「梱包の際に使う緩衝材について何か変化がありますか?」
という質問をキャリア30年以上のベテラン連中にしたとする。
おそらくきっと「根本的には変わらんままだねぇ」という返事が返ってくるだろう。
梱包材一般について“進化していない”とは誰も思っていない。
が、“梱包作業自体は旧態依然のままである”というのが大多数の認識だろうし、それは看過できぬほどの支障や不都合を感じていないから、と解してよいだろう。
作業者個々の「こうなればよいのに」「こんなのがほしい」「素材を変えたほうがよい」などの「現場なり・作業なり・扱い品なり」による要望は常にあるはずだが、梱包材自体の大変革が求められるような事態に至ったことは過去にも今も起こっていない。過去に自動梱包装置を導入した事業所の今については読者諸氏ご周知のとおりである。
梱包材の中でも「あんまり変わらんなぁ」と思うのが冒頭に述べた緩衝材の類である。
もちろん素材の進化や環境配慮は承知しているし、素材メーカーと現場設備メーカーの努力には頭が下がる。細やかな創意工夫にも拍手と称賛を惜しまぬ。
しかしながら、
「緩衝材は緩衝材のままであるし、昭和の時代の蔵人たちが現在の緩衝材を目にしたとしても驚きや感嘆の声は上げないだろう」
というのが正直な実感だ。
「ほかのモノは激変していると思うが、保管什器や梱包材の類はあんまり変わらんね」
と昭和のオジオバたちはつぶやきそうだ。
EC興隆で資材市場拡大の今となっても、緩衝材については迷走状態か改善停滞状態のままという現場が多い。簡易包装・梱包の掛け声盛んで、実施も進んでいるものの、受領者がいざ開梱してみれば「とにかくズレないように・偏らないように・カドあて・へこみなどがないように」と「これでもかっ!」ぐらい緩衝材が詰め込まれている。
購買品よりも緩衝材の占める容積のほうが多いのでは?とタメイキ吐きつつ、その始末がひと仕事――という簡素やエコロジーからはほど遠い実態は誰しも体験済みだと思う。
緩衝材の素材についても、紙派とポリ派と併用派ぐらいの差ぐらいしかない。
ポリエチレン素材のエアクッション型緩衝材は、生分解型から世界標準のリサイクル素材型にシフトしつつあるものの、作業性自体の変革に至るような進化はみられぬままだ。
先日デモしてもらったシールドエアー社製のエアクッション型緩衝材は使用者による切り取りのピッチが可変でしかも手でちぎれる。さらには開梱後の始末の際にも刃物無用で簡易にエアが抜けて小さく取りまとめることができる優れモノだった。
かと思えば、この数年来アマゾンのFC発送分については緩衝材は平紙(私の知る限り紙種は二型)のみで、かつてのようなポリ系エアクッションが使用されていないように思う――全国のAmazonFCの実情を把握しているわけではないので、あくまで個人の感想にとどまる点はご了承願う。
というように現場での作業手許では気の利いた工夫や進化がみられるものの、梱包手順自体はひと昔もふた昔も前からあまり変わっていない。
EC関連の物流市場が拡大したことで、梱包手間は増加し、棚運用の倉庫現場が増えたことで必要床面積も増加し、梱包個口数が増えたため資材の消費量も増加した。
しかしながら単純に増えただけという感は否めず、倹約始末とは真逆の「やたらめったら充填緩衝材を使う」作業現場が多いような気がするのは私だけなのか、、、
ハナシが拡がりそうなのでこのへんでやめておくが、自動化や省人化などを命題として方法論のロボットや機械による現場作業の代替・補完・補助が謳われて久しい。
かたやで、
「運送中に中で傷がついたりへこんだりしたらタイヘン…」
「箱や袋内で角当てや曲がりなどのおそれがないように」
「またクレームにならぬようにより厳重で多めの緩衝材使用を」
というロボットなら抱かぬであろう心情が絶えぬ現場は以前に増して多くなる。特にECの物流作業は消費者直結なので、内容に対するクレームが即座に忌憚なく返ってくる。
そうなると過剰梱包・過剰緩衝は減らぬ――エコも簡素もあったもんではない、、、という現場の声をエラソーに代弁する立場にないが、事実として書いておく。
「デリケートな扱い品は梱包せずにフトン(毛布などの柔らかい素材の当て布の俗称)をまいて、裸で運ぶのが最善。ヘタに梱包するから扱いが雑になるのだ」
という先達の言葉が脳裏を過った。
今書いても詮無いこと、、なのはわかっているのだが。
永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。
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