物流よもやま話 Blog

個店ECやBOPIS促進なら店内倉庫が必要

カテゴリ: 予測

そろそろ一般化するだろうと予想しているのはダークストア(EC専用の倉庫や店舗類似施設の総称)という言葉なのだが、欧米の後追い普及とはならないと考えている。
私はマーケティングの専門家ではないので、あくまで物流現場から世間を眺めて感じたり思ったりすることを書いているに過ぎない。しかしながら国内の倉庫や運送の諸事情と人口動態などを数値から考察すれば、往く道は自ずと限られてくるのではないかと思える。
掲題の言葉はそんな思考の中で浮かんだものだ。

自論として発言してきたのは「日本国内ではC&CではなくBOPISの方が消費者心情に合っているような気がするし、物流サービスの発展形としても好適」という内容だ。
そのヒントとなる根拠事例として、アメリカ合衆国におけるアマゾンとウォルマートの競合が生み出した消費行動の起承転結を挙げてきた。
そこにわが国が抱える少子高齢化によるエッセンシャルワーカーの絶対数減少がもたらす「個配総量の頭打ち」を加味して考えると、いわゆる「宅配」は個配総数内での比率を下げざるを得ないこと必至である。ならば「どこでどのように受け取るのか」が論点になるが、私造語として「受動的受領」と「能動的受領」という表現を用いて説明もしてきた。

「『受け取りかた』が物流を変えるとしたら」第2回

能動的受領(受取日時・場所とその他用件までを複合的に考慮可能な受領形態)であっても、駅やコンビニなど、単に生活動線上にあるという理由を第一に置いてのサービス利用頻度はあまり向上しないだろうと考えている。
なぜなら消費者はECと実店舗の垣根をたいして意識しておらず、単純に合理的で便利で自らの嗜好を満たす選択を行っているにすぎないからだ。
リピート使用する生活定番品や必需品は価格チェックを怠らずにルーティン購買している人が多く、その手法としてECほど適したツールはない。時間や場所に縛られずに発注でき、受領方法も選択できるから、、、という説明はもはや無用である。さりとてEC全能論や完結型購買による新興経済圏の増殖はよくできたハナシとして聞いたり読んだりする分には楽しいが、生身の人間様たちは理屈や合理性一辺倒には行動しない。

その実証のひとつとしてUSAでのアマゾンVSウォルマートの競合内容や統計値がある。
数ある検証結果の中でも特に興味深いのは、ウォルマートの挽回躍進をひも解いた際に判明した「人はたいした用もなく店舗を訪れるし、予約品の受け取りという目的を遂げてもそのまま帰路にはつかないものだ」という誰もが知っている事実である。
もちろんECでも「ついで買い」や「衝動買い」は発生する。違うのは同行者や家族全員が連鎖購買するような可能性が低いことと、BOPIS利用者に発行される魅力多い各種クーポンによる購買意欲が売場臨場感によって誘発されやすいという点だろう。
旧態依然とした既視感ではなく新鮮な興味を抱かせたのは、誰でも知っていることを、過去に事例がないほど徹底的にこだわり、企画を研ぎすまして消費者に投げかけ続けた点だ。
それゆえに米国のGMSはBOPIS対応のための店舗改装や売場改変に尽力し、それなりの成果を上げてきた。アマゾンメソッドを理解し、研究をつくしたうえで、店舗小売りの正攻法を追求し続ける姿には一目置くべきというのがワタクシの素直な感想である。

で、自論たる「今後の日本はBOPISもしくは代行型BOPISが隆盛するはず」となるなら、冒頭で記した「ダークストア」型の施設よりも小売店舗併設型倉庫の必要性が高まる。
さらに付け加えれば、その発展形の普及に障害は少ないとも考えている。なくても支障ない売り場を整理して、一層もしくは二層をストック場所に転用すればよいからだ。
店舗と倉庫の複合型施設こそがこれから必要とされる機能であり、現状のたどたどしく段取り悪い「売り場での店内ピッキング」は極限まで減じることができるだろう。パート従業員が店内カートにカゴを載せて、手にした「ネットスーパー納品書に似たピッキングリスト」を何度も確認しつつウロウロしたり、棚前で「えーっと」的宝探しをしたりは不効率で不合理と店舗責任者は感じているに違いない。個店EC自体の需要を確信している人物ほど、現状の押っつけ型中途半端作業を苦々しく感じているに違いないのではないかと、勝手に慮っている次第だ。

在庫保管拠点は少ない方がよい、という物流屋の理屈は業態によって通じなくなりつつある。
物流網の拡張や細分化は巨大倉庫の実用性と実需の評価を変質させるだろう。買うことと受け取ることの時差や場所相違に、特殊さや特別感を抱く者はいない世の中になる。
ECで予約して、実店舗で追加購買して、まとめて自動車で持ち帰るのか、配送そのものは店舗に委ねるのかを適宜選択する消費者たち。
細やかで綿密なサービス提供は日本人の得意とするところ。
先行する欧米型の類似サービスを凌ぐ内容のメニューや仕組が開発されると信じているし、その先には進行する高齢化社会での生活物資購買支援機能を見据えて欲しいと願う。

かたやで、全く別角度からの作用として、温暖化による気象変化がもたらす生鮮品の供給不安は冷凍食品やレトルト食品の必要性を急速に高めている。食品市場の構造変革が消費の最前線たる売場を変え、そのバックヤードも変えてゆくのだとしたら。
巨大な冷凍・冷蔵庫付設のGMSを夢想するのは私だけなのか。

以上のような予測や想念から、店舗主導型のサービスが発展すると考える。
併せて高齢化で自動車運転の問題をいかに考えるか、は国として不可避の命題だ。
地域交通の衰退問題は一朝一夕に解決できるものではないと承知している。

でもきっとなんとかなるだろう。悲観しても仕方ないではないか。
半自動化か完全自動化したビークルの登場はもはや確実なのだ。公的支援に限界があるなら、あとは自助努力しかない。先進ビークル優遇や通行保護の環境整備には大いに期待したい。
年寄や障碍者が我慢したり控えたりしてきた分野が減じてゆくに違いないはずだ。
社会参加やコミュニティ維持の機能としても、小売店舗の集客力は可能性の種となるだろう。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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