物流よもやま話 Blog

物流委託と自社物流

カテゴリ: 経営

企業の物流業務は外部委託が主流である。
自社倉庫運営にあたり、作業請負業者と契約したり、3PLに丸投げしたり。
言い回しや理由付けの順番に違いこそあれ、どの企業も似たような実態や本音を抱えている。

配送を自社でしようと思わないことと同様に倉庫業務も自社でする気はない。
倉庫と作業人員確保に費やす労力はないし、売ること以外にエネルギーを散らしたくない。
人手不足や長時間労働が問題になる物流や製造現場の難所に、自ら踏み込む気はないし、既存スタッフの負担やそのための新規採用も重すぎて検討する気になれない。

そんな会社が多い。
特にEC専業では圧倒的多数を占める。

それは、
「自炊は面倒だ。メニューを考えたり、そのレシピの確認、具材の買い出し、調味料の常備、事後の片づけ、材料が残れば処分に困る、キッチンやダイニングルームの清掃や設備の管理維持も気が重い」
という感覚に似ている。

しかし経営的な問題の根は何も解決していない。
なぜなら内製や委託の別にかかわらず、その企業の物流業務にかかわる労働力の絶対量は存在するからで、世の中の人手不足や労務順法の監視強化、労務コストの上昇は当面続くからだ。
さらに踏み込めば、物流業務を外部委託したからといってその企業の経営自体が「本当に楽になっているのか」についても疑問は多いのだが、掘り下げて検証している事業者は稀である。
とりわけEC専業者は物流を内製化しやすくコスト圧縮が簡易なのだが、実態は真逆の傾向にある。本当に気付いていないのか余剰コストを受忍しながら委託に甘んじているのかは不明だ。
試算ぐらいはやってみてもよいのでは?と思うが、そんなハナシはあまり聞かない。

自社に必要な物流業務の総量と必要労総時間、そして必要人件費および付帯費用が試算できれば、現状との比較がすぐにできる――という基本的なことなど、言われるまでもなく承知しているが、社内の誰が音頭を取って、誰と誰がそれを算出し、誰が具体的に評価するのか?などの諸事を考えたくない。そんな考察以前のハナシとして実務にかかわるなど御免被りたい。
物流を外部に出せば、面倒で厳しそうな難題からとりあえずは逃避できる。そもそも吉と出るか凶と出るかさえ見当がつかぬ内製時の物流コスト試算など必要なのか?
――経営層のそんな本音が聞こえてきそうだ。考えるべき優先順位の上位に置けない経営心理も察するに余りある。

経営者諸氏は誰もがちゃんとわかっている。
「自分たちが社外に移した物流業務に必要な倉庫や車両や設備や維持諸経費、さらには人件費・労務費・福利厚生費、募集・採用コスト、は委託先がすべて負担している」
という事実を。
正しくは一時的に「立替払い」をしてもらうことになっただけで、すぐに自社コストとして請求が回ってくるのだ、ということを。

そんな毎月の支払いについて、「委託のほうが自社でするより安い」と信じて疑わない経営者がいるようだが、実際の比較を正しく試算したうえでの判断なのかは大きな疑問だ。
「自炊は手間がかかって、高くつく割にはたいして美味くない」
「外食は簡単で、安いうえにそこそこ美味い」
という具体的な比較検証を経ない根拠不明の思い込みと似ている。
または思い込んでも信じてもいないが、本当のことを言いだせば収拾がつかなくなりそうでゾッとするゆえに、気付かぬふりをしている、、、が圧倒的多数だと思う。

「現場作業は低賃金で労働力が買える」
「倉庫業務は委託したほうが安くて品質が良い」
という時代はずいぶん前に終わっているし、その実態に気付いている企業は少なくないはずだが、誰もが黙したまま見て見ぬふり聞いて聞かぬふりを決め込んでいる。

営業倉庫も運送会社も一般事業者も「労務法令順守」「公租公課の刈り取り強化」を年々強める行政の網の目をすり抜けることはできない。「課す時」よりも「納めさせる時」の役所は数倍執拗で緻密。そして強硬で迅速でもある。請求と回収と言換えればわかりいいはずだが、民間企業が売掛金の未回収を認めないように、役所も収税未遂を看過しないということだ。

このような世情下にあって、まともな物流会社なら皮膚感覚で「下手な小細工はせず、ありのままを申告・計上したほうが無難」と察知する。そして荷主に「ありのまま」に相応の費用をのせた金額を請求をする。叩けば埃が出るかもしれないし、さぐられると痛い腹――を思えば、御上の御達しには黙して従うのみの一択、というのが言わずもがなである。
昨今の大手物流企業の好決算はその証左だ。
要は、今まで我慢していた「人件費をはじめとする増加費用の顧客転嫁」を不退転の構えで実行した結果に他ならない。
多くの物流企業の増収や増益は、荷主企業の物流コスト増大と利益圧迫でできていると言ってもよいはずだ。

倉庫会社に業務を委託すれば、身軽で気楽にはなるだろう。
しかし上述のとおり、労務費や人員維持経費の「かなり割増された金額」が請求されることは必定。上昇する実費に「手数料」と「利益」が乗っかっているからに他ならない。
昨今では、労働環境改善や労務法制の順守が倉庫業にも重くのしかかっている。

「同一庫内に複数荷主を抱え込んで、それぞれの業務を何人かで掛け持ちさせているので人件費の無駄が出ない」
という倉庫業の安さの裏付け説明を、そろそろ眉に唾を付けて聴かなければならない。
労働契約書の順守厳密化は、従来の勤務時間調整を認めないので、実際には手待ちの多発や拘束時間の固定化などによる生産性の鈍化や下降が目立つようだ。

