物流よもやま話 Blog

多拠点物流の理由と矛盾と含み益

カテゴリ: 本質

中小企業の国内物流機能を多拠点化することは悪だと考える。
最大限に譲歩しても、企業内外で無検証の放置物としか評価できない。
この狭い国土内での物流に関しては疑いなく無益多損となる。
そうせざるを得ない理由の説明や経緯はたくさん聴いてきた。
さまざまな企業の似たような内容の話を。

論外なパターンは、

「地域別物流拠点を設置することで、配送や保管の経費削減が可能。
在庫回転率と配送先頻度から割り出した分析値で試算上も実施数値も検証済み」
という現実の運営を知らない傍観者の理屈。

単独拠点と複数拠点のそれぞれの総経費は試算できているのか?
その試算は統計化に堪える複数の実データに則りなされたものなのか?
拠点間の実務連絡・連携の平準化にまつわるストレスや地域別に存在する人材確保の難度の評価測定は?
そもそも拠点は自社なのか委託なのか?もしくは混在なのか?
委託だとすれば地域ごとの物流会社に対しどういった業務ルールを順守させるのか?
「同一企業同一サービス」いう基本的な商道徳を異なる各地の委託先で維持できるのか?
自社物流だとすれば拠点数と同じ数の管理者を手当てできるのか?

などの具体的数値や一定期間を経た結果検証の開示なしに、単なる「ネタ」として発言したのなら稚拙軽薄であるし、中小・中堅の事業会社にとっては迷惑このうえない。
その手の誘いに乗って物流拠点を増やしてはみたものの、予定コストの圧縮がかなわなかった場合、事業会社は拠点立上げ費用・運営に必要な各種の追加経費・撤退に要する諸経費と労務上のしんがり処理などの全費用を失う。
粗利が減るのではない。その額は帳簿の最下部までまっすぐ降りて、純益が減るのだ。実務上は会計上のやりくりで体裁の整った勘定仕訳となっているものの、実際には売上の完了後値引きと全く同じとお考えいただきたい。なぜならもともと既存の事業運営コストになかった費用だからだ。
失うものは費用だけにとどまらない。俗にいう事業推進のマインドにブレーキがかかる。元の地点まで戻って、一からやり直さなければならない。
利益を残したのは、企画提案から実行までに関与したサポート企業だけだった、というハナシを「そんなバカな」と切り捨ててほしくないと切に願う。

二つ目は、複数ブロックに分散することで、地震などの災害リスクをヘッジする。
いわゆる「BCM」の構成要件であり、その企業マインドはとても理解できる。
ただ、関東であれ関西であれ、巨大都市部で機能停止する規模の災害が起これば、日本経済自体が停滞するので企業活動が危ぶまれる。
阪神淡路も東日本大震災も大阪北部地震や西日本豪雨も、経済活動の中心からずれていた。
もしあれが、大阪や名古屋や東京の機能中枢部で起こったら、分散型のリスクヘッジではリカバリーできるはずがない。
豪雨や暴風で地下鉄や電車が半日止まっただけでも都市機能はマヒする。
たとえば東京のオフィス街や住宅密集地で公共交通や電気・ガスが止まり、水道が断絶し、通信回線が途絶えたら、他ブロック拠点のリカバリーが一定量のダメージ補填をできると想定しているのだろうか?
その上に、首都高速・名古屋高速・阪神高速および各都市環状道路や東名・新東名・県央・関越・常磐・東北・中央・名神・新名神・山陽などの主要高速や空港・港湾部が分断・封鎖されたら、被災地以外の経済活動にまで支障が及ぶことは当然といえる。

言うまでもなく、そんな理屈はどの企業でも承知しているが、物量や配送の都合で多拠点を選択せざるをえない一部大企業(例えば「配送自体が無形の商品」である企業や一部の医療関係企業など)を除けば、ひとえに心理的要因が大きく作用しているのだと思う。

即日、翌日配送至上主義はもうすぐ終わる。
安全在庫ラインの徹底した検証と頻繁なデータ精査、顧客への配送所要日数の事前説明。
そんな基本事項を行っていれば、拠点数は減ると断言できる。
まずは荷の受領者である顧客にヒアリングしてみるべきだ。

