物流よもやま話 Blog

ローカル・ロジスティクス【1】

カテゴリ: 経営

― 承前 ―

大都市圏から離れた地域にある市区町村などの自治体は、物流機能を中心に据えた公共性の高い事業を検討項目に加えるべきだ。
一石二鳥どころか三鳥以上の効果を期待できる。
俗にいう三層構造の最下部に位置するとされる市区町村。視点を変えれば「行政の最前線」と表現できるし、そのほうがはるかに好ましい。なぜなら常に「住民生活の現場」での業務に勤しんでいるので、地域の実態や動向を目の当たりにしているからだ。

ここで今一度、地方自治体の現状に対する認識を示しておきたい。
記憶に残っているだけでも「地方」「地域」「ふるさと」で始まった国家施策は多いが、朽ちて残骸となったり、違和感・勘違いの傷跡が癒えぬまま今に至る自治体は数多くある。
当時の潤沢な補助金や助成金は廃墟や廃止サービスと化して久しいことは、具体的に説明するまでもないだろう。

時が流れ、今では「自分のことは自分で何とかしてください」が国策である。
「ふるさと納税」にしても、国が行うのは仕組の策定と実施のみで、実行の具体は三層構造の二層目をとばして、各市区町村に直接委ねられている。
三層構造の真ん中に位置する都道府県の中には、上下それぞれに対して存在意義と行動の具体を示せないままであることも珍しくなくなった。
つまりは住民と直接対峙する市区町村は「上を向いて歩こう」ではなく、足もとを確認し前を向いて自力で歩かなければならない。
これからは誰も助けてはくれないし、路銀を恵んでくれる金主は現れない。

「何でも相談に乗りますよ。お金のこと以外なら」
と突き放されて、それでもひたすらにすがって頼むばかりのなさけない首長などいない。
無駄な相談の時間は早々に切り上げて、わが町わが村の当事者たちと話し合いの場を設けなければならないはずだ。
その際にいの一番に議題とするべきは「お金のこと」に決まっている。
自分たちの暮らす場所を維持するために必要な収入を得なければ、借金にまみれた末に債務超過から破綻の憂き目に至る。
過去や現在の事例を読み返すまでもなく、自治体関係者なら重々承知していることだろう。

まず第一に少子高齢化による課題と将来への影響を自治体域内で共有しなければならない。
次に住民流出もしくは転入者寡少による人口減少。
結果としての歳入不足と自治体運営費の不足による域内住民サービスの劣化。
生活・商業環境の悪化と雇用不足による、地域としての流入人口の絶対量の不足。
どこかで連鎖の輪を切らなければならないことは皆が承知しているのだが、有効な施策が見つからない。

そこで一案として物流事業の公共サービス化を推す。
理由は以下のとおりだ。

生活物資の安定確保と配付が自治体で内製化できる。
次に機能維持のための人員が必要となるため、雇用が生まれる。
その雇用を維持するのは、住民が利用する物資の購入や配達サービス、域内の移動や購買補助の公共サービスであり、それらはすべて有償ゆえに各自の所得からねん出される。しかしながら、当該諸出費は、そもそも各人が生きるために毎日費やしていたコストであり、単純にそのまま自治体内で完結させる仕組に切り替えてもらうだけだ。

さらには隣接自治体との共同・共通・共有などの乗り入れによるスケール効果を図る。
かならずや1+1は2以上、1+1+1は3以上の結果になると目算して支障ない。物流機能はスケールメリットの享受という点で抜きんでてすぐれているからだ。単体では不足している財源や必要利用者数などの物理的な解決には不可欠になる事項も多いだろう。
そのためにも首長の仕事の中で重要度が高いのは、国や都道府県に請願して、特例措置を地域限定で認めさせることになってくる。
金を出さない代わりに口を挟まず、理解と許容だけを専らとしてもらう、が趣旨だがその詳細は後述する。

最大のポイントは、域内の民間事業者を巻き込んで公共サービスの補完とすること。
ここでいう「域内の民間事業者」とは自治体内に本店もしくは主たる事業所もしくは支店等事業所を置いて、車両や不動産を保有し、域内で雇用を発生させている納税事業者という意だ。要件と言い換えてもよいだろう。
くれぐれも善意や寄付、協賛と混同なきよう留意しなければならない。それはそれでありがたいのだが、ボランティアや善意による無償・割引の恒常化は、収益と責任の両輪で動かす事業の継続に危うさをもたらすからだ。

これら一連の施策には二つの効果が期待できる。
ひとつは地域への転入者増加だ。
もうひとつは、事業者の地域内活動増加だ。

転入者に高齢者世帯が多く含まれるのも想定どおりで、空き家となっている既存住宅のリノベーションによる、転入者受け入れや誘致。同時に軽労働の斡旋による地域への社会参加。
それが子育て世代やその下の単身者世代の転入増加の呼び水にもなる。
高齢者の多くは納税者としての役割は終えていても、消費者としてはいまだ現役。
消費を支える人口の増加は自治体にとってありがたい。軽労働の中に「自治体運営の学童保育や子守サービス」「共稼ぎ世帯が利用できる掃除・かたずけサービス」「庭や家庭菜園の手入れ補助」などが含まれることも有効かと思う。

半面、福祉や医療・介護などの手当てや予算が必要になるのだが、これには手品や飛び道具が通じない。
民間協業の施設運営や、隣接自治体と共同のサービス維持を汗水流して行うだけだ。その労力や創意工夫の連続を求められる点では、どの地方自治体も同じだろう。
介護保険や助成制度を活用しつつ、自治体独自の運用案を逆立ちしてでもねん出する。
微力ながら、物流事業の一環に福祉機能を取り込むことが私案のひとつにあるのだが、それ以外の要素についても不肖ながら協力やアイデア発言を心がけるつもりだ。

「ここまでが物流機能の役割なのですよ」
と区分できないことは、着手前から覚悟して臨むべきだろう。

― 次章に続く―

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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