物流よもやま話 Blog

ローカル・ロジスティクス【3】

カテゴリ: 経営

― 承前 ―

地方自治体が物流機能を中心に据えた事業計画を策定する場合、二つの要素が必要であると前章までで説明した。
・食料品や日用品などの生活必需品の確保
・域内にくまなく物資がいきわたるルートや手段の用意
さらには、生活用品を入手する行為そのものが、日々の日常会話や交流のもとになっているのであればなおよいと考えている。

単身や夫婦二人世帯の増加によって、かつて多くの家庭内にあった三世帯・二世帯間の交流や扶助は減少する。
ならば「近くの他人」による、もたれあいではない協力や共同や共通という言葉で始まる労働や作業、施設利用や娯楽参加を「つながり」や「やりとり」の種にするというのも一案だと思う次第だが、読者諸氏はいかがであろうか。

あくまで物流機能を活用した自治体事業とその副次効果について述べているに過ぎないのだが、「受け取る」や「取りに行く」や「注文する」が所用や作業にとどまらない「そのうえ」や「さらに」を生み出すのではないかと期待している。
物品を得ることが、金では買えないモノを得ることにつながるのであれば、それはそれで大切にすべきことだと思う。

先々月から本年9月末まで、緊急事態に際しての特例措置として実施されているタクシー会社による出前類似サービス、、、いわゆる「タク配」や従来の道路運送法の「支援事業」(1989年認可)などが一部マスコミに取り上げられた。
そういったさまざまな試行や援用範囲拡大が、貨客混合まで踏まえた規制緩和と新措置の制定へとつながってゆけばなによりだ。
生活者の需要と利便がはっきり確認できるのなら、規制緩和に向けての速やかな対応を行政には切望する。

自治体内での生活物資流通は、今後あたりまえではなくなる。
「役所と住民が協力し、努力と工夫でなんとか維持している」といった状況が国内のあちこちで見られるようになるだろう。
道路整備が進んだおかげで、全国津々浦々への輸送経路については相当確保できているし、今後はさらに充実するだろう。青息吐息状態のローカル線とその駅を再活用する拙案も検討の価値ありではないかと思う。

「駅からのみち」第1回(コラム連載)


限られた条件の中で、組み合わせたり変形させたり順番を入れ替えたりなどの知恵や機転。
活発な発言を奨励することが、自治体活性化にとって負担少なく益多い手段となるはずだ。

モノをのせ、人をのせ、医者や福祉員をのせ、情報や通知は各家庭のテレビ端末にWEB経由で配信され、タクシーやバスの代わりに巡回する「乗り合いの域内運行車両」がテレビ画面をテレビ用リモコンの簡単な操作で自ら手配でき、そのシステム管理は自治体の役所内と委託先の企業内でミラーリングして正副体制で行う。
旅客や貨物の別にこだわる余地や理由はそこにはない。
交通インフラと物資の流通、医療福祉サービスに制限がある地域生活者にとっては、モノもヒトも同じように運んでもらわねばならない。法律にある貨客分離の大原則に従いたくても、それを別々に個人で用意する経済的余裕がなかったり、家庭内の人手が足らないのだ。
順法は国民の義務だが、その前提として国民生活の健全性や福祉寄与のために法整備や規制緩和を行うことが国の責任と理解されている。
厳密な審議と必要最低限の要件規定による規制緩和の到来を待っている。

絵描きがヘタクソなので文字一辺倒の説明で強縮だが、イメージとしてはクラウド型のネットワークシステムに酷似していると思っている。
フリーアドレスのオフィスを想像いただいてもよい。
自治体の行政内にある「地域生活総合システム」のような基幹機能が、域内のすべてのサービスを一元管理している。そのクライアント側にあるのが住民の各家庭だ。
端末はテレビがもっとも好適だろう。操作のためのリモコンはテレビのメーカーを選ばない汎用性のあるモノを自治体が調達して無償配布し、全戸をWEBでつなぐ。
たとえば、ある高齢者夫婦の一日はこうなる。

