物流よもやま話 Blog

個数行数テカズアシカズ

カテゴリ: 余談

これまたわかりにくいハナシなのだろうか?
と書き始めたが、筆力の未熟なところはご容赦いただいて、是非とも読んでいただきたい。
庫内作業の基本的な要素を記したつもりなので、通常業務で物流にかかわり薄い経営層や営業部門、商品仕入・開発関連の方々は自社の現場で検証いただければ本望であります。
物流部門の方々には「あぁ、それね」と相槌を打っていただけると思う。

掲題の言葉は、工数計算や所要時間算出およびコスト計算時に必要不可欠な要素。
物流初心者は必ず覚えなければならないポイントといえる。
物流スクールなどでは、どのカリキュラムにも定番の設問だと思う。

「毎月10000個の商品出荷数があります。月額出荷料金の見積をお願いします」

というメールの問い合わせが物流会社にあったとする。
その受信会社の社員である「あなたの返信メール」を見せてください。
みたいな質問が多いのだろうか?
設問趣旨は「見積作成にあたり、不足している情報を得るために、問い合わせ主が理解しやすい表現や例示で返信文を記述できるか」のチェックに他ならない。
物流現場の関与者以外も理解していただきたい基本問題であります。
社内研修などで物流関連の時間があるのなら、是非設問に加えてみてはいかがかと思う。
(弊社お問い合わせフォームに「あなたの返信メール」を送っていただければ、誰にもナイショで正誤・過不足を添削したうえで返信差し上げます。笑)

EC興隆の現在は、すっかり「行数」という言葉が使われなくなった。
ピッキング数=行数となることが大多数で、メーカーや卸や流通の店振り作業には、必ず事前チェックしていた件数・行数・個数への分析と業務判断の場面が減少している。
ユニクロ型のSPAは奥行きの深い在庫(1SKUの在庫数が多い → パワーセラーの証)が、販売拠点へと出荷される商品のアイテム数は限られており、むしろ色とサイズのバリエーション別のSKU行数が多くなる。
が、シングル・トータルの判断を誤らなければ、非常に単純簡潔な作業となる。
判断根拠は「総出荷ピース数と総行数」の分析に他ならない。曜日別波動・月別波動・キャンペーン波動・新作投入時・セール時などのように、年間予定に応じた計算が行われ、相応の対応計画が作成されるはず。
ユニクロに代表される、業務の最短距離・最少工数・最少人員を実現・維持するための投資が可能な企業では、現場判断ではなくWMS内に組み込まれた「業務手順判断システム」のような統計値から割り出した最適業務の判断によって、ピッキング指示が自動生成されるのではないかと思う。もしくはそれ以前に出荷予測データからロケーション設計が随時変更され、作業動線の最適化が確保され続けるのかもしれない。先日発表されたユニクロ運営会社であるファーストリテイリングの庫内省人自動化の仕組には、そういった要素が盛り込まれていると思う。
(全くの想像であり私見である。確たる根拠や情報もない。悪しからず誤解なきように)

ピッキングについての質問や疑問やトラブル相談をよく受ける。
その際に、こちらが必ず問うて現場で確認するのは「手数と脚数」だ。そしてそのバランスが悪いか否かをいくつかの側面から判断する。
手数は受注→出荷指示の段階で確定する。
しかし脚数はロケーション設計次第で大きく変わる。より少ないほうが優良、とは限らない。誤ピックの発生原因の上位にあるのが「アシカズ」と「ロケーション設計」のバランス不良なのだ。
「テカズ」起因のミスは業務フローの欠陥かOJTの不徹底かルールの無視や逸脱にある。
「アシカズ」起因のミスは全く反対方向からやってくる。
「効率的」「整理整頓」「整然」「最短」「連続作業」などの規範とその実践から生まれたものがほとんど。
だからこそ「アシカズ」起因のミスやトラブルは当事者達が潰しにくい。
特に内製型の自社物流現場では。

具体例を一つ。
とある企業の物流現場の改善依頼を請けた。
その業界では中堅の名門企業である。物流センターは質実で美装や挨拶が行き届いており、訪問者の印象は抜群に良いだろう。
こだわりをもって設計し、設備類もそれに見合うものを揃えた。事実、数々の取引先が見学に訪れた際には例外なく称賛されるのだという。
しかし誤出荷が恒常的に起こり、在庫差異も常在している。

そんな事前説明を思い起こしながら、内見が始まって20分も経たぬうちに原因は判った。
ロケーション配置と棚の仕様に問題がある。
「整い過ぎている」の一言に尽きる。庫内5Sや管理状況の潔癖さが生み出している識別混乱とエラーチェックの機能不全。
分散や不揃いを悪とする通常の感覚が、誤入荷・誤出荷・誤再入荷・在庫差異、などを生み出す原因となっている。
物流現場では「気の利いた並び」「気の利いた配置」は必ずしも「昇降順」「同種類別」ではない。それで可となるのは機械が支配する業務だけだ。
人間が働く現場では「森に隠した木を探す」ことなる。
つまりは、そこを変えれば現状のミスは解消する。あとはルール徹底のためにOJTでの刷り込みを反復することで現場は変わる。

約一時間の現場チェックを終え、いくつか挙げたポイントのうちの最重要課題はそれだった。
ありがちなのだが、几帳面でしっかりした会社ほどピッキングリストの作りがよろしくない。それが課題の次点。
課題設定から解決までの道筋が明確に視えていたので、着手に支障となる要素はなかった。

ここからは余談だが、センターマスターは真摯で謙虚な態度をもって、自分の管理する現場のトラブルや課題をすべて語り、庫内を隅々まで案内してくださった。
「本当に困っており悩み続けているのです」と数度のうつむき。
自身の不首尾や不出来とも受取られかねない常在するトラブルやミスの再発防止に有効策が打てない責任者としての至らなさを、今度はこちらがうつむかねばならいほどの忌憚なさで包み隠さず、言葉を選ぶことなく話されていた。「改善のためなら」という覚悟を決めて内見・説明に臨まれていたと感じた。
「自分が同じ立場なら、突然現れた先生面の ‘ 侵入者 ’ に同じように応接できるだろうか?」
胸中で何度も繰り返した記憶がある。
‘ 責任を負う者の意志 ’ という点で私は既に劣っていたのだ。本当に強い人とはこういう方のことを指すのだと思う。

そして後日のミーティング。
ローケーション再設計とそれに伴う業務フロー修正及びOJT案、ピッキングリストなどの事務書類変更案をプレゼンした2時間あまり、センターマスターの体は一度も椅子の背と肘掛けに触れなかった。

帰路の車中、信号待ちの刹那。
「お前に足りないものが判っただろう」という声が空から降りてきたような気がした。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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