物流よもやま話 Blog

たかが物流…されど物流

カテゴリ: 本質

その経営者は「入荷ミスも誤出荷も在庫差異も有ってあたりまえ」と断言した。
物流屋の理屈を理解はしても認めず、顧客へのサービスは頻繁な新商品入荷と低価格が唯一無二という自身の信条を曲げず、自社の物流に高品質という言葉は不要と笑顔で言い切った。

小売業ゆえ毎日店舗で品物が出てゆく。
売り切れになるなら有難いが、現実には売り切りを強いている毎日なのだとか。
店頭で売り切るなら、手段は「見切・値引」が手っ取り早い。
しかし売れ切ったことなど皆無だし、毎夜「明日こそは」と唇をかむのだと言う。
「日々換金作業をしている」と苦笑いしつつも、それこそが資金繰りに詰まらず、潤沢な手持現金で仕入や出店の機を逃がさないコツなのだと胸を張っていた。

倉庫への入荷や店振りについては、ほぼアナログであっても基本的なポイントはできている。
庫内の現場担当者及び作業者は毎日膨大な仕事量を抱えていた。
「よくこの人員でやってんな」が私の正直な感想。定着率は悪かろう。
聴けばまさにそのとおりで、半分ぐらいが半年以内で入れ替わる。
モノによっては検品どころか検収もろくろくしないのだ。
カートンの個口数を数えて終わり。
入荷即開梱して、ざっくり種まきで店舗への振り分け。
これよりも優先されることはない。
余裕があれば簡易検品はするが、ルールや基準はない。荷受者の「ちょっと危ないな」という勘によって実施の有無が決まる。
不良品など店頭でみればよい。
もし店側が気付かなくてもお客さんは気付く。
その場合は平身低頭お詫びして、取り替えるか返金する。
それでよい。
安売り屋さんに多い理屈だが、それを安直に批判していいのか?
が当時の戸惑いの芯であった。
認めたくはないが、実は合理的なのではないのか、、、
「いくらで仕入れて、いくらで売るのか」が大事で、ある程度捌けてきたら原価でよい。それ以下でも売れるならよい。
原価がいくらなのかは、店頭の販売員にはわからない。
店長の指示のまま値下げして、通りで声を張って「今だけの限定価格・タイムセール・〇〇〇円ぽっきり・選べる福袋」を連呼する。
そんな強烈な馬力とスピードのある実態を目の当たりにして、思わず迷いが生じたが、やはり頷くことはできない。
しかし、正面切って訴える術を持てぬ拙い自分に常時イラついてしまうばかりだった。

新しい売物が毎日倉庫に入ってくる。
入庫したら即、店へ送れ。
利益率やら在庫回転数なんて社長以外は考えなくていい。
店舗では動きの悪い商品をどんどん減らせ。
定番もスポットも買う側には関係ないのだから、ともかく売り切るのだ。
うちはご大層で格式のある店ではない。
残れば値を下げて売る。
値段と品物が折り合っていないのだからお客さんは買わないのだ。
値付けの間違いだったのだろう。
だから下げて売り捌け。
したがって倉庫もあんまり几帳面に気張らなくてよい。
一刻でも早く店頭に並ぶようにするのが倉庫現場の仕事。
検品やら数合わせに時間と手間をかけるな。
納品業者は小さな工場が多いが、全ての工場の経営者や管理者は作為的に不良品を混ぜたり数をごまかしたりはしない。
俺は自分の眼で彼らを選んだ。不実で狡猾な人間は1人もいない。
単純に能力不足でミスが出るだけだ。

青果生鮮と似ている。
仕入れたら即売る。

物流屋は何を話して何をすればよいのだろうか?
相手には邪魔なだけなので、電話も訪問も控えるべきなのか?

それでも、認められず不本意でも「一定以上の物流品質の維持は必要です」と進言したい。
倉庫環境が良くなれば定着率は上がり、社名や屋号を連想させるようないい顔のスタッフがたくさん育つ。
検収検品が改善すれば、店頭では顧客に「売り一色」の集中ができる。見切りで売り切るなら、クレーム対応の時間や手間や謝罪で売りのモチベーションが低下するのはよろしくない。
物流とはその下地や土台にあるのだ。
それを理解いただくだけではなく、どうやって認めてもらうのか?
あきらめずに考え続けたい。
具体的な方法論を何度も書き直しながら。

たかが物流。
されど物流。

むずかしいなぁ。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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