物流よもやま話 Blog

補助輪

カテゴリ: 経営

倉庫を持たずに物流業務を丸ごと外部委託したり、自社物流の庫内業務を委託している会社のほとんどは、すでに自社で内製化できる素地が相当に整っている。
少し乱暴に聞こえるかもしれないが、現実には委託先に上手く使われている状態が常であるからなのだ。
チャリンコでこけると痛いし危ないので、補助輪つけて走っているうち、外してもゼンゼン大丈夫になっていた。
それどころか、いつのまにか自社が委託先の品質維持やら効率性維持や宣伝用素材のための補助輪になっている、というようなホラーみたいな実話がよくある。
いつから?

モチロン最初からです。

どっちがどうでも結果が出ていればよい。
容認できるコストに収まっているなら問題ない。
顧客からのクレームが許容範囲内で、業務の圧が下がり、労働環境が改善していればよい。
経営問題は他にもたくさんある。物流のハナシはこれぐらいにして、次の議題に移ろう。
という毎度の流れで現状維持が疑義なしで決まる。

塾に行く。家庭教師をつける。教え方のうまい先生に巡りあった子供は点数が上がる。
勉強するのが楽しくなって、ガミガミ言わなくてもやるようになる。
そして志望校に合格する。
勉強したのも合格したのも生徒自身だ。
家庭教師や塾は補助輪であり動機付けであり、合格したら必要なくなる。

物流業務の「志望校に合格」とはどういう状態を指すのだろうか?
業務ミスが少なくなり顧客クレームが減って人員配置が安定。
自社ならこんな状態か。
外部倉庫ならどうだろう。
基本的には社内で入出荷データの処理を毎日こなしていれば、委託先では何も起こらない。
たまに確認や問合せの電話やメールが届くが、そんなに難しい内容ではない。
しかし合格するとか卒業するとかいう区切りの感覚は皆無。
もはや会社の機能の一部となっているので、問題が起こらない限りはこのままでいい。
むしろ変えるほうがおかしい。
こんな感じが理想形なのだろう。

自社にしろ委託にしろ「起こりえる問題」の中で最も大きいのは、売上不振や利益減によるコストの見直しが回避できなくなることだ。
社内の全部門にコストダウン、コストカットの数値目標が飛ぶ。
前職では一番多い問合せ動機だった。
もちろん表面上は違う理由を述べられるのだが、実務のヒアリングに入ればなぜ内製から委託に変更したいのか、もしくは委託先を変えたいのかが瞭然とする。
「理由」として多いのは下記のようなものだ。

内製→外部委託なら、
「経営原資の有効活用のため、物流は外部委託が最適と決定した」
「倉庫の労働力確保と品質維持に苦しんでおり、総合的に判断した結果として」
「専門企業である営業倉庫会社に委託することで、物流機能の強化を図る」

外部委託先の変更なら、
「現倉庫とはコミュニケーションに問題が」
「キャパの硬直化で」
「システム対応が今ひとつなので」

確かにそうかもしれない。述べている中身に嘘や偽りはないだろう。
しかし実は「委託先が値下げに応じてくれない」もしくは「相手が値上げ要請を譲らない」が本当の、、、というより第一の理由であることが多かった。

今からの時代、上昇する一方の労務・配送コストを負担することは、内製・委託の別なく不可避となる。セミナーや研修では再三説明してきたが、外部委託しているからといって安く済んでいるなどということはあり得ないと承知するべきだ。委託先にもよるが、相当割高な労務費や事務費を転嫁された請求書が届いているかもしれない。請求書のどの行に「乗っけて」あるのか?は説明するまでもないだろう。

保管料についてだが、今現在も安くて程度のいい築後10~20年程度の倉庫がたくさん空いているし、今後ますます増える。需給バランスが崩れ、増加一途の中古倉庫の賃貸・売買情報は、消化能力の限界に達している物流業界内部だけにとどめておくことなど不可能なのだ。
したがって、一般の事業会社にも「複数拠点運用の大手事業会社か物流関連企業」相手だった倉庫の床情報が入るようになる。今までは倉庫会社の原価として表面化しなかった情報がたやすく入手できるだろう。

素朴な疑問なのだが、なぜ自社で物流をやってみようと思わないのだろう?

初期コスト?
面倒?
重い?
建屋を賃借で手当てするなら、立上げの初期コストは長くても一年以内で回収できるのに。
面倒で管理するものが増えるのは避けたい?
そういう経営者の心理はたくさん聴いてきたが、自前の理屈で完結できる独立独歩の経営体質を目指す価値も検討してほしいと願う。
それに自社物流の運営はさほど大ごとな準備と設えと過重な維持管理が必要なわけでもない。
正しくアテンドする者がいれば、外部委託する手間よりもやや多く段取りがあるだけだ。
ロジ・ターミナルの補助輪は自社物流機能が「自走」して安定し始めた頃に音もなく消える。
その後には改定したルールどおりに業務を行い、毎日のルーティンの各項目チェックを欠かさなければよい。自ずとその企業としての業務品質を裏切らない現場が実現する。

聴いていて、「この会社、間違いなく内製化できるんだけどなぁ」と何度思ったことか。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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