物流よもやま話 Blog

物流部員のあくびとほおづえ

カテゴリ: 余談

かなり分散化しつつあるとはいえ、やはり圧倒的多数が来週は夏季休暇。
この掲載なんか誰も読まないはずなので、言いたい放題や夢に見た話なんてことまでだらだらと書いてしまおうと思う。
不真面目極まりないので、ちゃんとした人はパスしてください。

しかしまぁ物流関連の会議はゆるく長いことが多い。
「しっ、失敬な。我社の物流会議はチャッチャと進行して、すぐに終わるし、結論も明快即決である」とのご憤慨の声に対しては、心からお詫びする。
あくまで私の勝手なイメージと、多少の経験からの偏向であるのかもしれない。
連日の猛暑で普段にもましてアホな思考や妄想が頻繁に浮かぶ。
梅雨と入れ替わるように熱帯夜が始まった頃にみた長い夢も同類。
それは、とある会社の物流部員の日常と独り言を切り取った物語だった。

 

入社13年、物流部に異動して7年目の中堅社員は内心でつぶやく。

長い会議の第一番目は、現場ミスの原因分析。
係長が報告書の概略と補足情報の追加をホワイトボードに箇条書き。そして「うーん」と唸りつつ、「まいったなぁ」と頭を掻きながら手許のマイ・ファイルをせわしなく繰る。
10秒ほど経過。
ようやくファイルから顔を上げて、苦々しく「たとえばですがね」と、先週も引用した過去事例の説明。
次に多いのは現場コストの削減方法について。
その次は、次回のゴルフコンペのコースと新任部長や異動者の歓送迎会の店選び。
そして資材屋や運送屋、人材派遣会社からの接待に参加する人選。

などを週に2~3回、半日がかりで会議。
お気に入りの仕出し弁当を昼食に挟んでの終日会議もたまにある。
そして必ずと言っていいほど、一度では終わらない。ミスの分析もコストの削減方法も、ゴルフコンペのコースと景品選びも歓送迎会の居酒屋選定も接待参加者も。
熟考を重ねて、間違いがないようにする。
毎回同じような議題で、ほぼ全員が同じ顔触れだが、ゆるい雰囲気や惰性でやっている感じは一切ない。全員が真剣に議題に取り組んでいる。意見もたくさん出るし、白熱するあまり感情的になる場面もあったりする。
一番早く結論が出るのはゴルフ。次は接待参加者の人選。宴会の居酒屋選びは数回に及ぶ丁々発止のやり取りの後、次長の重々しい声の最終判断で決定する。
現場トラブルやコスト削減は、傾向と対策の「傾向」ばっかりを皆が口にする。
誰ひとりとして「対策」を切り出そうとしない。部内にそんな言葉など存在しないし、下手に切り出したなら「空気読めよ」みたくヒンシュクを買いかねない。
あぶなくって結論や対策案には近寄れたもんではない。

彼のつぶやきは更に続く。

今回の人事で新しい部長が決まった。その着任までに、たくさんの文字が書いてある綺麗なレジュメを種類別にどっさり用意しておくことが、今の自分たちに課された責務ではないか。
と、一瞬で意思統一できた。
誰ひとり意見や案を口にしていないのに、いきなり決を採ってだ。
以心伝心というやつは一朝一夕になせるものではない。
もはや常人の域を超えている。会議で論じずとも、意思統一はできているのだから。
ベテランが多いゆえに、こういう場面は頻繁に目にする。
さすがとしか言いようがない。自分などまだまだだと思う。

次長と課長はこの道25年を超える大ベテランだ。
その二人が実質的な部門長とその補佐なのだが、昨日こんな会話をしていた。

次長「来週の会議だけど、部長には一切発言しないように念を押しておくよ」
課長「異動前ですからね。資料は去年の書式に今年の数字を入れ替えて使います」
次長「うん。役員には見慣れたのが一番だからな。前回みたいな新しい書式はダメだよ」
課長「はい、気を付けます。やっぱり今回もシャチョーとジョームが鬼門ですかね?」
次長「そうだねぇ~、、、どっちかといえばジョームじゃないかねぇ。細かいからなぁ」
課長「上半期の納品ミスと在庫差異はほとんどが不可抗力だったと結論付けてあります」
次長「そのへんのところは、営業やら購買には根回ししてあるの?」
課長「完璧です。先週別々に呑みにも行きましたから」
次長「じゃあ、いつもどおりだね」
課長「はい、いつもと同じです」
次長「安心したよ。ごくろうさん」
課長「ありがとうございます」

