物流よもやま話 Blog

支給するのか貸与なのか

カテゴリ: 経営

先週に引き続き冬季ネタであります。
あえて“冬季”としたのは、
「発熱・保温などの高機能繊維でできたインナーウエアを制服同等物とする」
のなら、夏場のTシャツやポロシャツなどと同じく、
「退職時要返却の貸与品とするのか無償支給品とするのかの判断がより難しくなる」
というモンダイが近年増えているからだ。
(ややこしくなるので、廉価での本人買取や追加品有償となる事例などは外します)

まず第一には従業員に要する通年の制服コストが年々増加している中で、さらに冬季の高機能下着を加えるのか?という大前提のハナシ。
「加える」とするなら、それは貸与なのか支給なのかというルールのハナシ。
「支給する」とするなら、短期退職者についての規定をどう定めるのかのハナシ。
のごとくさみだれ式に決め事が連鎖する。

特に「支給する」と「短期退職」の規定内容はデリケートでやっかいだ。
「短期」とは何か月未満を指すのかも決めなければならないうえに、返還や買取などの決め事もややこしい。受け止め側の抱くイメージにも幅がありそうで掴みどころが難しい。
貸与品が返却された場合、それを他者に再貸与するのか否か、、、Tシャツ類と同じく「直接肌に触れるモノ」であることが事業所ごとの判断に差を生じさせている。

「人件費漸増、水道光熱費も高止まり状態から漸増、採用経費高騰のままさらに増加傾向――の条件下では高額な空調設備への投資は叶わぬが、労働環境向上は心がけよ」

という経営からの要求に応えるためには、小さなことからコツコツとやるしかない。
その一環に「冬季の現場で少しでも暖かく働いてもらうために」のような一行が加えられるのはしかりだし、段取り少なく即実施できて一定の効果が見込める。
なかには「“あったかい”を支給」なんていう標語めいた告知が現場に貼りだされたり、グループウエアで一斉通知されたりしている物流部門や製造部門もあるようだ。

「辞めた会社の制服なんかほしいかなぁ」と思うが、人それぞれなのは心得ている。
「辞めても着たくなる」ようなデザインや機能性に優れた作業着を貸与もしくは支給しているなんて素晴らしいではないか、、、という意見も多数ありそうだが、こういうハナシは荒れそうなので深掘りしないでおく。

ただ明らかに変わったなと思うのは、防寒用の外套類や制服のジャンパー(ブルゾンって言わないと笑われるのかしら?)などが軽量化されてかつ機能向上している点だ。
さらには機能性下着の軽薄化と調湿保温性能の秀逸さは目を見張るものがある。なによりも厚着しなくてよいし、重ね着しても軽量で動きやすいので、作業時のストレスが軽減される。
なので会社と名入りの制服には未練ないが、あのインナーウエアと同等品を普段使いしたい――という声は結構ありそうな気がする。もっとも今のご時世ならたいした手間暇かけずに似たような製品は入手できそうだから、職場で着用して好印象なものは、同等品をすぐに探して個人で購入すればよい。つまり制服は貸与でよい、となるのかもしれない。

ここに至って「そもそものハナシが欠落している」というご指摘は重々承知の助である。
つまり「制服制度の有無」によって、今までの制服ハナシが「うちはかかわりない」となる事業者は少なくない。
「制服類がまったくない」は中小零細なら3割ぐらいはありそうだし、残りの7割にしても「制服としてはTシャツだけ」という会社が過半を占めるような気がする。

いずれにしても現場作業着の進化は働き手にとってありがたいものなので、支給でも貸与でもよいからまずは制服制度を導入してほしいと願うが、実はこのハードルが一番高い。
そして導入したらしたで、
「現場には制服があるのに、他部門にはその類の補助がないのはなぜなのか」
という大昔からの議論はなくならないし、
「製造や物流現場には社食があるのに、本社や支社などの営業拠点にはない」
という不平不満に至るまで、会社には実にたくさんのややこしいモンダイがあるのだ。

いまや「課長の月給より高い初任給」やスーツや靴まで支給する会社も現れている。
「通常228000円の初任給のところを、来年度は思い切ってなんと、、、
なんとズバリ327000円に!
さらに今回内定応諾者の方には会社借り上げのワンルームマンション一年間家賃無料!さらにはビジネススーツとシューズを三組お付けします。これで終わり?
いやいやまだまだありますよぉ~、、、よってらっしゃいみてらっしゃい、結構毛だらけ猫灰だらけ…もってけドロボー」
傍から見ていると古式ゆかしいストロングスタイルを曲げぬ通販番組のようである。最後は寅さんを思い出してしまったが、それは私だけかもしれない。

さすがの寅さんでも呆れるようなウソみたいなホントのハナシの数々。人材売手市場の過熱と対処策の幼稚化は滑稽さを増しつつとどまるところを知らぬ様相と化している。
かと思えば、CM垂れ流し状態となって久しい転職サービス乱立 のかたやで退職代行事業者の不法行為の発覚などもあって、騒がしいやらお粗末やらのカオス状態ではないか。
この手の“ほころび”は、就職・転職・退職の三本の矢が循環して永続する人材市場の実態を垣間見るには好適ゆえ、読者諸氏も斜め読みなされてはいかがか。

ただ、すきま風のごとく胸中を過るのは、新品→高値下取→転売→再販のような履歴を重ねる「売り物」たる人材諸君のなれの果ての姿がいかなるものになるのか、である。
馬齢重ねとはいえ長く生きてきた大人としては不明で不安だとしか言いようがない。

あらら、制服のハナシをしていたはずだが、ちょっとずれてしまった。
今回もおゆるしを。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

最近の記事

アーカイブ

カテゴリ

お問い合わせ Contact

ご相談・ご質問等ございましたら、
お気軽にお問い合わせください。

お問い合わせフォーム