物流よもやま話 Blog

転職者たちのその後

カテゴリ: 実態

売手市場となって久しい労働力の需給バランス。
物流業界はとりわけ、、、と感じて止まぬのは今に始まったことではない。
社内異動ではまかなえぬ人材供給を中途採用で間に合わせようとするが、提示する年収は渋いまま――そりゃ有能な人材が採れんわな、という傾向が未だ続いているからだ。

あくまで“私の知る限り”でのハナシであるが、労使双方側からの生の言葉として「転職してよかった」「中途採用してよかった」は3割に満たぬというのが実態ではないかと思う。
先に断わっておくが、
「物流」という大区分内での自社物流・営業倉庫の別、自社物流というくくりの中での業種・業態・事業規模別、営業倉庫区分での運送・庫内業務の比率別・主たる荷主属性別、、、
のようなコンサル会社や調査機関が施す丁寧な調査から得た統計的根拠はないに等しい。
「単なる実感とドタ勘」による私見を書いていることをお忘れなきよう願う。

労使双方が「あぁ違う、、、」と天を仰ぐような後悔と閉塞感に苛まれる中途採用パターンの第一は「大手の物流会社から歴史ある自社物流への転職」がダントツである。
その中でも最悪な状態は、
転職者本人は既存の仕組と従業員教育の不備を指摘し、改善案を提案提唱しながら、
「いつになったらマトモなやり方を身につけてくれるのだろうか?」
と袋小路で足踏みするような日々に焦燥と疑心暗鬼の念が強まるばかり。
が、一方で転職先の自社物流部門の既存社員は
「そもそも社是や優先順位を理解していないので、身内意識が抱けない」
「物流会社と同じように仕事がしたいなら、元の会社に戻ればよいではないか」
「なんでもかんでも合理的・正確迅速・無駄排除、は賛同以前に反発と嫌悪を生むだけ」
「新参者ならいきなり既存の畑にケチをつけるような愚は避け、誰も手を付けようとしない荒地を見つけて自ら耕し整え、新しい畑を生み出すことによって実例と実力を披露するべき」
といった類の行き違い状態がタイヘン多い。

営業倉庫と自社物流の双方を知る身としては、なぜそんな不幸が起こるのかがよくわかる。
それは自身の過去でもあるからだ。

行き違いの根にあるのは「大切にしているもの」の優先順位の違いである。
転職者が職務経歴で最も重要かつ自信アリと自負していることが、転職先ではプライオリティ№1ではない――かといって誰ひとり否定する者はいない。
というだけのズレが致命的となる溝や行き違いの原因となる。
こうやって書いているからこそ
「そんなもんは面接時に丁寧かつ綿密にすり合わせておくべき第一の重要事項であるし、入社後でも会話によって相互理解できるはず」
となるわけだが、現実にはほぼほぼかみ合わぬまま時間が過ぎて、事態は重篤化してゆく。

お互いの正論がぶつかれば救いとなりそうなものの、正面衝突を避けようとする大人の処し方が不幸を増大させて深化させることが多いのは業界や職種を問わぬ。
「どうして正しい物流作法を行おうとしないのだ」
という新参者の態度や行動に、
「どうして郷に入っては郷に従うための学び――傾聴や観察や想像、を怠るのか」
という受け入れ側の不満や疑念は募るばかりとなる。

当事者だった過去があるなら理解に易いと思うが、そんな経験がない読者諸氏は、
「話せばすぐに解決すると思うけどなぁ」
「部門責任者に状況説明を上げて間に入ってもらえばよいのに」
「キャリア採用しておいて改善や改革にアレルギー反応すること自体おかしい」
「採用面接の段階で解消しておくべき事項を怠っている。一般的には稀なケース」
「学歴を含む経歴至上採用の弊害の典型。スペックよりも相性を優先するべき」
など皆様の指摘は全部ゴモットモだと思っている。

上記の指摘事項については当事者たちも「そのとおりである」と大きくうなずく事柄ばかりなのだ。今まであたりまえだった常識や定石どおりにはまらなくなるからこそ厄介。
という実態は誰しもに見舞う可能性があるが、自分事として戒めて事前準備するのは難しいのだろう。なのであちこちで似たようなお粗末話が絶えることなく生まれる。

転職後の評定につきものの、

「履歴書や職務経歴にあるような実力がはたしてあるのか」
「採用評価は前職企業の組織力による成果を個人力量と取り違えたのではないか」
「とにかく働かない。自分から行動しない。学習意欲がない」

などは物流部門や物流会社に限らず、すべてのキャリア採用事案で起こる笑えぬ喜劇的不幸だと思うが、当事者の片方たる採用側の管理職一同はたまったもんではない。
面接員としてかかわっていたのなら、自分自身の不明を恥じて悔いるだろうが、はたしてその人以外の管理職が面接担当だったなら転ばぬ先に杖がつけたのか?という疑念は拭えない。
不肖ワタクシならばほぼ間違いなく「まったく気づかなかった。気配の欠片さえ感じ取れなかった」となることは間違いないと自覚している。(過去稿にあるとおりなのだ)

ここまで書いてきたハナシの「ぞっとする実例」のいくつかが脳裏に浮かんでいるが、実はそのもっと奥に一番怖いハナシが眠っていることに気が付いた。

「わが社の物流部門はのんびりだらだらと仕事し、毎月毎週のようにいくつかのミスをして、営業や製造からクレームが行っても“暖簾に腕押し・糠に釘”で、、、」

を解決すべく、有名な3PLの基幹事業所責任者をキャリア採用してテコ入れを図る――と聞いた半年後にその自社物流を訪れてみたが、「3PLからやってきた気鋭の物流マンとはどの人なのか」は現場や事務所を観察していても判らぬままだった。
「まさか、もう辞めてしまったのか?」と一気に気が重くなった。なぜなら採用の過程でいくつかの助言をした自身の責任を感じていたからだった。
その日は新たに物流管掌となった役員に請われての訪問だったが、その役員氏が言うには、
「入ってきて三月ぐらいですっかりなじんで既存社員と区別がつかなくなった、と聞いています。環境や組織にいい意味で馴染むのではなく、迎合同化の典型。既存の仕組やルールの改善案などの行動も皆無に近く、給料が部長クラスである点が大問題化しつつある」
とのこと。

郷に入っては郷に従いすぎるのも大いなる難あり。
楽で低い方に流れるのは人の世の常。
とはいえ、物流業界の転職小咄で一番多いのは「同化して何も変わらず」であるというのはちょっとしたホラーではないのかとつぶやく私なのであります。

読者諸氏の身近にも似たようなハナシが転がっているかもしれません。
クソアツイ毎日に身の毛がよだち背筋が冷たくなるような怖いハナシがあれば是非お知らせくださいまし。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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