伴うので、消費縮小を助長することにもなる。

企業は負担増に喘ぎつつ価格転嫁を遺憾の意と不可抗力のあわせ言葉で宣言し、労働者は権利行使の正当性を堂々と口にできる。
その状態についても異存はないし、先々に起こるであろう労働と対価の評価基準が大きく変化する流れの堰が、満を持してついに取り払われたのだと感じるだけ。
かといって労働者たる万人が歓迎しているのかと考えれば、答には「否」としか浮かばない。
なぜなら私は数えきれないほどの現場の声を聴いてきたし、その発言や行動の根にある理由も重々理解しているからに他ならないからだ。
まさに「同床異夢」の典型ともいえる実情が物流現場には存在している。
そしてそれは決してなくなりはしない捻じれや排反する事象であることが、重くやるせない事実として胸中の奥深くに沈む。
経済成熟や制度整備は個人の豊かさや満足と必ずしも同義ではないと思い知るだけである。

パート・アルバイトと呼ばれる非正規労働者にとって、有給や社会保険加入よりも大事なことはひとつしかない。
それは「手取り額」であること明白で、そのために働いている。
正社員も、労働内容と報酬を自己採点はそこそこ高い自身や青い芝の隣人やらと秤にかけて、現状の評価をする。しかし最終的に出した総合点はそれ以外の要素も加味して決定する場合がほとんどではないだろうか。収入は絶対的優先順位一位とは限らない。
そのあたりの違いを目の前で見てきたし、本人の言葉としてもよく聞いた。
パートさんたちが往々にして「不平不満」を吐き出す際に、最も多く最も強い言葉となる内容は「時給」と「時間」だった。
正社員の「給与・賞与」と「時間」に文字面は似ているが、「時間」の指し示す内容は真逆であることが常だった。

すべての働く者にとって、労務健全化=歓迎・厚遇・満足、とは限らない。
以下、多少のデフォルメを加えるが、ご本人が発した言葉のいくつかはそのまま記す。
言葉のニュアンスが失われたりせぬよう心掛けたつもりなので、伝えたい主旨はご理解いただけると思う。

物流倉庫で働くAさんは、勤続12年の中堅パート社員。
数年前から「調整」を外し、月~金の9時から18時を基本労働契約としている。
俗にいう「フルタイムのパートさん」だ。遅い日には20時まで残業することも珍しくない。
更には定休日であるはずの土曜日もほぼ毎週出勤している。休むのは日曜日のみ。
大型連休や年末年始、夏季休業期間も、会社の休日カレンダー通りに休むことはこの数年間皆無に近い。夫と子供たちの理解も十二分にあり、家事などを分担してくれるので、現状の家庭生活に支障はない。
何をおいても、三人の子供たちの塾などの学費と先々の進学費用を確保しなければならない。
夫の給与は横ばいのまま。賞与は減る一方どころか出ないこともある。住宅ローンはまだ10年余り残っているし、贅沢には無縁の暮らしであっても、食費をはじめとする基本的な生活費は子供たちの成長とともに増える一方。数年前までの「調整あり」の働き方では家計所得の絶対額が足らない。一日でも一時間でも多く働いて、総支給額を増やさなければならない。本音を言えば、有給を買い取って欲しいし、日曜日だって隔週ぐらいなら働いても大丈夫だと思う。

そんな説明を笑顔交じりのハキハキした声で小気味よく続ける。
内容はさらに深くなってゆく。

子供たちが全員独り立ちする頃には夫は定年間際。老後の貯えも心細い現状を、少しでも改善しておきたい。
出勤して、働いた分だけ手取り額が増える。所長もわが家の内実は理解してくれているので、勤務時間や出勤日数は黙認してくれている。うちの営業所では私を含めて数人が似たような働き方をしている。
皆元気で、誰ひとり病気やけがをしないし、とても明るい。休憩時間は毎度似たような愚痴や心配事の吐き出しあいで、相槌や同感の頷きが絶えない。
出勤して仕事をしているほうが家事やらその他の雑用よりはるかに気持ちが楽なのことも事実。余計な買い物や余暇にお金を使うこともないので、節約できるうえにお給料がもらえる。今の自分にはもってこいの環境なのだと納得している。
親しい仲間内だけのひそひそ話だが、残業削減や一か月の労働時間規制ははっきり言って大迷惑だ。一日に10時間以上働くことなど何の負担でもないし、それが週に6日でも「心身の過労」なんてことにはなるはずない。お給料が減ることのほうが辛いし、家計のことを思えば、それこそ心の病になりそうで不安だ。
国が決めた制度を会社が守ることの重要性は、この前の説明会で理解できた。
でも、いったい誰をモデルにして制度を考えたのだろうか?と不思議で仕方なかった。
少なくても「わたし」ではない。
もっと言えば「わたしたち」でもない。
自分たちが困ったり、苦しくなる仕組みを望むわけないのは当たり前だ。
仮に制度のモデルとなる人たちがたくさんいるとしても、せめて選べるようにはできないのだろうか?
働きたい人間の希望を聞きいれる会社が法律違反の悪者になるというのは理解できない。
難しいことはわからずに話しているので、とても滑稽なのかもしれないが、私の正直な気持ちであることに間違いない。

一言も返せず、一言も尋ねず、一言も継げなかった。
小さなうなずきを無言のまま繰り返すことしかできなかった。

生き方や感じ方のそれぞれ。
「わたしの事情」のそれぞれ。
正解などあるはずない。

「現場には本当のことしかない」
ひとりになって、そうつぶやくことが当時の自らに課せられた「わたしの事情」だった。
今でも思い出すたびに無言で漫然とする時間がめぐってくる。

著者プロフィール

主筆 T_NAG
大阪 泉州育ち。​
1988年 慶應義塾大学卒業。
しかし、ボンボンでもイケメンでもない。

失敗や挫折の数なら、世界規模の自慢大会に出ても結構いい線行くのでは?
と自画自虐しています。

映画と音楽と小説が大好き。
カメラは人生の伴侶みたいなもの。昔は車マニアでしたが、最近は楽にドライブできることが最重要。なので、燃費と快適性が車選びの基本に。

泥臭い努力型の典型なので、弁舌鋭いキレキレな遣り取り、とかは無理です。

【仕事の自慢】
「取引する企業は必ず業績が良くなる」
​何にも替えがたい喜びです。

【好きな言葉】
「粗にして野だが卑ではない」
​絶対に曲げることのない信条です。

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