物流よもやま話 Blog

ネットスーパーの店内ピッキング

カテゴリ: 実態

商売柄と性分からか、日常生活でも物流がらみのあれこれに目が行ってしまう。
最近では3回続けて同じ場所で、
「なんであんなことをしているのだろう?」
「そうでなければならない理由でもあるのか?」
「こうすればいいのに」
などとモヤモヤしつつ立ち止まって作業者を凝視しながら「うーむ」と唸っていた。
駆け寄って矢継ぎ早にヒアリングしようとしている自分に気づいて、毎度のことながら肩をすくめてしまった。

時間に追われながら、売場で懸命に作業している最中に、
「ロケ表示の代わりになるものはないの?」
「手にしている紙はピッキングリストなのか?」
「かごに入れる前に鳴かないといけないのでは?」
「そのハンディターミナルらしきモノは何のために、、、」
なんて、質問攻めにあえば、誰だって困惑しておののく。
「主任!売場にスーパーマーケットの業務マニアみたいなオッサンがうろついてます。仕事中のスタッフに質問なのかイチャモンなのかよくわからないことを尋ね続けるので大迷惑です。なんとかしてください」
みたいな通報で、別室にて事情聴取なんてことになったら恥ずかしいではないか。
と、ギリギリで我に返り、間一髪で踏みとどまれたのだった。よかった。

とあるGMSの食料品売場でのハナシだが、以前はそんな光景を目にすることなどなかった。
その店はネットスーパーのサービスを具備しており、おそらくはある時期から店頭在庫とネットスーパー用の在庫を共通化したのだと思う。
数年前のことだが、同店のネットスーパーを利用した際に、店舗の手違いで出荷当日になって「欠品」の連絡が入った。
怪訝に思い、電話の相手に在庫の引き当てについて質問したら、以下のような返答だった。
「バックヤードにネットスーパー用の在庫を別保管している。その在庫数にWEBのカートはリアルタイムで同期しないので、引当完了後のピッキング時に欠品が発覚する。たとえ売場に在庫があっても、ネットスーパー用には自動で引き当てられない仕組になっている」
内容は理解できたが、奇異ともいえる運用の中身を知って、何度も首を傾げた。
同店のネットスーパー利用から久しく遠ざかっていたため、そんな過去の出来事も記憶の奥に眠っていた。
それが呼び起こされるような光景が、冒頭の出来事だった。

一部あきらめに近い納得をしつつも、別種のより重篤な欠陥が透けて見えてきた。
店内ピッキングの際に、おそろしく効率が悪く手も遅いことだ。
ピッカー個人の能力論以前に、業務フローと環境整備の問題であることは明白。
倉庫内のような業務を想定していない既存店舗の売場ピッキングは、棚配置と商品位置が把握できていないと、見知らぬ土地で初訪の家を探すようなありさまになってしまう。

「えーっと、この道ぞいのこのあたりにあるはずなんだけどなぁ」

という光景が店内でもみられる。
うろうろキョロキョロした挙句、手にした「ピッキングリストのようなもの」と棚にある商品を交互に見比べ、それに熱中するあまり買い物客の品選びの邪魔に――なんていうことも珍しくないはずだ。商品を棚補充している店員さんが、背後や隣で品探ししているお客様そっちのけで、わき目もふらず作業をしている場面と似ている。

しかしながら、すいすいサクサクとピッキングしている姿も見える。
おそらくたぶん、それは売場の商品配置に慣れた人であって、そうなるまでには相当時間の勤務経験が必要なはず。
そんな事実の存在は、業務設計と作業管理の評点を最低にまで下げる。
「ピッキングは入社初日のパートさんでもできる作業のひとつ」
という、物流現場の基本中の基本を売場に持ち込めないのであれば、それは該当する出荷業務自体が不安定で不効率なまま推移することを意味しているからだ。

にもかかわらず、各社のネットスーパー業務の求人を見れば、売場の商品配置に詳しくなることが仕事のポイントとあったり、慣れるまでは先輩の動き方やアドヴァイスを参考に、みたいな文言が並ぶ。既存スタッフの体験談にしても似たような内容が目立つ。
あまりの旧態依然さに愕然としてしまう。用意したOJTだけで教育完結できない現場は、ミスが常在し作業時間の短縮などが難しいことは周知の基本事項であるはず。
「頑張って覚える」や「先輩に訊いてみる」は現場には不要な言葉なのだ。
ピッキングは最も属人性が排除できる簡易業務であることは、たとえそれが売場であろうと貫かれなければならない大原則。

環境に応じた工夫で仕組づくりを行うのは現場責任者や管理者の守備範囲に含まれる。
ちょっと熱が入りすぎているかもしれないが、まわりまわって利用者にも大きくかかわるのは目に見えているからこそ、ついついたくさん書いてしまう。
特にコスト面、つまりは送料名目で別途かかる金額が高くなるからだ。

在庫の切り分けの試行錯誤を経ての共通化は、無用な遠回りながらもなんとか理解できる。
目の当たりにした光景に似たような場面は、同社の運営する売場では頻発しているのではないかという想像にもあながち無理はないと思う。
更には数度にわたりサービス内容を
「購入可能数量制限」
「購入ルールの変更」
「配達料の大幅値上」
などによって使いにくくしている。
特に高齢者や店舗から離れた配送エリアのユーザーにとっては明らかに改悪だろう。
サービス開始から一定期間経過後に、リピートユーザーを抱えての大幅なルール改変。
許容我慢か拒否断絶かのいずれを選んだにしても、常用を疑われないマイショップとしての存在にはほど遠い。
仕組の不備とコスト管理の粗雑を利用者にしわ寄せしている典型だが、「選択弱者」に甘んじるしかないユーザーを想い、唇をかむ同社の内部者は少なくないと信じる。
後手安直としか評せない顧客転嫁ではなく、手前で踏みとどまる努力の再考は書くまでもないことだと思う。