半期に一度の経営会議の準備は完璧らしい。

今までのやり方を忠実に行っていれば、会議は無難に乗り越えられる。
部長はほぼ毎年変わる。腰掛の素人考えで余計な発言をして会議の進捗を妨げさせないよう、事前に打ち合わせしておくことが段取りの要なのだとわかった。
営業や仕入れの数字には切迫した口調と間合いでの質疑応答が続くが、物流部の発表では誰ひとりとして発言しない。
あまりにも静まり返るので、社長や常務がとってつけたようにカタコトのような言葉遣いで出荷ミスや在庫差異について発言する。次長が神妙な声で「申し訳ございません。少しでも改善するように部内全員で鋭意努力いたします。他部門のご協力もお願い申し上げる次第です」と、思いつめたような表情で答えると、たいがいは遣り取りが終わる。
それと同時に会議も終わる。物流は最後の議題なので、出席者は長い会議の疲れを滲ませて、欠伸や頬杖を我慢しながら聴いているふりをする。したがって、最短で終わらせることが周囲に対する最上の気遣いであり、聴いてもわからない物流経費の変動要因や業務ミス防除や事例検証などについては「部署に持ち帰って、各自で配布資料をご参照ください」でよいとされている。いわば暗黙のルールなのだ。

物流部内ではありえない光景と雰囲気だ。
資料を各自読んで終わらせるようなゴルフコース選びや宴会場の選定などありえないし、議論の最中に頬杖をつきそうな気配を漂わしたり、欠伸をかみ殺す者など部内には皆無だ。
5時間でも6時間でも会議を続けることは普通だし、疲れた表情とは無縁の議論合戦で毎回終始する。

もし商品部や営業部が、物流現場を不手際や面倒事や各種数字の加工残骸の処分場のように扱わなければ、起こるはずないか有りもしない誤出荷や異常な在庫差異など激減する。
自分自身が営業にいたから、その辺の事情は誰よりも詳しいし、正しい業務ルールの下に顧客対応と業務管理していれば、物流現場に皺寄せや処理保留などを強いることなどありえない。

部内で問題を取り上げて、正常化する意見を述べることは、上司や顧客批判のように受け取られることがほとんどで、最後はその発言者の能力論に帰結するのだ。
だからまっとうな意見や提案をする者は上長の覚えめでたくないだけでなく、部門業務不適合者として異動候補者名簿に加えられる。その空気を読まずに変節や迎合や妥協を良しとしないままでいたならば「君は物流について意見や方策をたくさん持っているようだから、その思いと能力を存分に発揮して欲しい」と、異動がかかる。
私を含む数多い物流部員はそんなふうに肩を叩かれた経験者だ。

本質の抜け落ちた営業課題の長い説明は、欠伸をかみ殺して聴かないとならないし、仕入先に納期や製品仕様の変更を納得させる交渉がいかに難しいかを説明することで、「やらない」を「できない」にすり替えつつ進む商品部の報告は、頬杖をつきながら我を殺して耳を傾けないと、怪訝で不快な表情が浮き出てくる。
白熱しているように見えるが、掛け声だけは威勢良い中身のない空回り。
寡占に近い販路とサプライヤーのおかげで、誰がやっても似たような実績になるのだから、歴史や伝統の積み重ねと硬直化した市場原理に感謝するのみだ。こんな状況がずーっと続いてきたらしいが、世間一般の企業動向を見聞きすると、自分の会社は浮世離れしているとしか思えない。

「なんとかなる」という名の木が「とりあえず」や「当面は」や「そのうちに」という小さな実を結ぶ。やがて「無関心」「無気力」「無抵抗」などの果肉が厚く大きく膨らんで、茫洋と居並ぶようにぶら下がる。
営業や製造・仕入などの上流で枝から落ちて流れてくる「旧態依然」という品種の果実を掬い取って割ろうとする者は物流にいない。
割れないのではない。割らないだけだ。
中にある種を取り出しても、結局はそのままもとに戻して流すだけなのだから、当然の行動と言える。無駄や無策を変えること自体が無謀で無理なのだと諦めてしまわなければ、精神衛生上よくない。正論は排除される、という現実を何度も眼にしてきた者たちの処世に要する注意書きのようなものだと思う。

