どうして製造業に就かなかったのだろうと思うことがある。
それは今に始まったハナシではなく、社会人になって5年余り過ぎたころから何度となく過る漠然とした想いなのだが、後悔や無念とは違うふわーっとした感情としか説明できない。
新卒時から一定の年齢に至るまでの間、製造業に就職しようと望めば、求人を探して応募することはやぶさかではなかった。相性の合う企業と出会えば、採用されたかもしれなかった。
しかしながらそんな行動を起こしたことは一度もなかった。
それを言うなら、高校二年生の時に理科系志望から文科系に変節してしまった段階まで遡って悔いたり嘆いたりせねばならないかもしれない。
そんな自虐など今さら御免こうむるし、仮に過去を変えることができたとしても、バックトゥザフューチャーみたいな結末に収まるのがよいのだと思う。
なので来し方のすべてをよしとすることにしている。
しかしながらもしもタイムワープが叶うのなら、、、デロリアンではなくプリウスで過去に戻りたい。そして地元のヤンキー連中に「これはリッター40km弱走るんやで」と自慢したい。
おそらくきっと「リッター40?なにホラふいとんじゃボケェ。そんな車あるかぁ。それからそのツルツルペッタンコなへばりつきスタイルはなんじゃ?男やったらハコスカ乗らんかい、カクカクでリッター4じゃぁぁぁ」と絡まれそうである。
というハナシをしたかったわけではない。
なんやかんやを経て物流屋となり今に至るわけだが、憧れの製造現場に立つことはなくとも、その前後に携わることはできる。
一定規模以上の工場では、その建屋の前後に物流機能が付帯していることが多い。
物流現場が工場隣接なら、製造直前に資材や部品を最短動線で過不足なく供給できる。
製造後も生産ラインの進捗に合わせて保管と出荷の手配を行えるのでこの上なく合理的だ。
製造の前後に位置することによって微調整や段取りが組みやすくなることは明白で、いわゆるカンバン方式はその究極の形とも言えよう――それが関与するサプライヤーや物流担当にとって良いのか悪いのか報われるのか否かは別として、だ。
製造業の方々にとってはアタリマエのハナシであっても、非製造業の物流部門にとっては「製造の前と後ろ」に連結されている作業内容はちょっと想像力を働かせねばならないようだ。
企業の数だけ業務正誤の判定基準が存在し、価値観や優先順位の並びが異なる。
その多様性は製造業が筆頭であるという事実は読者諸氏ご承知と思う。
製造現場の多彩な個性は連動する物流作法にも強く作用するわけで、一筋縄ではゆかぬことは想像に難くないだろう。その上に誤解されがちなのは「物流は製造に隷属」や「製造と物流は主従関係にある」などの滑稽な優劣論だ。なんでもかんでも〇×や白黒や優劣をつけたがるのは愚かで幼稚でしかないのだが、残念ながらその手のハナシはいつも世間に転がっている。
巷には製造部門に隷属隷従している物流部門があると聞く。
自身が直接かかわったり、内部者から実態を聞き取った企業の物流部門では「いかなる知恵と工夫によって製造現場の要求を上回る作業手順や事前準備を用意するのか、、、」といったハナシが年がら年中なされている。
製造現場を前後で支える物流機能はモノづくりの一端を担う黒子的役割なのだ。
製造物の部品一式がキッティングされて生産ラインを流れてゆくが、その段取りは前裁き物流が担っている。完成品が工場から滞りなく予定各所に出荷されてゆくためには、荷役と配車と納品先との綿密な段取り共有が欠かせないはずだが、後捌き物流は粛々淡々と静かに消化してその日の責任を果たして終わる。
さまざまな業界のさまざまな場所で物流人たちは玄人たる誇りをもって働いている。
「黒子として貴く」
胸中で自尊して恥じぬ生業だと思っている。
永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。
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