近年、なぜ現場が荒れてきたのか?
それは労務厳密化や人員数の不足よりもはるかに深刻な「人材の不足」に因る。
「物流会社は所長商売」といわれるゆえんが現状を知れば理解できる。
優秀な現場管理者の不足に歯止めがかからない今、物流会社の業務品質の維持は高額なコスト拠出による設備依存に向かわざるを得ない状況に陥っている。
管理者の不足や未熟さが生み出す悪循環は、物流コストの上昇に直結する。
人件費の高騰は、最低賃金の上昇や現業忌避に対処するための優遇条件設定に加え、労働環境整備と業務密度の緩和による費用効率の低下によるところが大きい。
出口として「荷役」にかかわるコストが軒並み上昇する。

請求元である物流会社は、当然ながら保管料と配送料のような、相場情報が取りやすい項目には薄い利しか乗せない。
その2項目が高いと「全部割高なのでは?」顧客に疑念を抱かせるからだ。
中小零細企業にとりわけありがちな「自社でやると面倒で手間だから」という動機と選択の代償として、3割から4割以上を上乗せされた「外食費」を払い続けていることが多い。
大手企業といえど、比率の差こそあれ類似する中身になっているはずだ。

ある中小企業の配送料を除く物流実費が月額500万円なら、650万~700万以上支払っている。中堅企業クラスなら、一桁あがって5000万円程度を想定したところで、表面的な歩率が下がるだけだ。ましてやそれを「スケールメリットによって割安」と表現するのは奇妙でしかない。
ちなみに書き添えるが、上記内容を特別割高な請求とはまったく思わない。
まともな経営状態の営業倉庫会社なら普通の粗利率だろう。(パートアルバイトの人件費を原価算入している事業者なら管理会計上の営業利益率は下がる)

一年間の差額を暗算してみれば、毎度銀行に深々と下げている「社長の頭の値段」と同じくらい、ということもあるのでは?
それを何年続けているのかも同時にお考えいただきたい。

物流機能を社内業務から外して「売り一色」の機能集中。
その「割増差額」を回収できる売り上げが見込めるなら、外注は正解といえるだろう。
ただしこの「差額」がマイナス計上される項目は売上でも営業利益でも経常利益でもない。
まぎれもない「純利益」なのだと、今一度あらためてご認識されるべきと申し上げる。
毎月200万円の純利益を得るための必要売上額はいくらなのかを計算してみれば、現状の評価ができるはず。
「たいしたことはない」と言える中小企業があるのだろうか?
言い換えれば、現状の売上のままで大きな利益が出せる選択肢が残されている。
ロジ・ターミナル的表現では「物流の含み益」となる。
ただし不動産や有価証券と違って、具体的な行動を起こさなければ、毎月消えてなくなってしまう点がもったいないことこの上ない。

工場や倉庫や運送などの俗にいう「民間の現業」に対しての労務順法徹底とその監視は年々強まっている。ハローワークの上階にある出先窓口ではなく、労働基準監督署のブロックもしくは都道府県支部が、抜き打ちで直接査察に入ることも珍しくなくなった。
タイムカード、給与台帳、社会保険付与の状況、雇用契約書の詳細確認、年次有給取得率の現状と過去の実績調査、最低でも過去二年間の残業時間数と手当の詳細。
仕上げとしては、現在の従業員名簿と上記書類の個人別適用・運用確認。

先に記したとおり、物流会社は戦々恐々で労務内規と運用状況の整備・修正を急ぐ。査察によって遡及追徴による罰則金が上乗せされた未払い総額を試算すれば、早々に制度に従うことが賢明で無難とわかるからだ。
苦しいが、御上のご意向にそうよう制度実施を進める。
そのコストは、委託元である荷主企業に丸ごと転嫁される。自助努力で吸収できる許容をはるかに超える額だし、労務コストを転嫁することに物流会社としてのプライドや技術論は無縁であると判断しているからだ。
同じ理屈は内製型の自社物流にもあてはまる。
部門経費は単純に上がる。
制度運用のためのメニューが増えて事務処理が複雑化する。そのうえ個別項目と個人別のログを全履歴保存しなければならない。

いまや「課税」よりも「収税」に力点を置いている公的な各機関は、順法という入口からまっすぐに来訪し、違反や欠損の金額を計算したうえでペナルティ額を加算して、行政指導と追徴処分という出口から悠然と去る。
「マルサ」は専ら税務を想起させる言葉だったが、今後は労務でも多用されるだろう。
頻度が逆転する可能性もありそうな時世を感じてやまない。
利益の増えない中小企業の少ない法人税収入を補うために、労務費の適正回収を加えて公租公課の二段積み収納を維持する傾向が強くなるのではないか?と勝手に考えている。

苦しいのは企業だけではない。国も自治体も財源不足で悲鳴が上がっているのだ。
正々堂々と取れるものは取る、という単純な理屈と行動。
民間企業と公的機関は一蓮托生であるはずなのに利益相反。
これは事業会社と委託倉庫の関係に似ている。
双方が一定の収益を上げなければならないという宿命ゆえ、「笑顔でつねりあい」のような場面が何度も出現する。
第三者的には「こっけいでものがなしい」喜劇風の悲劇だが、当事者双方は本気で作り笑いしながら思いっきりつねり上げている。
双方とも決して「いたい」とは言わないし「まいった」とも「わかりました」とも言わない。

「作り笑いやつねりあいに疲れたら、ロジ・ターミナルへお越しください」
なんていうキャッチコピーはイマイチ、なんだろうなぁ。
どう書けばわかってもらえるんだろうか。

いつの間にか愚痴になっているではないか。
失礼しました。
今回はこれにて。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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