物流よもやま話 Blog

大きくなる夏と小さくなる現場

カテゴリ: 本質

今回の題名だが、「極論のススメ。盆暮正月深夜早朝」にしようか迷った。
極論ではなく正論になるだろうと妄信しているので、やっぱり違う、、、
というわけで掲題を変更したのだった。
働き方の改革ではなく、必然的な構造変化。
過去にも似たようなことを何度も書いてきたし、あちこちでたくさんの方々に話してきた。
こんな内容の記事も「今ではあたりまえ」となる日が近いし、その予感や確信を共有してくださる諸姉諸兄も多い。

自動化や省人化とは全く異なる方角から物流倉庫に大きな波が到来する。
発生地点や要因をたどれば、気候変動、生活スタイルの多様化、職業選択と収入に対する向き合い方の変化、単身・二人家族の比率増加などの相乗、に至る。
一部大資本の物流を含む現場労働力の制御や労務順法上の制度改変が世間に及ぼす影響などとは比べ物にならない大きな波動が押し寄せ、高潮のように「今まで」を呑み込んでしまう。
溺れる企業や、何とか浮かび上がって絶え絶えの息で泳ぎ続ける企業。
それを見越して、早い時期に汗を拭いながら移動した高台で事業を始めていた企業。
俯瞰すれば「構造」という一言が全ての始点となっているが、諸所での現象やそれに対するさまざまな方策がかえって本質を視えにくくしている。
そして、いかなる企業戦略や政策をもってしても時の波動には抗えない。

それは人間の営みがもたらす「今」が生んだことだからだ。
環境変化に順応する生理的な感知力や潜在意識が、現象や現実という名の「今」を形作る。
押し寄せる波動をだれにも止められないことは、歴史に山ほど書いてある。今さら進化論まで持ち出す気はないが、人々の営みは企業の戦略やサービスに支配されたりはしない。翻弄されたり先導される一時期はあっても、生理的な不快や違和を感じさせる中身なら、必ず淘汰されて違う仕組みが生まれてくる。少なくとも今までの歴史ではそうだったし、覆すような兆しは今のところ現れていない。ゆえに、歴史に倣うべき点は、素直に従ってよしとする。
物流設計に着手する際には、基礎的な条件や根拠として、偏りなく把握しなければならない。

再三書いているとおり、わずか四半世紀足らずの間の劇的な気候変動が人間の営みに大きな影響を及ぼした。
否応なしに、そして理屈抜きに、「暑い」や「蒸して不快」は労働や余暇のあり方に影響を及ぼす。そこに精神論は通じない。
空調に依存しなければ仕事も遊びも成り立たない。
オフィスワークでも現場作業でも同じ。
行き過ぎた高温多湿は生産性や意欲を大きく減滅させる。

いろいろな工夫を何度も試みて、気候に打ち勝つ方法を模索した結果、何もしないことが一番の適応と気づくのだろう。
赤道に近い地域の人々が太古からそうしてきたように、苛烈な炎天や逃れる間もない急な豪雨に抗うことは、むなしい結果しか生まないことを遅ればせながら我々も学ぶのだと思えてしかたない。
自分のいる場所を快適に維持してきた結果が温暖化の一因となり、結局は自身にその因果がめぐってくる。
暑いから冷やす。蒸すから除湿する。
引いて観れば、火に油を注ぐ行為に間違いないのだが、「今」という言葉に続く多種多様な出来事や意識がそれを止めさせない。
エアコンのスイッチをONにするだけで得られる安楽に抗おうとはしないのだ。
私もそのうちの一人である。
この数年来、学者でもないのにこんなことをよく考える。

一般の方々は実感がわかないと思うが、真夏の倉庫内は想像を超えて過酷この上ない。
天井高が低く空調完備という、恵まれた一握りの自社倉庫以外はほぼ当てはまる。
業務用の簡易冷風もしくは送風設備があれば多少は楽に感じるが、多くは置き型の大型扇風機が作業場所に何台かあるぐらいだ。
鉄骨造で壁や屋根に断熱処理のない築年数の経った倉庫なら、ただ庫内に立っているだけで身の危険を感じる建屋も少なくない。特に上層階は強烈で、実際にその環境を体感した者は、日中の作業を禁じるべきと思うだろう。
重ねて言う。
頻繁な休憩と給水で対処するのではなく、作業しないことが正解なのだ。

近年、熱中症を最多とする庫内事故が把握できないほど多発しているはずだし、結局は休職や退職を招いて労働力を失うことになる。
仕事をこなすために無理を押し通した結果、仕事を請けられない状況になってしまう。本末が転倒していることに気づいているが、現状のまま作業を続ける倉庫は多い。
そのしわ寄せが実際に出てくるのは、盆明けの残暑と言われる時期以降だ。体調を崩すスタッフは9月に入ると急激に増える。10月から暮れにかけての繁忙期にさしかかっても、欠員補充に追われている現場は珍しくない。
今年もその傾向は強まる一方であるし、無策のままの倉庫現場では事故が絶えず、荷役に支障が生じるだろう。管理体制を考査したならば、経営体質まで問われるに違いない。
夏季の現場運営とその労働環境対策は、経営問題の上位にあるのだと再認識いただきたいと懲りることなく訴える次第だ。

前々回の記事でも書いた「働く時間」に加えて、働く曜日や休日、長期休暇の一斉取得などの「常識」や「普通」の内容は急速に変わっているし、更に多様化する。

生産性の低下が著しい夏季 ――― 今や5月から10月までの半年間を指してもよいと思う ――― はもちろんだが、その他の春秋冬も同様の傾向を強める。季節ごとの気候に適応した働き方だけではなく、長い夏季の変則労働の影響で、通年の総労働時間に対する調整や修正が春秋冬に案分される。基本的には連休や年末年始などのカレンダー上の長期休暇期間が代替労働日に充てられるのではないか。
過酷な夏季に抑えた労働時間を、気候の良い春秋や年々暖化する年末年始で埋め合わせる従業員が増える。行楽シーズンや年末年始を特別視しない傾向がより強まるだろう。
ただの個人的感覚に過ぎないが、今夏の夏季休暇の取得パターンは、すでにかなり多様化・分散化しているのではないかと思う。一週間を超える連続休暇を過ごす人の数が多いことも影響大なのかもしれないが、交通機関や行楽地、大型のショッピングモールなどの混雑状況は拍子抜けするものだった。
休暇の取得期間や時期だけでなく、その過ごし方や楽しみ方の多様化や分散化に拍車がかかってやまないのだ、と内心で納得していた。

土日祝、盆暮正月、大型連休。
などは「仕事をしない日」ではなくなりつつある。
早朝深夜、週休三日、複数就業。
なども珍しくない労働形態の要素として、より常態化する。

個人の労働と余暇に対する意識変化と行動パターンの細分化。
大きくなってゆく夏と小さくなってゆく人間の労働時間や作業現場。
気候に翻弄される労働環境。

私たちはそんな国に生きている。
知足の浸透がより求められるようになる気がしてならない。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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