職分として、私の守備範囲は企業内に業務フロー設計からそれを用いて業務管理まで完遂できる物流専門職を養成し、現場へのプリンティング(反復OJTによる徹底的な業務フローの刷り込み)方法と管理手順を身につけてもらう、までである。
もちろん、事後の一定期間、品質管理は如才ないように手当てするし、実務の継続的なサポートもサービス・メニューとして用意している。
物流相談も好評いただいているので、来月からレギュラー・メニューに加わりそうだ。
しかし、顧客企業の「魂」にあたる部分については、理解して前提条件として認識することはあっても、一切の関りや進言をすることはない。
「しない」のではなく「してはならない」と決めている。
顧客企業にとって私は部外者。
契約期間中はパートナーやら顧問と呼ばれていても、所詮は期間関与者であり、やがては門外に出てゆく者だ。
乱場に切り込んでゆく傭兵のような立場ゆえ、乱が収まれば速やかに去る。
それこそが弁えであり本分であると信じている。
では私の仕事の本質とは何だろうか?
何度自問しても下に続く自答が返る。
魂がある。
仏はそれに合わせて作る。
物流業務の設計とはそういうものだと思っている。
各企業は無意識に自社の物流観を潜在認識している。
それは経営理念や事業戦略の中に埋もれていることが多い。
なぜ顕在化しないのか?
容れる器がなかったり、なぞって画にする筆を持ち合わせていないからだ。
さらには、画を器に描き変え、ノミで削り出す作業をしたこともなかったから。
アウトラインに墨を入れ、輪郭を浮かしてやれば、あとは勝手に彩が施されてゆく。
奥行きを割り付け、そいつを彫り出してやれば、「自社の物流設計と業務規格」が立像として立ち上がる。
丁寧に細部の仕上げを施して、「慎重な仕上がり検査」を経たら、その企業だけの物流規格が完成する。
そこまでたどり着けば、所定のプログラムにそって研修と理解確認の反復を行う。
管理者へのプリンティングが終われば、次は担当者。
最後は現場作業者へのOJT手法の習得と管理方法で養成メニューの修了を迎える。
こういう手順を踏んで設計された物流業務フローや保守ルールの利点は、新しく移植しても事業体の中で拒絶反応を起こさないことだ。
なぜなら自社の内部にある素材で作りだされた機能なので、本質的な価値観や優先順位に食い違いがない。人間の生体反応と同じと考えていただいてよい。
物流の基本設計を「仕入」ではなく「制作」することの重要性はここにある。
全社内で毎日起こる実務上の摩擦や不整合は同じように見舞うが、異物としての扱いや認識には無縁となる。疑義の絶えないような継目や段差がない機能として円滑に動く。
顧客の入出荷や在庫管理などの技術改善は出来て当たり前。
それ以前にじっくり聴いて、熟考しなければならないことがある。
その企業の人格と感情の理解。
人格に見合う設えと感情を害したり踏みにじることのない合理性や効率の実現方法。
営業や仕入の補完として、物流を過不足なく安定稼働させるための業務配分とフロー設計。
誰もが習得できる手順説明に終始するOJTメニューの作成とプリンティング方法の規定。
それこそが私の仕事の本分だと思う。
すでに在る「タマシイ」の輪郭と奥行。
それに合わせて「ホトケ」を彫り出す。
簡単なことではないが挑み続けたいと思っている。
永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。
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