運営の云々は私の守備範囲を超えていることなど重々承知している。
しかしながら、最終ランナーである物流業務とそのコストに大きな影響を及ぼすので、川上まで遡って原因の生まれる場所を指摘しているに過ぎない。
利便性だけではなくなるネットスーパーをはじめとする個配サービスの存在意義は、生活インフラの今後を考えるにあたり、不可避な議題のひとつ。
その根幹にかかわるので辛口の物言いになる旨はご理解とご容赦願う。
特定企業やその組織を批判する意図は皆無なので、併せて書き添えておきたい。

ハナシを売場に戻して、さらに気になる点を書く。
今は店在庫を小型のモバイル端末で確認できるらしいが、店頭で買い物客から問われたパートさんたちは一様にデータ確認と売場確認に加えてバックヤード確認を目視で行う。
「無いとは思うんですが、一応確認してきますね」
と言い残して、バックヤードに小走りで、というのがありがちの最多。
小言ばかりで不本意だが、これでは何のためのデータ端末なのかわからない。
ぞっとするのは「ひょっとしたらあるかもしれない」という引っ掛かりが否定できないゆえの行動なのでは?という疑念を否定できないことだ。
データ上はなくても、実際には存在する。
そんなことが珍しくないからこその、パートさんの言葉なのだとしたら、それは根本的な欠陥にまでおよぶハナシとなってしまうだろう。

後ろ向きなあげつらいばかりではどうしようもないので、ちょっとした素案を。
いっそのこと、遊撃班を設置するのはどうだろうか。
ネットスーパー専任にせず、店舗内の買い物客の在庫問合せにも即座に答える。
サービスカウンターで控えているのではなく、常に売場を巡回する。
ついでに棚の整理整頓や美装のチェックも行う。
腕章やエプロンなどに、来店客がわかり易い名称のプリントを施して、店内を巡回したり、売場やレジからのヘルプ要請に即応する。
そうすれば商品補充などの作業者は、手を止めて顧客対応に時間を取られずともよくなる。

と、いろいろ書いてはみたものの、当然ながらもはや内部で手を付けているに違いない。
どう考えても現状放置は考えにくい。
一件分のピッキングだけで15分。
そんなことも珍しくないであろう実態にメスを入れなければ、ネットスーパーの物流コストは高止まりし、相当額が購入者に転嫁され続ける。
顧客が苦しみ販売者も苦しむ。
かかわる者が全員敗者になるなら、サービス自体を否定しなければならなくなる。
最初に考えた「いいこと」が霧消するような行く末は避けなければならない。
そんなことは、誰よりも運営会社が心得ている。

ここからは自問した際の独り言だが、、、

具体的にはどうすればよいのか?
売場にロケ表示?
まさか倉庫内と同じような大きさと無機質この上ない数字やアルファベットの羅列のシートを貼り付けることはできない。
全店の売場に共通するロケーションロジックを規格化し、棚フレームに違和感のない表示。
SKUコードを二次元かノーマルのバーコード化して同じく棚フレームに、、、ん?これは無しでもいけるかも。
裸売りの青果や鮮魚なら可動式で着脱簡易なロケとSKUをセット化したプレートや吊り札の類を台や島に設置。(POP下部にシール貼付でも可)
かつフリーロケーションを店別・売場別に随意対応可能なように設計。
その操作は本部が遠隔で、、、そうなると各店舗の売場詳細図と規模の大小にかかわらず、棚整理やレイアウト変更情報の事前把握と事前作業が必要となる。
そのあたりの最低必要条件を満たしたうえで、ハンディターミナルさえあれば、アマゾンスタイルを少し変形したピッキング環境が整う。蛇足だが、できることなら物流センターと同じロジックが売場にも反映されればなおよい。
(同社の物流センターの業務フロー詳細を把握しているわけではないので、あくまで想像の産物としての理想形を書いている)
簡単ではないことも承知しているが、実用に耐える設計のアウトラインは誰が考えても似たような内容となるはずだ。

で、その整備に必要な予算はいかほど?
売場至上主義で育ってきた幹部層はネットスーパー強化を命題化できるのか?
何よりも経営がそれを認め、決裁できるのか?

往々にして水底で鱗を光らせる企業マインドという集団感情。
それをつかさどる経営の逆鱗に触れたなら、合理性やコスト選好の客観的な判断は後ろに追いやられてしまう。
売場・来店客という既存の絶対的価値との段差はまだ大きい。

長い独り言の果てに行き着いた私なりの答は一応まとまっている。
しかし、それが可能になるためには店舗間の情報連携だけでなく人材共通化も必要となる。
素案イメージが描けたのだから実用化は可能。まさに絵に描いた餅ではあるけれど。

どっかのスーパーマーケット本部に持ち込んでみようかなぁ。
いやいや、DMか?
いやいや、まずは電話かメールじゃ。
いやいや、頼まれもしないお節介はやめておけ。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

最近の記事

アーカイブ

カテゴリ

お問い合わせ Contact

ご相談・ご質問等ございましたら、
お気軽にお問い合わせください。

お問い合わせフォーム