物流よもやま話 Blog

物流規格と技術輸出

カテゴリ: 予測

物流拠点は少ない方がいい。
理想は一拠点ですべてまかなうこと。
そう主張し続けてきた。
複数拠点間の在庫管理、人員管理、品質管理、などの平準化には困難が付いてまとうし、運用コストは拠点数の増加とともに歩留まりが悪くなってゆくからだ。
特に中小企業の自社物流なら直感的に「多拠点は悪」と判断することがほとんどで、実際にコスト比較のシミュレーションを行えば具体的な根拠が得られる。
最初の直感は正しかった、という結果に終わるだろう。

しかしながら、主張の裏側で「もしもこうなるなら」という全く異なる視点で考えた別案があったのだが、以前の環境では夢物語に近かった。
実現できないことがわかっていて理想満載の「もしも」を文章にしようとは思わないし、欧米や日本以外のアジア圏では当たり前のスキームとして一般化するだろうから、そのうちだれかれともなく話題にするだろう。という後ろ向きな諦めで書き控えていたのだった。

「日本国内を一つの倉庫として運用できないだろうか」

がその理想というやつだった。
現段階での発表の有無にはばらつきがあるものの、大手の物流企業がやっと重い腰を上げて全荷主共通のプラットフォームによる寄託契約を開始した。
本来はそうあるべきで、実はすでにアマゾンやアリババでは先行実施されているのだが、情報の見せ方や説明が異なるために、利用者側には同じものだという認識ができにくい。

極論を言えば、国内に物流のプラットフォームはひとつでいい。
JISが唯一無二であるように、日本物流規格:JLS(Japan Logistics Standard)を同旨で創設し、物流会社および事業会社の物流部門が忠実に準拠するようにすればさまざまな問題が一気に解決する。欲を言えば、JISよりもさらに踏み込んだ、具体的で詳細な規格設計と運用ルールの厳密化を望む。よくある「解釈によって異なる」ようなゆるく甘い説明や表現は厳禁として、国内企業のすべてが準拠する規格ができれば素晴らしい成果が期待できる。

「〇〇〇株式会社の物流プラットフォーム」「株式会社〇〇〇〇のWMS」などという表現は無用となる。JSL準拠のWMSを運用する物流倉庫が圧倒的多数で、それは正当な営業倉庫もしくは自社物流倉庫である。運用しなければ、共通化されている仕組やデータ処理のコストと時間のメリットやリスク管理の共有システムへの参加ができなくなってしまうので、圧倒的に不効率で脆弱な業務体制となる。

規格準拠企業間には、同一荷主の物流業務フローはひとつしか存在せず、人件費の地域差以外の違いはないはずだ。つまり物流会社や自社物流倉庫の組織や仕組やデータ通行の壁が取り払われるため、グループ化された企業集団は、ひとつの仮想倉庫として稼働する。各企業の各施設の各階の各区画は、仮想同一倉庫内のロケーションのひとつとして存在し、同じロケーションが別都道府県の別企業の倉庫内にもある。
これは素晴らしい可能性を秘めている。
多拠点への在庫分散による所要時間の短縮ができるにもかかわらず、各都道府県別の最低賃金に由来する人件費以外のコストは単一拠点での集約業務と近似する。

もちろん物流の対象となる物品に持たせるマスターコード規格の統一やマテハンの仕様共通化が必要不可欠だが、そこは国の出番である。
国内物流規格の制定は国土交通省の大きな仕事になるだろう。現在も別趣旨の規格化・国際標準化が論じられているようだが、少し視点を変えての議論も盛り込んでほしいと願う。
以前書いた「みんなの記号」が変革への小さなきっかけになれば幸甚。
デファクト化の呼び水として、国が基本構想と趣旨、具体的なスケジュールの明示、実施後の効果予想を提示すれば、荷主企業と消費者の得るものははかりしれない。

特に荷主企業にとっては、同一建屋内の各階をまたぐのみならず、複数の異なる倉庫建屋をまたぎ、国内の地域をまたぐ共通規格・均一品質の物流サービスを提供できる。
現在の各拠点はデータ連携以外はすべてスタンドアローンであり、何もかもが個別に完結している。
しかし、プラットフォームの共通運用によって、建屋だけでなく地域からも区分線が消え、国内すべてがフリーロケーション化している状態になる。

図示していないのでわかりにくいが、どこの倉庫のどの階のどの区画に荷があろうとも、業務には全く支障ない状態となるのだ。
そしてそれはJLSという国内の統一規格のお墨付きで運用されている。
拒む理由はないはずだと思うが、いかがだろうか。

最大の難所は規格準拠、共通システム、没個性のハード提供、同一基準による従量収入――に大手をはじめとする物流会社や事業会社が首肯して参加するという点だ。
独禁法との整合も考慮する必要があるし、結果的には面従腹背よろしく企業グループ別にしか準拠・運用しない、取扱量の一部のみ適用、など、結局は先細って有名無実化する今までのパターンが懸念される。

多品種少量生産の典型のような物流技術や仕組の蔓延が、企業の物流コスト低減を妨げ、そのしわ寄せは余すところなく消費者に及ぶ。
可能性のひとつとして、考えることぐらいは始めてもらいたいと切望する。

夢が理想になり、やがて目的となる。
目的となる成果を目標として目指す。
日本人は課題を具体化し、計画的に進めることが得意だ。国と企業が「できる」と頷けば、物流は大変革の時を迎える。
そんな状態になれば国内物流技術は一気に世界中から注目される。かつての製造業がそうであったように、技術というノウハウ付きの物流倉庫設計と監理ごと他国のインフラとして輸出できるようになるのではないだろうか。たとえば新幹線をはじめとする運行ノウハウ付き鉄道建設や高速道路、上下水システムなどがそうであるように。

本記事の内容についてはさらに掘り下げて書くつもりだが、それは場所を変えての掲載となりそうだ。
今回の掲載は予告編のような内容になってしまったが、寄稿文はそれなりの内容となることをお約束する。

 

【2020.06.09追記】

LOGISTICS TODAYに本稿をさらに掘り下げた連載が掲載されております。
併せてご参照ください。

日本製の物流プラットフォーム 第1回(10回連載予定)
~求められる日本物流規格:JLS(Japan Logistics Standard)~

「日本製の物流プラットフォーム」第1回コラム連載

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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