06:00 起床
06:30 テレビでニュースを観ながら、画面下部の個人宛通知や自治体広報や告知を確認
07:00 朝食時に、テレビ画面で域内送迎便(乗り合い)を08:45~09:15の指定枠に予約
08:00 テレビ画面で10:30に総合医療センター予約(送迎便で通院)
08:15 同画面で昨日注文した物品の受取を「自宅」から「地域センターで受取」に変更
08:20 画面に送迎車の予約完了と到着予定時刻(08:55~09:00)が表示
08:25 画面で今日のデジタルチラシ目通し。発注は病院後に地域センターで行うことに
08:55 送迎便到着。夫婦で乗車して先乗者達に挨拶。医療センターへ向かう
11:40 診察終了。巡回バスで地域センターへ移動。施設内の住民食堂(通称:住食)で昼食
13:30 センター内の総合サービスブースで、注文画面から朝自宅で下見した食材を発注
14:30 家電買い替えの下調べのため、総合サービスセンターの職員のヘルプ付きでWEB検索
16:30 「センターで受取」指定した食材と日用品を域内送迎車に積み込み、乗車して帰宅
17:00 夕食の支度をしながら、娘と孫娘とテレビ電話で会話
18:30 夕食
19:30 テレビ画面で明日の夫婦それぞれの仕事予定をチェック
妻は「子育て支援学童保育」の業務時間確認
夫は「庭仕事お助けサービス」の仕事の集合場所と終了予定時間確認
20:00 自治体ネットワークサービスにある映画オンデマンドチャンネルで昔の映画鑑賞
23:00 入浴後就寝

というような仮想をしてみることも必要だと思う。
読者諸氏ご推察のとおり、域内ネットワークおよび域内巡回バスや送迎自動車の車両や運行管理システムも、わざわざ一から用意する必要はない。
既製品の必要最低限の加工や表紙替えで充分であるし、車両にしてもリースで足りる。
医療・福祉サービスと一般送迎と個配作業が同一の運行車両に常時混在するのだから、事前の打ち合わせと都道府県経由で国土交通省地方運輸局への規制緩和特例の許可を得ておく必要がある。
都道府県や国に経済的な補助を極力求めないために、自助努力しやすい環境整備の請願を出すのだから、事業実施要件の確認と査定の後、速やかに規制緩和の特例を認可すべきだ。
「誰のために何をどうやって」が冷静に評価判断されるなら、その認可作業に滞りや大きな制限の生じることはないだろう。

都市集中型経済と人口動態の行く末に拡がる地域経済衰退と生活者過疎化の日陰。
今後の自治体運営において「分散」という言葉の持つ意味合いは大きく深くなるはずだ。
いくつかの機能分散による試行や実施もあるが、大きな流れには程遠い。私見だが、現状の機能分散施策では定着して有効化しにくいと思う。
もちろんきっかけとしての効果は絶大だろうし、それは国策として推進し続けてもらいたい。地方部の事情に先駆けて、東京およびその周辺部の人口過密と機能集中は、いくつかの側面でリスク過大を併存させている。
経済・行政・防災の三点は特に「分散」が火急と評せる要素だ。
しかしながら、そのような国家国論は自治体の首長以下最前線で戦う者たちの仕事ではないし、自身の役割は別にあることを承知しているはずだ。
たとえば以下のような単純で難しいお題に向き合い続けることも職責と思う次第だ。

「住んでみたい」と個々人が感じれば、転入者は増える。
「住みやすい」「暮らしに支障はない」であれば、転出者は増えない。

自治体がなすべきことは明白だ。
「このあたりは暮らしやすい」と住民が実感できる生活インフラの用意と充実と維持。
その事実を広報宣伝し、体験説明の機会を頻繁に設けることによる転入者確保。

「気の利いた住民サービスを支えているのは、物流機能を基幹とする各種技術」
そんな光景を想像して、不肖ながらも使命感をもってあれこれ考え続けている。
モノの流れに何を付加するのか。
そこを考えることは、まだまだ足らない。
生活物流に向き合う自治体と参加する企業の増加を期待している。


【2020.06.30追記】

本日午後、4市町のふるさと納税制度への参加除外を違法とする判決が最高裁判所で確定した。(共同通信の記事から)
ふるさと納税自体の運用や制度設計の改変に言及することはしないが、自治体の裁量権と独自性の拡大や明確化は、かねてより指摘してきた自助努力による自治体運営にとって追い風となるだろう。
今後はふるさと納税にとどまることなく、各自治体なりの事業で自立することが喫緊の課題となるはずだ。その方法論については、国からの宛行扶持に甘んじるばかりでなく、それぞれの自治体内での英知を結集して臨むべきと考える。

「制度を利用しての金集めが過ぎるのではないか」という他自治体からの批判があるが、それについてはどう思うか?という内容の意地悪な質問に対する千代松泉佐野市長の以下の回答には拍手して賛同する。
「他の自治体もやればよろしいではないか。時間や機会はあったはずだ」

ローカル・ロジスティクスを検討し、実用化するプロジェクトを推進する時間や機会は十分ある。国内の各地方自治体が首長以下本気でやれば何らかの成果は得られるはずだし、そのための協力は惜しまないつもりだ。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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