物流よもやま話 Blog

定番率と返品率と誤ピック率

カテゴリ: 実態

定番率が高い。
返品再入庫が多い。
返品物を検品・リバイバルの後、棚入再計上する。
オーダーメイドの高額な受注管理システムとWMS。
現場従業員の離職率が低い。(勤続10年程度ではベテラン扱いされない)

などとヒアリングすると、即座に脳内の警告灯が回り出す。
「現場の業務フローと作業手順書をみせてくれー」と胸中で繰り返す。
あくまで自身の経験則だが、そういう企業の物流現場では出荷ミスと在庫差異が常在していることが多い。
毎度指摘しているとおり、その現象や結果の原因は別の場所にある。
「別の場所」という名の別部門もしくは別業務での作業ミスや混乱が発生した時、後の誤出荷や在庫差異の結果は既に生まれている。
「原因と結果は同時に現われる」と言い続けている根拠は、数々の現場確認とトラブル追跡によって固められたものだとお考えいただきたい。

誤出荷の直接原因は誤ピッキングやそれが梱包作業時の水際で引っかからなかったから。
という理解が一般的で、事実そのとおりだ。
しかし、そうではないパターンも少なからずある。
誤ピックしていないのに誤出荷になる。
短小軽薄の連続する電材や管材などのネジや部品や金具類ならその可能性が格段に上がる。

作業手順が原因なのだが、それを即座に「不備」「未熟」と判別できる現場では今回の記事で述べるようなミスや事故は滅多に起きない。
誤入荷が誤出荷の原因。
誤ピックしてしまう環境になっているのでは?
そこを疑わないと修正はむずかしい。
特に「棚入れ・棚戻し」は、腕のいい管理者なら徹底確認、執拗な追求、チェックする関所の複数設置などに抜かりがないはずだ。

誤入荷【A】 : 新規入荷時の棚入れ間違い。
誤入荷【B】 : 返品再入荷時の棚戻し間違い。
誤入荷【C】 : 出荷前チェック時に誤ピック発覚→棚戻し間違い。

などのパターンで棚入がらみの原因によるエラーは説明できると思う。
どうしてそんなことが頻発するのか?
「なれ」である。
人間は記憶し熟練度を増すからこそ起こる。
定番率が高いと、毎日同じ現場で同じ業務をこなしているスタッフはロケーションの詳細な配置、たとえば棚内のマス位置まで覚えてしまう。
業務習熟度が増すことは貴い。
しかし庫内作業の種類によってはマイナスに働くこともある。
それを未然に防ぐための業務フロー設計と反復OJTによるプリンティングの徹底なのだが、「要領よく」「まとめて」「忙しいから」「毎日のことなので」「全部わかっているから」みたいな慢心や油断や惰性がミスや事故を引き起こす。
新人スタッフにスピード以外の修正点が少ないのは、OJTに素直に従って業務をこなしているからに他ならない。

物流設計とその現場運用観は企業それぞれであって然りだと思うが、現場スタッフには庫内にあるすべての在庫品の個性について無関心でいるよう心掛けてもらうことがOJTの基本であると考えている。庫内の品物に個人的な嗜好や興味を持つことは庫内作業の役には立たないし、手に取った品物に使う人を思い浮かべたり重ねるのは厳禁である。
さまざまな事故はそんな個人の意識に起因していることが多い。
物流現場では「物語性の排除」が何よりも必要なのだ。

数多の企業は「生身の人間が機械のような無感情・無意識・無偏向に働けるのか?」
という背反する自問に苦しむ。
事故ゼロを目指しながらもゼロにならない理由は皆がわかっている。
そこは人間が働く場所なのだから、と。

以下は私の手帳にある、数社の現場内見時に走り書きした備忘メモを一部抜粋したものだ。

・再入荷時の棚入れ間違い(商品が似ていて混入してもわかりにくい)
・実際には誤ピックではなく誤入荷
・誤ピックしていないのに誤ピックになってしまう
・ロケがサイズ順に並んでいるから
・誤入荷や誤ピックしてしまうようなロケの現状が問題
・ロケメンテで錯誤防止→ロジック変更
・作業動線の無駄排除にこだわりすぎた設計が原因
・同一アイテム別品番の同一オーダーは何件あるのか?
・オーダー明細の分析と集計比率によってロケの切り方を考えるべき
・パートさんたちの商品知識が豊富すぎる
・業務の各パートごとに専門職化していて多能工が少ない
・アナログ業務が現場を支えているが管理者は気付いていない
・営業さんの言うことは絶対→結果は営業に支障が生じる
・欠品が出た場合は代替品引当か納期変更を担当営業に連絡

ポイントや質問の断片的な単語の並びなのだが、本記事の主旨と合致している点が多々ある。
どんな業種業態の物流現場を歩いても、メモの内容はそんなに変わらないことが常だ。
基本的な業務原則としての要件を実際の現場に照らし合わせてみれば、変則や異常値の実数がわかる。
ロジ・ターミナルが業務改善と専門職養成を同時進行する場合、現場管理者に修正するべき点の優先順位と実施タイミング、必要期間とOJT実施案の共同作成を提案して着手に備える。
といっても、弊社が単独で実施するのではなく、現場管理者や現場担当者が自らの手で行うことに大きな意味がある。もちろん補助輪的な役割に抜かりはない。
その企業の物流現場が、物流技術を仕入れるのではなく、自身で理解して実行できるようになることが目的地となる。

魚を買うのではなく釣り方を身につけるための努力。
原因と結果を繋ぐ糸を察知して手繰れる想像力。
それは個人の持ち合わせている能力や直感ではなく、系統立てて考え、分析し、整理し、実行計画を作成し、現場で実施する「技術」に他ならない。
企業物流を内部から強くするためには、内部者の業務技術向上が必要不可欠条件となる。

上述した内容の実践は必ず企業経営の土台強化に寄与する。
出来合いの技術を仕入れるのではなく、内部機能として育て上げる。

物流については本質的に自前主義であっていただきたい。
相手を選ぶことなくそう言い続けてきたし、これからも変わることはない。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

最近の記事

アーカイブ

カテゴリ

お問い合わせ Contact

ご相談・ご質問等ございましたら、
お気軽にお問い合わせください。

お問い合わせフォーム