物流よもやま話 Blog

One on OneとSide by Side

カテゴリ: 信条

今回の記事名となっている言葉はロジ・ターミナルの行動規範。
バスケットボールやレーシングシーンとニュアンスが異なるのは、競ったり、抜き去るために対面したり並走するのではないという意で用いているからだとご理解いただきたい。
物流専門職養成プログラムの根底には「対面会話」「並走して次へ」という不文律がある。

そんなことを意識するようになった年月日は覚えていない。
ただ、きっかけは一人のプランナーの言葉だったと思う。

「制約だらけの仕事の中にほんの小さな欠片のような自由を見つけたとき。私はそこに無限の可能性と独創を追及し、大きな喜びをもって没頭する」

のような意だった。
自分自身が突き当たってきた壁や袋小路とも感じる敗北感、不自由さや閉塞感から目を背けたり否定したりせずによくなった。
そして同じような苦しみや焦燥を抱いているかもしれない物流管理者や担当者との接し方が明確に決まった瞬間でもあった。

物流は約束事とその順守徹底が基本。
個人に認められている裁量はゼロに近い。合理性追求を旨とする機能部門の本質だ。
しかし、業務フローと派生したOJTを完璧に守りつつ、その中に何らかの工夫や努力や心がけを加味する従業員がいるとしたら、その人はもう現場の宝物なのだと思う。
そして管理者はルール順守の徹底を常に求めつつ、かたやで前向きな裏切りを期待している。
なぜなら自身がそのルールそのものなので、一切の逸脱はできないからだ。

管理者の専門性を高め、実践的な業務各論の精密化と作業フローへの反映。
「コストありき」から始めるのではなく、業務フローの分析と改変を丁寧に行えば、物流の庫内作業コストはあたりまえのように下がってゆく。
物流業務では管理者のプロフェッショナル化と定着がすべての現実を変える。現場業務の効率化・精密化にとどまらず、企業の決算数値にまで影響が及ぶことも珍しくはない。少なくとも弊社顧客の実績としてはそうなっている。

全企業が抱える課題として、人材育成と定着率の安定化がある。
平たく言えば「後継のプロは誰がなるのか?」ということだ。
もちろん意見は添えるが、最終的な養成人材の選考――社内の「縦一本」的な系譜は門外漢には何ともできない部分。各社の最終判断と方針に口を挟めないことは当然の理である。

そんな相伝を脈々と続けているうちに、企業独自の「物流作法」が醸造されていく。
その作法は全体の社風を下から支え、もの言わぬ土台として各部門の業務につながり続ける。
言い方を変えれば「ノウハウ」となるのかもしれない。ただし外部からは視えない。
美味い料理の隠し味的な存在が物流機能だとご認識いただければ嬉しい。

物流現場の責任者は孤独だ。しかし孤立しているのではない。
馴合いや融通が許されない機能部門なので、業務に関する遣り取りでは自ずと一定の距離感をもって部署内外の人間と接する。そうでなければ務まらない役席なのだ。
だからこそ、一日を早めに終え、社外の知友人との付き合いや家庭での団らんの時間をたくさん持ってほしいと願う。
可処分所得と可処分時間のバランスを忘れないでいただきたいと祈るよう念じている。

自社物流の総責任者もしくは拠点責任者との初対面時はいつも楽しみでありドキドキもする。
一番多いのは「不愛想で木で鼻を括るような対応と返事」である。
そして私はそんな場面に出くわすたびに、
「これは良い会社だし、現場も結構やるだろう」
と嬉しい確信を内心で抱く。

なぜなら、歓迎されていない空気こそがあたりまえの反応だからだ。
会社からお仕着せられた先生面の侵入者を自分の城に入れなければならないのだ。
全スタッフに「突然あらわれた異物」をどう説明すればいいのか。
改善なら自分にチャンスを与えてほしい。なぜ外部者に委託するのか。
こんな言葉が「顔に書いてある」センターマスターや現場主任と仕事がしたい。
なぜならそういう人達には誇りがあるからだ。
自身の中にこだわりや自尊心を待たない人とは仕事ができないと思っている。それを侵されるのかも、という危惧が反発という言動に出ているだけだ。
もちろんその表現は千差万別。
誇りの持ち方にはそれぞれの仕事観と責任感が大きく作用するのだろう。

私が敵ではなく異物でもなく侵入者でもないことを数回の面談で証明してみせる。
必ず理解してもらい、真剣なまなざしで相談事を吐露してもらう。
最後は満面の笑みで握手していただく。

向き合っての遣り取りが重なり、徐々に対面から横並びに位置を変えて会話は続く。
同じ方向を見つつ、同じ価値観と求める結果の確認を何度も重ねる。
「まだ足りませんね」「もう少しもがきましょう」「あそこまで行きましょう」
追い求めるものに近づくためのつぶやきのような言葉。
無言でうなずく意思疎通の熟成。

ご本人も現場スタッフも気付いていないが、いつの間にか補助輪なしで自走している。
そんな「今日」が何週間か続いたら、ロジ・ターミナルの仕事は終わる。
役目を果たした傭兵は去るのみ。後ろ髪を引かれるような感情がわかないといえば嘘になるが、それが我々の立場であり分なのだと弁えている。

まずは向き合って。
そして並び立って。

次はどんな企業のどんな方と会えるのか。
考えるとドキドキワクワクしてくる。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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