物流よもやま話 Blog

あなたの仕事の価値

カテゴリ: 余談

勇ましい掲題の割には、仔細丁寧にとまで及ばないのであしからずご容赦ください。
先週に引き続き今週も暑気バテ気味であります。

物流に係る方々なら、自分のやっている仕事の価値と自分自身の評価について、
「悩んだり諦めたり憤ったり。後ろ向きに割切ったり思考停止したり…」
のような経験が多かれ少なかれあるのではないかと思う。ご承知のとおりワタクシの仕事はそのような諸々の迷いごとを「客観的に理論的に実務的に数値化する」ことである。
顧客満足のために“より良く”を追求する業務適正化や現場改善は、上記の数値化の根拠として偏りなく曖昧さを排除するために不可欠な手順でもあって最終目的地ではない。
関与先が自社物流ゆえに、物流作業の技術自慢や数値改善ごっこ的統計遊びのような内向偏執では経営に対しての訴求として用をなさないからだ。

まずは自社の物流価値を可視化して社内に公表・共有してもらうことを根気強く続け、次に経営及び各事業計画に即した物流業務の改変計画を数値で表す――ような手順を物流部門内でルーティン化できるようにするのが私の仕事の肝である。
平たく言えば「自社の物流コストの正確な試算と検算。そこに差異が発生するならその原因の解明」をできるようになるのがイロハのイ。
イロハのロを何にするのかは企業によって異なるにしても、おススメは「もし自社の物流業務を外部委託するとしたら、その見積明細とその根拠はどう記述するのか」である。

つまり自社の物流原価とその評価を外部委託との比較で試算してみようとするのが第一義。しかしながらその比較結果が「自社物流のほうが安く上がる」だったにしてもその逆にしても、算数した結果の高い廉いに一喜一憂するのは本来趣旨とは異なる。

こうやって書くとかたくてややこしいハナシに映るかもしれないが、普段の会話は以下のような感じである。誰が聞いても「そこらに転がってそうな会話」にしか聞こえないだろう。

とある事業会社の物流本部でのP課長との会話

永田「Pさん、前期の総人件費は確定しましたか?」
課長「はい、なんとか割り振って按分できたと思います」
永田「一般社員さんの人件費よりも管理職のほうが厄介だったでしょう」
課長「そうですね、、、一部兼任業務があったり、製造や貿易業務との乗り入れが複雑で」
永田「そんなもん“ざっくり”試算して、あとはエライ方に確認承認を丸投げで可です」
課長「それからパート・アルバイト・派遣の人件費ですが、、、」
永田「おっと、それは販管費ではなく原価なのでは、、、」
課長「あぁそうでした、申し訳ありません」
永田「おさらいですが、どうして一般管理費内で仕訳けず、原価算入するのでしょうか?」
課長「えぇっと、それは…」
永田「もう一度説明しますね。庫内業務の原価とは…」

のような何度かのやり取りの後、
(といっても、数か月後のハナシである。実務と並行したタスクゆえにサクサク進まない)

永田「これで前期の人件費とその他販管費及び原価、が試算できたわけですね」
課長「はい、一応の総事業費として試算完了です」
永田「では次の作業として何をしましょうか?」
課長「先日改訂した社内標準作業単価と総作業工数による“検算”です」
永田「そうですね。別の切り口から事業費の答あわせをして、数値確定となりますね」
永田「ではめでたく事業費が確からしい、となったら、次は何をするのでしょうか」
課長「自社物流業務の一般的事業価値の算出です」
永田「はい。もし自社物流から完全外部委託に切り替えたとしたら、、、」
課長「営業倉庫はどんな見積もりを提出するのかを試算する」
永田「“どんな”とは?具体的に」
課長「項目別の単価と工数の根拠。業務フローと作業手順と使用マテハンの種別と個数」
永田「見積明細のチェックが終って、、、さらには?」
課長「自社の物流事業費を原価として売り物にするなら、はたして競争力があるのか、、、」
課長「もし“勝算あり”なら、営業倉庫機能を備えることができる根拠になります」
課長「確定事業費と試算した自社業務の相場金額、、、つまり売値の差益が大きいほど、、、」
永田「営業倉庫としては利益率が高くなるし、自社物流なら潜在力としての含み益がある」
永田「物流内製化の含み益とは外部委託なら得られぬ隠れた営業利益でもあるのです」
課長「原価と売値の幅が大きいなら倉庫業でもやっていけますよね」
永田「競争しないが、協業なら歓迎、、、という自社物流連合なんていうのもアリですね」
永田「受け身一辺倒のコストセンターではなく、能動的な機能部門としての物流本部です」
課長「本部長が期待しているのはたぶんそれだと思います」
永田「では、さっそく次のステップに…」

というような会話が私の日常。実際には紆余曲折の末にやっと答えにたどり着くわけだが、それはどこの事業者に関与しても同じだと思う。
もちろんこんなことばっかりやっているはずもなく、現場論であったり設備導入であったり組織設計や人事諸案などについての時間が過半を占める。しかしながら、年間スケジュールの主柱となるのは事業価値の試算と中期事業計画の策定及び修正である。その下部項目にさまざまな運営課題項目が居並ぶことになる。

現場やっつけの対処仕事ばかりでは、倉庫は単なる作業場でしかなくなるし、物流部門は現場事務所で人工(にんく)管理するところ、としか評価されない。そうなると他部門からの依頼や苦情や質問などの受信ばかりで、提案や指標や傾向などの発信は求められなくなる。

「倉庫はそれでいいし、物流部はそれだけを真面目にやってくれれば十分」
という事業者も多いかもしれないが、私は嫌である。
会社の危機的状況が到来するなど、いざとなったら自立歩行できるし、自ら動いて営業推進や生産現場補助に寄与できる準備と気構えを平時から整えておくべきだと思っている。

「急で申し訳ないけど、急ぎで○○○をしてもらえないだろうか」
「そんなこともあろうかといつでも動けるように準備してあるよ」

なんていう会話こそが自社物流に生きる者の矜持であるはず。
そう信じて日々気張っている次第なのだ。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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