物流よもやま話 Blog

棚卸に澪標

カテゴリ: 経営

もう年度末。
ということは多くの企業が棚卸を行わねばならない。
皆が皆てんやわんやでわちゃわちゃに、とは限らないが、RFIDや重量センサーなどが未装備であろう多くの倉庫拠点では、混乱なくとも混雑繁忙の月末になる。
大昔から半期に一度の社内行事的オツトメと認識されているのが一般的らしく、他部署からの応援を募って乗り切るのが物流部の恒例なのだ…という企業はまだ多い。
棚卸最多実施月の3月末と9月末は、建屋によっては冷気や暑気が身に堪える時期でもある。
現場の皆様は身づくろいに抜かりなくくれぐれもご自愛くださいませ。

棚卸の季節になると、在庫にまつわる話題が多くはないが記事になる。
業界によってはコロナ禍の数年で生産調整や在庫水準の見直しを行ってきただろうし、今に至っては在庫評価の基準についても同じく再考する時を迎えているようだ。
財務状況以前に販売の見通し次第では、除却廃棄の断行を避けられない事業者は多いはず。
国税局もそのあたりを詳細に知るべく調査に入る傾向は強まるばかりと聞く。

製造業では部品や仕掛品の現状を差異なく誤記なく計上できている企業は稀なのだが、顧客に対して不義理や迷惑とならぬ限り、経営的にはあまり問題視されないことが多い。
さらにはその在庫物自体の評価が社内的なルールと国税ルールでは異なる――俗にいう「解釈の違い」というやつだが、作為的な虚偽計上や評価している事例よりも、「それのどこが悪いのだ」という悪意なき錯誤状態が税務エラーとして指摘を受けるほうが圧倒的に多い。

不肖ワタクシも何度となくそういう場に立ち会ってきたし、相談を受けることも多い。
が、本来は物流部門の守備範囲ではなく、営業体と経営企画系の財務部門が検証すべき分野。なぜなら物流や経理は事業が生み出すあるがままの数値を規定どおりに分類計上し、その過程と結果の双方において一切の改変や何らかの意思が作用する修正を行ってはならない部門だからだ。その範を冒せば正しい数字が不明となり、やがて経営が曲がりくねり、昏く荒む。

なので、相談に対する応答は、
「在庫のステータス区分数を最少化すると同時に、在庫修正や調整ができる権限の明確化と承認手順のルートと書式厳守を社内通達し、その手順外ならモノは動かさない」
という内容ぐらいに止める。
もちろんその段取りは経営決定してもらう必要があることも付け加える。

在庫にまつわるデータ処理や引当前後の一時的な切り分け(取り置き的な状態)などの社内規定が会社によって異なるのはアタリマエにしても、程度というものがあるはず。
たとえば引当可能在庫としてのステータス(要は販売先属性や販売態様による区分)以外に、仕掛品や返品再入庫状態・再入荷検品待ちとマークダウン対象などの一時保留の期間専用に用意される在庫データ区分、除却対象品に大区分・中区分・小区分があったり、、などは一定の理解ができる。が、あくまで顧客都合や要望を考慮し、便宜上認められているに過ぎない。

過去には在庫ステータスだけで500超、それにぶら下がる区分まで数えると2000超の在庫分類が存在した関与先もあった。今は抜本的に改変して簡素化されているものの、読者ご賢察のとおり、そのような過剰なデータ区分の半分以上が有名無実状態の不要枠だった。ちなみに、売上規模や販路数を理由とするのは初歩的な誤認である、と蛇足ながら添えておく。

似たような状況や傾向に陥っている事業者の物流部門各位は、棚卸に先んじて、在庫取扱いに関与する他部門と共に在庫区分の改廃・集約作業に着手してはいかがだろうか。
棚卸準備のための会議の席などで議題として切り出すことが多い上記内容だが、経営から号令がかかってから改善完了までの期間はそこそこ要するのが常である。
物流部門内でのルール策定と徹底は短期間で完了するにしても、営業各位と製造や調達、そして財務などの「各数および総数よりも各金額および総金額」を最重要項目に挙げる部門がルール決定にかかわるので、その折合いには時間がかかる。

ずいぶん前に関与先で以下のようなハナシをしたことがある。

数多の企業ではまるで河川のごとく、経営起点から始まる事業の上流・中流・下流に至る流域内で、さまざまな曲折ゆえの氾濫やそれを防止するダムが設けられている。水源から湧き出た清冽な水は、下流に到達する頃には少し濁って見通しが悪くなったり、淀んで流れているのかいないのかさえ目を凝らさねばわからない川相となっている場所もある。
物流部門はその最下流に位置し、下流域から市場という海に注ぎ込む河口部までの役割をはたしているわけだ。

「放っておいても流れは海に出てゆく」
と信じて疑わない方々にお伝えしたい。

河口部に近づくほどに両岸の間隔は拡がり、川底は浅くなってゆく。洪水防止の堤防と川幅拡大の整備工事によるものなのだが、よく観察すると川底には堆積している大量の砂や埋もれて見え隠れしている丸い石がたくさんあることに気付く。砂には「端数や廃棄未遂物」と浮き上がる文字が読み取れ、丸い石には「妥協や先送りのなれの果て」と記されている。
言うまでもなく、すべて上流や中流から流れついたのだ。

そのまま放置すれば、川底はせり上がり河口部をふさぐような高さに迫る。上流から大量の雨水が流れてくれば、中流・下流域では水位上昇による堤防決壊のおそれも否めない。
なので平時から河口付近では浚渫(しゅんせつ)工事が欠かせないのだ。
もちろんすべての河川で必ず必要というわけではないが、久しく平野部に流域の過半を有する河川ならば、多くの場合河口部には流れ着いた砂泥が日々堆積し続けている。

在庫についても同様の理屈が当てはまる。滞留する商材や資材をこまめに処分しなければ、市場への開口部たる倉庫機能が重く鈍くなる。
棚卸は財産算定の目途と共に、会社の水流たる商材の流れ方を測定する機会でもある。
暑かったり寒かったり面倒だったりクタクタになったりするが、地道さが報われる作業であるし、税法が変わらぬ限り事業者には不可避の責務なのだ。文明の利器を導入できない多くの企業では、今年も来年もみんなでこなさねばならぬ区切りである。

在庫にまつわる不正が多いことは事実。
真面目にやっている会社にとって性悪説は不本意でしかないものの、事業版火盗改は「お縄が嫌なら洗いざらい全部吐いちまいな」と相手かまわず立ち入るのだ。
申告不備による納税違反に該当する事実がなく、錯誤修正で済むのなら、それ以上は粘らずに手ぶらで帰ってほしいもんだが、鬼平としてはなかなかそうもゆかぬらしい。

あれれ、堆積物による浅い河口部の浚渫に絡めて「澪標」のハナシに振るつもりが…
もちろん「光る君へ」にも目配せしつつ第十四帖を伏線としてまくらにおいて。
なんていうのはまた別の稿にて。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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