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近年の傾向として物流施設の敷地内に樹木を植えたり、花壇を設けたりしなくなっている。
主たる理由はふたつ。
・防火防犯の問題
・維持管理の問題
が一般的だが、それら理由による植栽等の要・不要の是非については、事業者によって大きな違いがあるようだ。
上記のようなネガティブ(植栽不要もしくは最小限度)派の意見としては、
・火災と延焼の防除
・敷地内の死角排除の一環→侵入者による盗難や放火リスクの低減
・昆虫や鳥類の発生と繁殖による建屋内侵入とその被害リスクを排除
・植栽等の維持管理費が重い
かたやで肯定派の意見としては、
・防風・防砂(地域性によるところ大)
・緑化によるCO2削減寄与と建屋及び地面の高温抑制効果
・ストレス軽減やリラックス促進、疲労回復などの心理的・生理的な効果
・緑化景観がもたらす企業イメージの向上
のように消極もしくは否定派と積極派(肯定派)の双方に相応の合理性がある。
第三者的には、
「コンクリートとアスファルトと金属でできている施設よりも緑多い環境で…」
となりがちだが、施設管理者や所有者としては、
「緑化や景観保持には廉からぬコストがかかるので世間体やイメージ先行的な運営は難しい」
となることも現実問題として根強い。
この件、読者諸氏の所属先がどのような物流形態なのかによって向き合い方や是非にかなりの差異があるだろうし、物流施設に限ったハナシではないとも言えよう。
なので一般論としての物言いはあえてせず、うちの業界の実情だけで述べたい。
前段の「植栽等に関する物流施設敷地内の緑化問題について」を考えるにあたり、単純に、
「自社所有倉庫か否か」×「業務内製か否か」
の4パターンで区分できそうな気がしている。
つまり、下記4区分である。
1.自社倉庫×業務内製化
2.自社倉庫×業務委託
3.賃借倉庫×業務内製化
4.完全外部委託
以下はあくまでワタクシが見聞きした実態を基にした類推であって、客観的データから導いたファクトではないので、その点はご承知の上でお読みいただきたい。
1.自社倉庫×業務内製化
この組み合わせが、“敷地内植栽あり”の最多パターンであると思える。
竣工時に植えた樹木が敷地境界線の過半以上に茂り、花壇や人工池、芝生の区画に設けられた東屋やベンチなど、ちょっとした保養施設の観も感じられそうなものから、グラウンドや体育館併設といった物件まで多種多彩である。
言うまでもなく廉からぬ年間維持費が必要なので、年々減りつつある。
2.自社倉庫×業務委託
この組み合わせも漸減の一途となっているが、新興のドラッグストア運営会社などがエリアごとの物流倉庫として積極展開していたりで、未だ少なからず存在している。
挙げた4パターンの中で、様相が極端に異なることが多いわけだが、
「○○○を除去もしくは削減してもらわなければ、防火や防災上の責任を負えません」
という業務受託者側からの申し入れで既存の景観が変わってしまうことはめずらしくない。
読者諸氏の中にも体験者がいらっしゃるかもしれぬが、外部者が施設初訪時に敷地内で感じる「ん?」という違和感の原因は、何らかの理由で除去された植栽等の後に残った空地や代替設置物によることがほとんどだと思う。
3.賃借倉庫×業務内製化
出来合いの賃借倉庫ゆえに大がかりな緑化を施しにくい。
契約にある原状回復義務以前の問題として、敷地内の外観変貌や隣地とのトラブルになりえる工事や設置物を認めない貸主は多い。特に敷地内の空地部分や外壁の施工にはいい顔をしない貸主が多いのは経験上の実感としてある。
4.完全外部委託
身もふたもないが、荷主要望の及ばぬ範疇。一棟占有ならば人工の観葉植物を庫内の数か所に設置してもらう、、、ぐらいがせいぜい。雑居倉庫なら寄託物以外は一切不可が通常。
冒頭次段で挙げた防火防犯の問題はあくまで建前的説明であることが常で、敷地全体というよりも建屋についてのハナシの延長で語られるのが実態としては多いはずだ。
維持管理のコスト問題が否定消極派の主たる理由であるし、その明細の大部分が手間賃であることも財布のひもをゆるめにくい主因のひとつなのだろう。
とはいえ、自社倉庫の中には敷地の一部が雑木林のまま手つかずで、そこには自生している栗や無花果や柿や枇杷の木が幾本もあり、季節ごとに果実を恵んでくれる。当然ながら鳥も小動物もやってくるが、それを「害」だとする社員はいない――というハナシも添えておく。
無機質な外構と地面と建屋。
機械化された庫内。
というのが防災上も防犯上も経営上もよろしい。
気候温暖化と労働人口急減への解が他にないならいたしかたない。
と書きたくないのはやまやまだが、別案が出せぬ拙身が恨めしい限りだ。
永田利紀(ながたとしき)
							大阪 泉州育ち。
							1988年慶應義塾大学卒業
							企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。
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