「現状の発注から納品までの所要時間を平均一日程度延長することは不可能なのか?」
「上昇を続ける配送・庫内作業に関わる人件費を転嫁しないための協力可能か?」
「アイテムもしくはSKUごとの発注→納品までの正確な許容時間を再検証願えないか?」

礼を失せずに真摯に問えば、顧客は必ず協力するはずだと断言する。実例も数多くある。
物流と営業と仕入を巻き込んで、経営者が本気でやる気になれば必ず成果は出る。

上記のような段取りを経て、取引先へ合理的な説明と依頼をし、理解と協力を得られるなら、一か所に大きな拠点を構えたほうが絶対に有利。
機能集中・人員削減・管理統一・総保管面積縮小・在庫圧縮。つまり廉く上がる。
削るのではなく、必要なくなる。
管理者は一番優秀な人材を一人配属すればよい。
拠点数だけ責任者も必要なのだから、それは最小数である「1」が望ましい。
物流会社の常套句に「この業界は所長商売」というのがある。
運営倉庫の品質と利益は管理責任者の能力で大きく変わるという意。つまりは最優秀な管理者が1拠点を運営すれば、その企業のベスト・パフォーマンスが得られる。
この記事の核心となる最重要項目だ。

時間とコストと業務効率や人員管理、取引先への影響などをすべて書出して比較すれば、明確に差が出る。出なかった過去は一度もない。
人件費や運送費用の推移を考えると、今後も同じ結果しか想像できない。

天災リスクを持ち出せば、分散が堅実で無難な手当てに感じる向きも多いのだろうが、その根底にある「悲観と慧眼の混同」は企業活動を重くするだけ。
日本人は悲観論が好きで、リスク訴求論者は安直で不勉強な相手を選べば「雄弁な賢者」と評価される。
しかし往々にしてその雄弁には解決策や明日を論じる内容がなく、不安や後ろ向きな感情をあおっているだけということが多い。

万地万人に内在する「残存リスク」はゼロにできないし、その到来については覚悟をもって受容するしかない。
大震災や大津波や未曾有の豪雨がもたらすであろう被害について、具体的な防御や対策を明文化したり宣言できる者などいない。
「日本の春夏はもはや温帯ではなく亜熱帯」とこの10数年言い続けてきた。
それは異常気象という言葉に対する違和感を言換えているのであり、豪雨や烈風や酷暑にとどまらず、寒波や大雪もアタリマエと受け入れるしかないと思っている。
倉庫建屋の豪雨対策や酷暑極寒時の庫内作業者保護も、改めて見直しする必要が喫緊と進言させていただく。

ハナシを戻す。

完全内製型の自社物流で多拠点なら、解決は遠くない。
というか、ものすごい含み益を保持している可能性が高い。
試算結果に経営者は愕然とすることが多い。
問題なのは、自社物流と外部委託が抜き差しならない状態で絡み合っている場合だ。
論理的な再設計や機能整理の理屈が通じないことも珍しくない。

「しがらみ」
「協力関係」
「先代からの」
「波動対応」
「動きのよさ」
「長年の経験があり、自社よりも優れている」
「委託先がないとわが社の物流は成り立たない」
「自社でやるより廉い」
「電話一本で引き受けてくれる」
「人間関係も良好で、阿吽の呼吸」
「自社の物流部門に比べて融通が利くし、対応が迅速で丁寧」

こんな状況があちこちに散らばっている。
自社と外部を併用している企業殿、他人事ではありませぬ。
かなりの確率で貴社もそうなっています。

「上手く回っていて、一年間つつがなく終わるからいいじゃん!」

そうです。
別にかまわないと思います。
今現在、表面的には誰にも何の不都合も不利益もないので。

でも、ちょっとだけでも違和感やモヤモヤが胸中過ぎりませんか?
その「ちょっと」が大事だと思います。
恐らく多分「ちょっと」ではない改善やコストカットができるかもしれないからです。
組織や集団においては、調和しているように見える現状を疑ったり、イチャモンつけるような言動を起こすことは異端扱いされるかもしれません。
だけど、異端が発端になり、業務とコスト改変の先端になったら・・・・・

なんていう妄想を抱く人が企業内に一人ぐらいいればよいのに。
いると信じているからこの仕事をしているのだけれど。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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