今夏も線状降水帯による豪雨災害が毎日報道されている。
水害と聞けば、河川沿いの低地やアンダーパスを連想しがちだが、近年の水害は想定の及ばぬ場所での発生が目立つように思う。
なかでも各地の都市部で多発している内水氾濫による冠水被害の映像――マンホールの蓋が吹き飛ばされたり、暗渠が満水状態となり逆流したり――に付されるインタビューや解説などは「そんなことが起こるなんて想像すらしなかった」といった唖然の態が常だ。
都市型の排水機能破綻に限らず、土砂崩れや地盤崩壊を含む水害が多発しているので、誰しもが備えや警戒を怠らぬようになりつつあるのは明らか。にもかかわらず、天災はいつだって人間の想像や防除の備えを一瞬で超え、多大な被害をもたらす。
それは物流に携わる者にとっても同様で、側溝の清掃や土嚢備えなどがまったく用をなさぬ水害が拠点を襲う。立地によっては庫内浸水や駐車車両が水に浸かる被害に見舞われている。
過去に一度も水害に遭ったことのないエリアでの被害は、物理的な実損以上に心理的な挫折感や喪失感が強く、「同じような大雨がまた降ったら」という不安を抱えて辛いと聞く。
「うちはどんな備えをすればよいのでしょうか」
という問いに明確で有効な助言ができぬ自身がもどかしいが、消防を中心とする自治体としての対応や、近隣エリアの地域防災計画を参照しても、ハザードマップの確認と速やかな避難の仔細が記されているのみで、能動的な対応策は見当たらない。自然相手に「なんとかしよう」と画策すること自体が無謀なのだ、、、というのが現状であり、その実態は太古の昔から変わっていないと今さらながらに思い知る。
小さなことからコツコツと、、、に肯き実行するならば、棚下にパレットを敷いて14~15センチぐらいの高さを稼ぐなどは定番の方策である。なんと言ってもお金があんまりかからないし、自前ですぐにできる。後付けの止水装置などは見積額と工期を知れば現実味が遠のく事業所が大多数を占めるだろう。そもそも自社拠点の水害想定自体が「ほんとうにこれでよいのか」という疑念を払拭できないのはどこもかしこも似たような実状だと承知している。
「防災ため」という正論によって日々の努力で整然を保っている内観が雑然と化す不本意や、地震の際にパレットから棚が滑りズレて傾くのでは?という懸念も理解したうえで書いているつもりだが、これ以上の即応策を持ち合わせていない拙者をお赦し願いたい。
被災時の初動の第一は人間の避難であり、物品や設備の保護保全は二の次である。
命あっての物種を疑わぬにしても、命があったその後の日常を想うと、我われのような物流屋が「天災ゆえに不可抗力、、とはいえ最少の被害で」と願い画策するのは当然である。
既存建屋の立地について〇×を付けたとしても、移転や建替えが叶うわけではない事業者がほとんどであるのなら、結局は対処療法的措置とならざるを得ない。
すなわち土嚢の準備や側溝の拡大工事(公共下水との調整が必要)、床上げの代替として棚下にパレット設置などであるが、その他低コストで着手容易な有効策が講じられているなら是非他社に公開願いたい。
と書いている今週頭も東海・関東エリアでの線状降水帯による大雨警報が発せられている。
いまや九州はもとより夏季には本州から北海道までが亜熱帯化しつつある気がしてならない。暴風雨や高温の持続性や頻度は体験したことのないものであるのがその証左。
水害に限らず温度変化についても想定外が続くのだから、物流現場の働きかたや働く時間も相応に変えなければならない。
生理的限界を超えるような暑気や湿気に生身で抗うような愚は厳禁とするのは常識として共有されつつあり、事実多くの事業所では酷暑となる特定期間の日中労働を回避する動きを強めている。その代替として早朝と夜間の稼働を導入する事業者の数は年々増えつつあるが、もう一歩踏み込んで「曜日と時間帯の常識を見直す」ところに至っていただきたい。
たとえば土日祝祭日の休日出勤手当や早朝夜間の割増報酬などは求人時の募集要項次第で廃止や改変できるし、たびたび取り上げる6時間労働のススメについても同様だ。
雇用側の想像以上に労働曜日と時間帯の多様化は進んでいる。老若男女を問わぬ単身世帯の増加と非正規労働者の労務待遇改善(まだまだ足らぬ点が多い)は、一年365日・一日24時間の時間割を大きく変容させつつある。もちろん「やむなく」」「不本意ながら」という人々も多いが、「すすんで」「好んで」夜間早朝や土日祝祭日や世間一般の大型連休期間に働く人の比率は確実に高まっている。その傾向について評価する立場にないが、「もう止まらぬだろう」という実感は強まるばかりだ。
そういう情報をより多くの業界人が共有できるよう、メディアをはじめ各事業者の広報は積極的に発信願う。併せて荷主を巻き込んでの「止める」「時間猶予」のアタリマエ化を根気強く推し進めていただきたい。
このハナシがピンとこない経営層は、とにもかくにも現場を歩くべきだ。
酷暑の日中にヤードや庫内で30分過ごす機会があるなら、拙文など読む必要はない。
永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。
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