物流よもやま話 Blog

主流化するウォークレス・ピッキング

カテゴリ: 本質

物流現場で導入盛んな各種機器やシステムの話題を毎日のように眼にする昨今だが、先日もそれに関連するニュースについてのコメント記事を書いた。

白鳩の新物流拠点で混乱、オートストア運用ネック


ここでずらずらと並べて説明することはしないが、現場で採用される機器類のほとんどは、「人が担ってきた時間と負荷」の一部負担・代替作業をするものである。
その中でも明瞭な効果を上げているのがピッキング作業関連の各種システムや機器類だ。

ピッキングはウォーキングがその所要時間の過半を占めることが多く、昨今隆盛のEC事業ならその傾向は顕著になる。
ECによる受注引当後の出荷指示をうけて、WMSが作成排出するピッキングリストの中身をみれば、そのほとんどが1行1個の明細となっており、つまり行数=ピッキング数となる。
(自動名寄せ機能がなく、シングルピックを採用していればだが)

そしてなおかつピッキングリストが切替われば、また同じように1行1個づつ取り続ける作業が繰り返される。もちろん最適動線の割り出しやピッカーへの順路指示などは、庫内システムの発達によって目覚しい改善を得てはいるが、それでも根本的な作業要素は変わらぬままだ。
つまり同一人物のピッキング所用時間は歩行時間によって長短が決まる、という点だ。
(人間が作業する場合には、必ずしも最短距離・最少時間=最適動線とはならない)

庫内の該当ロケーションでの物品取り出し作業こそがピッキングなのだが、そのために実作業より時間を要する歩行が不可避だった。
これは「積み下ろし時間<走行時間」となる配送業務にも共通するコスト構成要素だ。
開発されたピッキング補助機器たちは、その移動時間を短縮したり削除してくれる。
作業者は所定の位置に立ったまま、目の前に移動してくる小型コンテナ――庫内のラックに格納されており、従来のロケーションに相当する――の中から指定された数量をピッキングし、次に移動してくるコンテナからもまた同様に、、、のように、次々とピッキング作業が進められる。AIが制御するシステムは「切り替えによる手待ち」にあたる状態を回避するために、ピッキング対象のコンテナを作業者の手前で順番待ちするがごとく控えさせ、ピッカーは次々流れてくる箱を相手に作業を続ける。その際にも、やはりAIによって算出された理論的作業効率の指数を下回らぬように手を動かさねばならない。

梱包ラインでは、似たような光景が以前から多くの現場でみられた。
それは自動車産業を筆頭とする各製造業の工場では、すでに日常化されているものばかりだ。
もはや説明不要だろうが、その理屈をヘッドハントしてきた人材ごと物流倉庫に転用・加工したのがアマゾンだったわけで、10年以上遅れて、やっと業界全体の動きになりつつある。

このウォークレス・ピッキングの完成形は、既存用語で書けば「トータルで取って、自動名寄せによる個口化の後に自動梱包ラインへ流すこと」である。
梱包の自動化によって、シュリンクや緩衝充填材の装着装填からテープ止めに至るまで完了できるし、その後の荷姿別仕分と配送エリア別の出荷区分けまでソーターがやってくれる。
こうなると、滞留解消や位置ずれの微調整など、軽作業と監視ぐらいしか人間の仕事はない――があちこちで謳われている「合理化を極めた最先端の物流現場」の様相となる。

「買ったものが希望の日時に正確に、何の支障もなく届く」さえ満たしていれば、その他諸事には関心が向かない購入者。
その心理を心得ている販売者は、一定の効率とコスト管理によって、安定的に物流現場が生み出す「何の問題もないお届け」を維持したいと願ってやまない。
ほとんどの購入者は、買って、受領して、使用する、こと以外には「無意識」「無関心」でいたいからだ。

「モノを買う」という単純な行為を違和感なく身構えないまま終わらせるために、余分な要素を削り落とした結果が、「物流業務の透明化」とも呼べる合理化による無個性化である。
購入品に問題がなければ、‘ 次 ’が期待できる。小売りにおいて、紹介と並んでリピートは王道であるし、それ以上の販売効率の歩留まりはあり得ない。
成功事例としての戦略評価が高まれば、倣う事業者は増えるだろう。

現状では一定以上の業務量がなければ、設備投資として成り立たないし、いつの時代もこういった利器やシステムの登場後しばらくは、客側が開発・販売者のルールに合わせないと稼働や効果が望めないのは常だ。しかしながら、現段階では導入に必要とされている前提条件の数々は、機能の拡張性や対応能力の柔軟性を伴って、時間とともに緩和されてゆくはずである。
導入した企業にとっては、長きにわたり抜本的な改変ができなかった業務フローの合理化や再構築に踏み切れるだけでなく、新業態への対応も十分可能となるなど、数字以上の潜在的業績寄与も期待できるだろう。

ウォークレス・ピッキングの現場風景を想うとき、昭和の時代の縫製や家電や各種機械の組み立て工場の映像が重なる。
無音のモノクロ映像には字幕による短い説明が付され、まるで機械の一部のように忙しく手許を動かす作業者の姿が延々と流れてゆく。
いつしか画面にチャップリンが現れて、工場の作業者の後ろで何やら呟いているようだが、それはもちろん聴こえはしない。
読者諸氏がそのセリフを付けるとしたら、どんな言葉になるのだろう。
問うた本人にはの答えが浮かばないのだが。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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