物流よもやま話 Blog

倉庫会社の正規と非正規

カテゴリ: 実態

たまに聞かされる話に「モグリの倉庫会社」という言葉が出てくることがある。
過去に何度か質問されたこともある。
正確には届出登録済み営業倉庫か否か?のハナシだと思うので、この機会にちゃんと説明しておきたい。

営業倉庫の「届出」と「登録」に事業主体のあれこれはたいして作用しない。
その届出に最重要な要件は「倉庫建屋」の諸条件を満たしていることで、運営会社の規模や経営数値が厳格厳密に査定され、届出受理に大きな影響を及ぼすことはない。
このハナシ、一般には「?」という内容がいくつか並ぶ。
ややこしさを多少でも緩和するために、まずは箇条書きでポイントを並べてみる。
(基本的には実体験に基づいた所見と要約なので、小綺麗なテキスト風の表現はできませぬ)

1)
あくまで「届出」登録であり「許認可」ではない。経営の優劣や規模などは無関係。
零細経営でも、顧客からのクレーム山積でも、ミス多発会社でも全く支障ない。
(2002年3月以前は許可制だったが、現行要件と大きな差はない)

2)
とはいえ、届出にあたり、必要書類や図面等に欠落や不備があれば登録できない。
しかし役所で丁寧に修正点を指摘してくれるので、素直に正確に従えば必ず書類は揃う。
(国土交通省運輸局の管掌である)

3)
届出は事業者単位ではなく、その事業者の運営する倉庫建物ごとに必要となる。
よくある「わが社は営業倉庫を営む正規業者です」という言葉は、
「営業倉庫登録している建屋で倉庫業務をしている会社です」
というのが正確な表現である。

4)
多くの倉庫会社は、届出登録済み営業倉庫とそうでない倉庫を混在運営している。
「この運営倉庫では正規業者なんですが、他の運営倉庫ではモグリなんですよ」
みたいな告白を倉庫会社はまずしないが、実態としてはとても多い。

5)
一棟として使用の継床建増であっても増築部分だけで届出できる。
逆にいえば、一棟でありながら営業倉庫部分と非登録部分があってもよい。
営業倉庫内を見学していると、いつの間にか「モグリの倉庫」の中を歩いていた。
なんていうことも起こるし、現制度では特段珍しくはない。
ついでに書けば、倉庫会社によっては、一荷主の保管区画が営業倉庫と非営業倉庫にまたがっていることも多々あるはず。
(悪意や恣意性はないと思う。それぐらい実務には無縁なのだ)

6)
届出の内容で、最重要条件は「当該届出倉庫に建物検査済証(以降、済証)が発行されているか否か」である。
(個人住宅新築資金を公庫で手当てした方々なら理解が早い。引渡しまでに何度かの検査があり、その証として‘済証’が発行されたはず)
建築確認済証だけでは不十分。

7)
現実には、届出なしで倉庫屋を営んでいる会社や個人事業主が大多数を占める。
厳密には倉庫業ではないし、無届営業には罰則もあるが、私の周辺や情報入手先、同業者から摘発やら罰金の実例を耳にしたことはない。
あくまで私の周囲での話であるから、国内の全事例を調査したうえで述べているのではない。
その旨は引算してお読み願いたい。

8)
現実問題として、既存の倉庫建物は建物検査済証なしの物件が大多数を占める。
公式統計としては2000年時点で済証取得の倉庫建物は40%未満であり、古くなればなるほど取得率は下がる。
冒頭の言い回しを借りれば、築年数の古い倉庫は60%余りが「モグリの倉庫」である。
更に書けば、この統計自体が胡散臭い。しかも古い。
倉庫業と銘打って営んでいる実数を調査することは困難極まりないからである。
運送業の兼業倉庫まで検索する必要があり、届出登録済みトランクルームに類する非登録のサービス業のカウント区分を誰も規定できていない。
実態は倉庫業と表記している会社とその使用建屋の80%以上は登録と無縁と思われる。

9)
8)の補足であるが、かつては公庫以外から建築資金を調達するのであれば、確認申請のみでもなんとかなった。
(役所的には違法。現在は融資条件に建物検査と済証取得が含まれている)

10)
倉庫業の技術品質や顧客対応力とは全く無関係である。

11)
損害保険会社の「倉庫保険」の契約や物流関連の業界団体や協会加入に、必ずしも営業倉庫登録の有無は影響しない。
必須としている団体もあるが、「全ての運営倉庫が届出登録済み」を入会要件に規定していないようなので、業界内部のこだわりは緩いと評されてもいたしかたないだろう。
(もちろん公式に発表しているわけではない。しかし会員名簿を見れば明らかなこと。ちなみに倉庫保険については営業倉庫登録済み建屋は加入が義務である → 倉庫業法)

