物流よもやま話 Blog

バッパと手待ちの落し穴

カテゴリ: 実態

日本の陸上競技の中で、近年躍進目覚ましい種目の一つに男子の4×100mリレー(陸上競技の経験者は ‘ ヨンケイ ’ という)がある。
個人種目では世界のファイナリスト・レベルに今一歩及ばない日本の短距離走者が、4人揃うとメダルを狙える記録をたたき出す。
その理由はバッパ(バトン・パスのこと:もしや大阪ローカル短縮言葉なのか?)にある。
400mリレーでの3回のバトン・パス技術が各人の走力劣勢を補っているのだ。

言うまでもなく、100m走は百分の一秒を競う競技。
したがってその順位の差は上位なら大きくとも十分の一秒内であることがほとんどであり、千分の一秒を刻む画像が伴わなければ着順の明確な瞬時判別は一般人には難しいことも多い。
しかし、身を削るような百分の一秒のアドバンテージが一瞬で消え去る場面がある。
それはバッパの出来不出来だ。
合衆国のナショナルチームに少なからずあるが、バッパでスピードがおちてしまったり、ひどい場合にはバトンが渡らなかったり、落っことしたり。
そのロスは走力の圧倒的優位を打ち消すどころか、逆にマイナスになってしまうことも。
さまざまなチームのそんな場面を目の当たりにした方々は多いと思う。
日本が個人記録で劣っても、十分に勝負できる理由はまさにそこにある。
今後個人の走力が更に向上し、国際大会でファイナリストに名を連ねるようになってくれば、ヨンケイで表彰台の真中に立つ可能性は高い。

余談の前置きが長くなりすぎたが、物流現場でもほぼ同一の事象が頻発している。
人間が作業するかぎり、追及してもゼロになることはないのだが、管理者の皆様にはじっくりと腰を据えて取り組んでいただきたいと願う。
製造や物流の現場で頻繁に登場する「生産性」という言葉。
主には作業の効率化と予定時間の達成などが指標として掲げられ「カイゼン」の目玉となっていることが多い。
秒単位での時短を目指し、作業品質と作業効率を並立させながらその向上を求め続けることを否定できない。進化や変革を掲げない姿勢は業務道徳として ‘ 悪 ’ とされているからだ。

この種の例示としては前々回に引き続き登場の「ウサギとカメ」のハナシがわかりよい。
のんびりと休憩してしまえば、速力のアドバンテージはなくなってしまうどころか、取り返しがつかない結果となる。
現場でも同じことが起きる。
現場だけでなく本社などの事業所内でも。
例えば本社のとある部署に秀でた事務処理能力の社員がいるとする。
データ処理や情報加工能力は圧倒的に速く正確。
しかし、喫煙者でやや頻尿気味なのでたびたび喫煙所とトイレに出向いて一服し、用を足す。離席は1時間あたり10分平均ぐらい。
もちろん誰も文句や批判をしない。なぜならその仕事ぶりを知っているし、結果を伴なった帳尻も見事に合わす。
しかしながら、業務時間の1/6を「ウサギの昼寝」にあてているので、日計の業務量は上の下ぐらいの出来高にとどまる。
イメージとしては「最上」のはずだが、実際には数ランク下がっての評価が正しい。企業内の各部門で珍しくない事例ではないだろうか。

では物流現場での同類事象はなにか?
間違いなく「手待ち」だろう。
しかしながら現場作業者は「ウサギの昼寝」などしない。
寝てもいないのに何もできない状況を作っているのは管理者に他ならない。

・資材がなくなり、補充する間は何もできない。
・作業現場の効率が無秩序になっており、切替場面で渋滞や指示待ち状態が頻発する。
・ピッキングが終わったら、皆で楽しく梱包作業に入る準備をする。
・送り状を貼り終わってカゴ車への仕分けが済んだら、お茶とお菓子の時間。
・ピッキング・チームが速すぎて梱包ライン前で渋滞。
・梱包ラインが速すぎてピッキング待ちの時間が長い。
・入荷検品の際に毎回不良品がでるが、その判断基準が曖昧なので、いちいち社員管理者を
呼んで確認している。
・現場事務所で受注引当時のシステムエラーが多く、その補正に本社部門との遣り取り時間
が発生するため、現場業務が完全に止まる。
・業務分担がパート任せになっており、現場で頻繁に割振りや手順についての感情的な口論
が起きる。そのたび作業が止まるが、社員は傍観しているだけ。

この手のハナシは山ほどあるので、書いても限がない。
大問題はその間のロス時間なのだが、綿密で理路整然とした「カイゼン」で得られた数十秒や数分など吹っ飛んでしまうような損失が生じている。
ロス時間の計測はざっくりでよい。
それが生まれる原因を特定し解消・低減するほうに注力しなければ改善は得られない。
「物流現場では原因と結果が同時に出現する」と言い続けてきたが、これも同じだと思う。
切替や変更、中断や移動、などの場面を徹底的に把握する。
ゼロにはならないので、どうしたら最短時間で切り抜けられるのかを考える。
案ができたら時間計測を繰り返し、その短縮に努める。
重ねて言うが、パートさんや一般社員任せにしてはならない。
徹頭徹尾、管理者が検分しつつ計画・実行を繰り返してこそ最大効果を得られる。
毎度の補足だが、いきなり着手ではなく、まずはじっくりと遠目で観察するところから始めていただきたいと管理者殿には進言したい。

こんな地道な作業こそが「手待ち」の削減に有効で簡易に着手できる方策なのだ。
アマゾンのようにコンベアで流れてくる作業物を、各人の頭上に設置されている電子掲示板の表示する生産性達成度に追われながら作業すれば、手待ちなんてほぼなくなる。
が、手待ち解消と引換えに作業者がすぐに辞めるリスクも高いので、あまりお勧めはしない。一般企業の物流現場ならば手待ち時間の削減だけで十分な効果が得られる。

近接・拡大・詳細な観察と分析は欠くことのできない管理業務。
しかし俯瞰・全体・概観という時間を持つと、思わぬ発見に巡り合うこともあるのでは?
と、まずは自分に言い聞かせるように書いている。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

最近の記事

アーカイブ

カテゴリ

お問い合わせ Contact

ご相談・ご質問等ございましたら、
お気軽にお問い合わせください。

お問い合わせフォーム