物流よもやま話 Blog

物流業務:事故原因の「自損と他損、内部と外部」

カテゴリ: 実態

物流業務はミスとの闘い。
と、繰り返し言い続け、書き続け、夢でうなされ寝言にまで。

ほとんどの場合、間違いの原因は内部にある。
取引先の無理難題強要による不可抗力的な、、、なんてことは極めて少ない。
顕在現象に外部要因が影響していることを否定しないが、過去から今に至るまでそれを放置し続け、修正や改変の行動を起こしていないのであれば、間違いなく内部体質の問題なのだ。
文頭にある「ミスとの闘い」は「自社体質との闘い」と言い換えるほうが解りいい。

ブレーキとアクセルを間違えたり、ハンドルを切り損ねたり、「だいじょうぶ」と過信して進んだら、サイドミラーがぶつかったり、ボディに擦り傷、バンパーがへこむ、ホイールが縁石に擦る――ぜんぶ自損なのだ。
対物ならばまだよいが、対人だったら反省と修理だけでは済まない。
これを物流現場に置き換えてやると、ものの見事に合致する。
事故の直接原因だけではない。そこに至る過程も判る。

自動車の運転者:「対向車が譲らないからハンドルを左に切ったら、縁石に乗り上げました」
物流部の担当者:「相手の協力が得られないので、こちらで対応したらミスが起こりました」

まったく同質ではないだろうか。
もちろんそこに至る経緯はよく理解できる。
しかし、両方とも完全に自損事故としか認められない。

自損事故ゆえに相手からの補償はない。修理や欠損処理は自前でやらなければならない。
自動車なら任意保険か自費で。
物流なら、倉庫保険に「ミスの穴埋め補償」はないはずなので自腹で。

そうなのだ。
「なぜ一度停止して、相手に要望や危険を伝えなかったのか?」
の一言である。
そして事故の当事者は、そんな指摘など重々承知している。
しかし、感情的に納得いかない。
「相手にも非がある。そちらも判っていたではないか」
と返しても、後の祭りであることに変わりはない。

物流についていえば、担当者がまっとうな依頼や申出を望んでも、顧客窓口である営業部門や仕入窓口である商品部門がそれを酌みきれないことも少なくない。

「安直に依頼しないで、もう少し内部努力や調整して欲しい」
「顧客利益との因果が明瞭に説明できないのは、ちょっと、、、」
「仕入先に価格や納期で無理をきいてもらっているので、これ以上のお願い事は難しい」
「本当に必要なのか?」
「物流部門の便宜のために、他部門を巻き込むのか?」
「本当に困っているのか?」

みたいなセリフが遣り取りされる例は珍しくもなんともない。
むしろ、圧倒的に多いと思われる。

物流の場合、事故は原則として「自損」としか認められない。
相手の非を問えることは、極めて稀であろう。
というか、問えてもそうしない。
なぜなら、物流部門は事故の当事者でありながら、相手とは直接遣り取りすることができない。
もしくは他部門同席の下、状況や事情の説明役に止まり、訴求や要求や依頼や陳情は、自らできない組織管掌や社内業務分担となっているからだ。

「納品予定が不正確なため売り越し分を含む出荷予定の引当数が足らなくなり、直前になっての欠品通知をしなければならないのは許されないことである。至急修正願う」
と営業部門からクレームが入る。

「仕入先によって納品日の誤差が避けられないこともある。
時期や発注量次第で、製造元である工場のキャパが限界に達して納期が遅れたり、海外からの船便が気象条件によって到着日がぶれることは不可抗力と考えてほしい。
予定納期はあくまで目安でしかない。そういう商材は決まっているのだから、受注時に納期に余裕をみるか、納品確定後に連絡して出荷するように何度も通達している」
と商品部門から切かえし。

「どちらを優先するのか営業と仕入で取り決めて欲しい。欠品防止に情報管理は不可欠であるし、取置きなどの物理的処理には限界がある」
と物流部門。

もうお判りだと思うが、この話の着地は「営業が優先したい納品先の分は取置き保管し、その段階で引当済みとする」となるケースが極めて多い。
もちろん「当面は」と枕詞がつく。
企業によっては「当面」が10年であったり、「ずーっと」であったりする。
営業優先の結果、余剰在庫を自らうみだしている。

数年が過ぎ、「当事者達」がいなくなり、引継いだ各部門の担当者達が「こんなことはおかしい」と声を上げる。営業部門も商品部門も、今現在の「当事者達」は一様に賛同する。
そして「なぜこんな状態を物流部門は放置していたのか?」と指摘する。
営業も仕入も「物流部門の自損事故」の後始末に協力しようと会議で声をそろえる。
やはりここでも「社内的他損」は一切認められない。
「営業も仕入も気付かないのはよくないが、もっとはやく言ってくれれば・・・」
と自己反省の言葉は、物流部門の過失を確定するための前置きでしかない。
のような事例は数多ある。

書いていて疲れる内容である。
読んでいる皆様は、疲れる前に自社内の検証を行っていただければ幸甚である。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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