12)
最大手以下、国内上位の倉庫会社は、営業倉庫登録できない物件の処分を進めている。
(とりわけ上場企業にとっては喫緊課題となっている。自社・顧客双方のコンプライアンスに適合するために不可避)

13)
自社物件でも、今から新築するのであれば要件取得を意識しておいて損はない。
(自社使用の限りは届出不要。売却や賃貸の必要が生じた際にはそこそこ有利。建築場所の用途地域と建材が要点。詳細は運輸局のガイダンス参照)

まだあるが、これぐらいで。
骨子としては十分伝わるはず。
ちなみに私は、運輸倉庫協会の事務局にヘルプしてもらい、自力で届出書類を作成・提出した経験があるので、そこらの倉庫屋連中より詳しい。
提出先である運輸局のエリート官僚とおぼしきセーネンは非常に丁寧で物腰柔らかく、とても好意的だった。従って資料収集整理と図面作成以外のストレスはなかったが、二度とやりたくはない。
10センチあまりの分厚いバインダーにパンパンの提出書類。思い出すたびぞっとする。
当時は代書屋さんに頼むと80万円から100万円ぐらいかかったので、倹約と後学のために安直甚だしく取り掛かったのであるが、すぐに己を呪ったものである。
現在は代書の相場が落ちており、20万円から30万円ぐらいで請けてもらえるらしい。

運送業の場合、請負型の抜道契約(一応合法なので蔓延している)以外、例えばタクシーのような業態なら、白ナンバーでの営業は完全に「モグリで違法」扱いされるのだが、倉庫業はなぜか白タク営業のほうが多い。
車両のナンバープレートにあたる識別票が倉庫建屋外部に大きく公的掲示されないことや、委託元が営業倉庫自体の仕組や規則を知らない・興味がない、からである。

事実、「倉庫」と名がついても、貸倉庫は不動産業であり倉庫業ではない。
従って倉庫業法云々は無関係である。
しかし、床に何らかの単位や計算方法での値段をつけてモノを預かったり、それをあれこれ作業したとたんに倉庫業になってしまう。

その辺の線引きや基準があいまいなので、非常に緩い区分がぼんやりと存在し続けている。
厳密な規制がひかれないというのは、現状で支障がないからという解釈も成り立つ。
もしも運輸局が本気で非営業倉庫を調査し、業務停止などの行政処分を行えば、国内の物流機能がパニックに陥る。
現状不適格を暗黙許容せざるを得ないことは監督官庁が一番心得ている。
ここまで野放しにしていた結果が現在の実状を生んでいるのだから、黙認のまま無登録建屋の減少を見守るしかない。利用不能なほど古くなったら取り壊すし、土地の別利用が決まれば、建屋は倉庫ではない建築物に変わる。
「放置して自然減少・消失を待つ」がある種の軟着陸という方便も見え隠れしている。

倉庫会社の正規・非正規という表現の実態は以上のような内容である。

【営業倉庫】 
建物検査済証・建築確認済証を有し、指定要件に則って届出登録した「建物個体」の名称

とご理解ください。

一般事業会社の皆様、ご理解いただけましたか?

「ややこしくてわからん」
「だからどうだというんじゃ」
「火災保険の加入以外の荷主保護要素は?」
「壁強度が足らない・データ不明な時には1m空けて棚運用する図面を提出すれば支障ない」
「登録済倉庫建物と非登録建物の一覧表を作る奴はおらんのか?」
「自社倉庫なら何をしてもよいのか?」
「保険やら耐震耐火は法律以前の基本事項」
「営業倉庫登録の要件に ‘ エアコン完備 ’ を求める!  By 全国のパート従業員一同」
「古くて汚い営業倉庫 VS 新しくて綺麗な非営業倉庫。貴社と貴方のご選択はどっち?」

あぁ、もうやめよう。
吐毒発作がまたもや急に。
どこかにいい医者おらんもんかなぁ。

【2019.6.3追記】
この記事と併せて2018.8.24掲載の「差押えと差控えの修羅場」もご参照いただければ、営業倉庫についてさらにご理解が深まるのではないかと考えております。
本記事と同じくして加筆修正しましたので、ぜひご一読ください。

差押えと差控えの修羅場

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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