前々からちょいちょい耳にしてはいたが、いよいよ人手不足が重篤化してどうにもならん事態らしい、、、いわゆる建築や設備などの工事のハナシである。
実は5年ほど前の段階でそういう傾向が進んでいると承知していた。とはいえ心のどこかで「そうはいっても破綻までは」と高をくくっていたが、どうも甘かったようだ。
工場や倉庫の屋根・壁の修理、空調をはじめとする業務用機器類が故障しても、以前のように迅速な対応は望めなくなりつつある。その傾向が一番顕著なのは木工事なのだとか。
つまり職人がいないのである。
個人住宅についてはさらに深刻化しているらしい。
一番足らんのは大工さん。圧倒的に人手が足りていない。なぜなら若者が大工になりたがらないからだ。低賃金(低報酬)・長時間労働の常態化が招いた因果であり、先細り傾向は加速するばかり。新築・増改築ともに工期遅れの慢性化は今やあたりまえとなり、電気機器などの設備工事にしても似たりよったりであると聞く。
ちなみに総務省統計では大工人口の戦後ピークは1980年で93.7万人。それが減り続けて2020年時点で29.8万人。さらには深刻な高齢化を併発しており、2020年の平均年齢は54.2歳、60代以上の比率は43%に及ぶのだとか。泣きっ面に蜂ともいえる統計値としては、30歳未満の大工数は2.1万人。若い大工さんはこの20年間で5分の1に激減した。
物流業界にとっては他人事で済まないハナシである。
高齢化も若年層の減少も人口動態なりの結果であるにしても、極端に進むのは業界別の要因があるに違いない。主力層の高齢化と若年層の業界忌避に共通する要因など今さら書くまでもないが、建築や設備そして物流などの生活関連業種の先細りは、生活基盤の揺らぎと同意である点を今一度考えなければならない。万人にとって他人事ではないのだから。
物流機能の鈍重化や行き当たりばったり的自動化がもたらすものは「いびつ」「我慢」「許容」「全部有償化」であるが、建築や設備の施工能力不足については様相が異なる。
昨今の気象変化を思えば、設備や建屋の修理や交換の滞りは、個人生活や業務品質管理上のリスクとして多大である。新築・新調一辺倒ではなく、既存の設備や建屋を修理修繕してより長く使う、という傾向が強まるばかりのわが国。にもかかわらず、その担い手である技術者や職人が減少し続ければ、基調維持の行く末が危うくなることは明らかだ。
たとえば今現在の酷暑中に空調が壊れたなら、自宅で過ごすにしても事業所で働くにしても、不快や過酷を超えて危険とされるだろう。しかしながら即駆けつけてくれる修理屋さんはめったにおらず、数日もしくは数週間待たねばならぬかもしれない。給湯や空調の不調は生活不能状態に直結するかもしれず、修理難民用の避難場所が必要ではないかと思う。
設備単体だけでなくその土台や支持躯体の補強や補修が先工事として必要な際にも、前述のとおり大工や建具屋の数が足らぬので、後工程に至るまでには従来の何倍も日数が要る。
ちなみに材料代等の費用も恐ろしく高騰している。世界的なウッドショックや円安を契機とする材料原価の高値停滞は今や定着してしまった――つまり過酷な気候にさらされ、不便不自由なまま長く待たされたうえに高額な材工料金を支払わねばならないということだ。
この数年間で、わが国はそんな国になってしまった。
廉価請負×長期拘束の連鎖で「大工は若者が忌避する職業の最たるもの」に追いやった張本人とされているハウスメーカー各社は、今となって慌てふためいて職人養成に力を入れていると聞く。価格競争のしわを下請けに寄せ続けた成れの果てというわけだ。
どっかで聞いたことがあるようなハナシである。
次は物流屋の番か。
なんていうつぶやきを押しとどめている今である。
永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。
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