物流よもやま話 Blog

物流倉庫の敷地内喫煙モンダイ

カテゴリ: 経営

ずいぶん前から問題提起しているハナシなのだが、物流倉庫における喫煙場所設置の是非についての所見を再度述べてみたい。
発生から鎮火までに長期間を要し、黒焦げた悲惨な残骸と化す倉庫建屋の火災事故を見聞きするたびに、脳裏に過る想いはいつも同じ――かつて喫煙者だった身としては、昨今の強硬な嫌煙推進の論調にはもろ手をあげて賛同しかねるにしても、「倉庫業務に携わる時間」という区切りを設けての意見としては、敷地内完全禁煙が妥当ではないかと考えている。

昨年も大阪北港エリアで大規模倉庫の火災があったばかりだが、数年前の埼玉での大火災やその他小規模ながらも火の不始末や設備劣化やメンテナンス不備による漏電発火など、倉庫火災の発生は途絶えることがない。
倉庫業法や消防法規以前に、物品保管に使用する建屋内外の火気始末については、常識的な判断と適当な対処で十分こと足りるはずだが、実状はそうなっていない。

危険物ではなくても可燃性の諸物を取り扱うなら相応の構えと注意は最低条件である。
なので未だ倉庫建屋の入口や裏手に自動販売機とベンダーが寄付してくれるベンチを置いて、そこに灰皿をもってきては休憩所兼喫煙所としている倉庫建屋などは論外である。
ましてや営業倉庫なら寄託先としての意識低劣と断じられ、即刻の改善要求をされても反論の余地はないだろう。まともな荷主ならそのような指摘をすることに疑いはない。

消し忘れたり、消しても熾火(おきび)状態のタバコやそれに引火した紙類が、大きく開口した倉庫入口から風で転がりこんだら、、、ぐらいの想像力は働かせてほしい。
今まで事故が起きていないとか、灰皿の火の気が庫内に転がって、廃資材やPP袋、パレットや棚にある保管物に引火することなどありえない、、、などと高をくくっているのだとしたら、即刻見識を改めるべきだ。
くわえ煙草のまま庫内に入る、開口部のわきに空き缶などが灰皿代わりに置いてあるなど、大事故の原因は慣れや思い込みや独善的な判断によるものがほとんどであり、言い換えれば人災ばかりである。

商材の日焼けを嫌い、壁面利用に不効率となる窓を極力少なくしている倉庫建屋は多い。
ゆえに耐震性や堅牢性には秀でてはいるものの、建屋内部からの発火には前述の長所と同じ大きさでマイナス要因となってしまう。
避難路が限定されて、煙の逃げ場が少ないだけでなく、外部からの侵入経路が限られて、消火活動時の障害となってしまう。近年の傾向として屋上にはビッシリ張り巡らされた太陽光パネルがあるので、屋上を斫り(はつり)開口して消火活動するにも、即時行動が叶わぬのだ。

建屋内に防火構造の喫煙スペースを設けたり、倉庫建屋から離れた場所に防火・不燃素材で囲われた喫煙場所を設置するなど、事業者の努力と工夫は理解している。
しかしあえて切り捨てるように書くが、物流倉庫は敷地内を全面禁煙にすべきだと思う。
倉庫で働く従業員に限らず、出入りの運送業者や資材会社、その他取引先各社の喫煙者からは不満と戸惑いの声が上がることも承知しているが、ここは経営が断行してほしい。率先垂範が基本だと思うので、本社や支社などの全部門が就業中の喫煙禁止に踏み切るべきだろう。

とある営業倉庫の経営者は「喫煙場所をなくしたら、庫内や建屋の裏手でこっそり吸う従業員が必ず出るので、かえって危険だ」とのたまっていた。
このような発言をあえてやり玉に挙げるまでもなく、幼稚で無責任な思考回路を持つ経営層や管理層はまだ多い。倉庫保険に加入してさえいれば世間体がとりつくろえる責任は果たしていると勘違いしているらしく、実際に耳にした際には唖然としてしまう。
上述の喫煙所設置理由は、庫内盗難はなくならないので、あえて盗人従業員が持ち帰る保管物を目の付く場所に置いておく、、、と同じなのだということを全く理解できていない。社員やパートは不実で不明で愚鈍なので、理を説いても無駄である、という不遜な愚民思想としか思えない。読者諸氏はそんな愚かな開き直りと割り切りを排除していただきたいと願う。
部下や相手への諦めは、自分自身の限界を早々に設けて責任放棄することに他ならず、それは大切な物品を預かり扱う倉庫事業者としての資質として欠格である。
ドライバーは酒気厳禁、蔵人は火気厳禁、管理者は呑気厳禁。
「これで食っているのだ」というプロ意識があれば、このようなハナシは無用である。

また漏電や老朽化による加熱を起因とする発火も稀にあるようだが、タバコの消し忘れやそれが放置されたままの灰皿内のポリ包材や紙類に引火しての飛び火に比べれば、はるかに発生頻度低く、事前に誰かが異変に気付いて未然防止となるケースがほとんどだと承知している。
ゆえに倉庫火災を減らすために最も簡単で即着手できることは、敷地内の喫煙禁止であるというのが私の意見だ。

よく知った老舗の営業倉庫が全焼事故を起こした際の火元は、ベテラン従業員のタバコだった。黒い柱の残骸と化した建屋の惨状は今も眼に焼き付いている。
その倉庫会社はそのまま廃業した。

就業時間内の喫煙時間を休憩扱いするか否かの是非を問う議論が盛んだが、それ以前に倉庫業の基本行動と商道徳として業務時間内の火気厳禁を範とする事業者の増加を望む。
物流会社では一切の酒気帯び運転・長時間連続勤務・敷地内喫煙を厳禁とする常識の徹底は、顧客たる消費者や荷主の目線なら「あたりまえ」であること明らかだ。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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