かつて、期末の予算補填受注と出荷操作や、顧客別取り置き品の不動化や経年後の簿外処理を看過せず、正常化への修正と仕組み改変を訴えた二人の若きトップセールスがいた。
彼らの上長である営業課長と係長に、現状の不備や不正とも呼べる受注と在庫の不透明を直訴し、決定的なエビデンスとなるレポートも提出した。
その内容の詳細さと的確さに驚嘆の唸り声を押し殺しつつ、営業課長と係長は資料作成者である二人と面談した。

「素晴らしいレポートだ。機能不全に陥っている物流部を二人で変えてきて欲しい。営業部と商品部については、こちらで手を入れながら君たちの援護射撃となるようにするから安心して欲しい。期限は3年以内だ」
と懇願され、翌月に異動となった。

当初の二年余りは粉骨砕身の熱意と努力で社内を奔走した二人だったが、関係各位の理解と協力の返事とは裏腹に、具体的な改善行動や意思決定はまったく出てこなかった。
期限の3年が過ぎようとした頃、次長に昇進していた営業課長に窮状を訴えた。
二人の努力を称える言葉を連ねた後「あきらめず更に努力を続けて欲しい」と頼まれた。
引き続きさまざまなデータや改善計画書を提出したが、それが日の目を見ることはなかった。
そのまま20数年が経過した。

営業課長は経営のトップまで上り詰め、部下である係長も常務の席を得た。
気鋭の若き営業マン二人は、物流部で古参の社員として落着き、実質的な部門責任者とその補佐役として、社内では一定の立場を得ている。
そして、毎年発生する余剰利益を用いて、物流子会社の倉庫にある「在ってはならないもの」や「在るはずがないもの」を一定量処分する。商品部や営業部と阿吽の呼吸でデータを加工し、粛々と物流部が実行するのだ。

それを暗黙のルーティン化するにあたり、現社長と常務の後ろ盾は大きな力になった。
監査法人も全く指摘しないし、決算になんらかの支障があるなども聞いたことがない。
つまりは「適正処理」ということなのだろう。
万一、暗黙のルーティンが公にさらされ、データ改ざんや不正処理を疑われたとしても、部門責任者であるその時の物流部長が引責するだけだ。だからこそ部長席は、毎年のように異動を発令し、部内の詳細を知る余地を与えないようになっている。

こんな話を元上司だった営業課長から教えてもらった。
入社以来、物流部に異動するまでの間、ずっと直属の上司だった。尊敬しているし、異動にあたってはそれなりのミッションも言い添えられた。
部材入荷の時間差が伝票操作を伴う慢性的な原価と売価調整を発生させている。
その修正を行うことが私の役目だと指示された。

しかし、修正すべき受注のほとんどは、私の所属していた課の発行伝票だ。
営業部の正式な発行済み伝票を営業部長の決裁なく物流側で修正などできるはずがない。
赤黒が切れないなら、原価で利益調整して、その補填分を別伝票にのせるしかない。
営業課長の承認と物流部の入荷処理時の修正作業が伴えば、社内的には問題なく進む。
商品部への根回しは営業課長が済ましているらしいから、誰からの指図も無い通常処理として暗黙のルーティン化すればいいだけだ。

課長には恩もあるし、今も尊敬している。
何よりも将来は我社のトップになって欲しいと思う。
営業部から異動になったことは残念だが、他の課と営業部長から横槍が入ったのだから、物流子会社への転籍を阻止してくれただけでも課長には感謝している。
体制が変わったら、営業に戻れるらしいから、それまでは課長の力となれるよう物流で頑張らなければならない。
今の自分にはそれしかできないし、それが使命なのだと思っている。
そのためにも、物流部内での決まり事をすべて把握し、他部門とのやり取りを自分で完結できるようにならなければ。
営業・商品・物流の三部門会議では、私が物流部の担当者として出席し、万事つつがなく立ち行くように調整できるようにならなければ。そして・・・・・・・・

 

いいところだったのに、寝苦しさで目が覚めた。

熱帯夜にみた奇妙な夢。
うだるような暑気の最中に冗長な拙文。
ご完読いただいた忍耐と寛容に感謝であります。

明日あたりから長めの夏休みの方々は、良い休暇をお過ごしください。
お仕事の方々はくれぐれもご無理なきよう。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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