物流よもやま話 Blog

自社物流の存在価値(前編)

カテゴリ: 経営

春先は展示会や取引先の人事異動などが続くので名刺交換の機会が増える。
挨拶後に企業物流の改善手法などについてハナシが及んだりすることも間々あるわけだが、よく質問されるのは「具体的な物流改善の進め方」についてだ。
実際の会話ではかなり端折ったり、最終到着点の説明はしないことが多いので、今回は通常のサポート手順と物流改善の先にある到着点を簡単に説明してみる。
ちなみに関与先の要望や状況次第でかなり変則的になる点は言うまでもない。

まずは丁寧に相手の「主訴」を聴き取り、その内容を整理整頓した要旨要約をテーブルの上に載せて共有。次に、見え隠れする因果の両端を線で結んで点在・混在を解消。
というのが仕事の始まりの基本動作となっている。

「誤出荷などのミスが多く、営業部門から信用されていない、、、社内評価が低い」
「在庫差異が常在しているが、原因たる作業や発生日時を突き止められない」
「入荷も出荷も消化容量が上がらぬままで、人員補充してもさほど変わらない」

などの主訴たる「現象」を全部書き出してみる。主訴が出尽くしたら、重複項目の削除や補足加筆などの添削作業を関与者全員の眼前で確認しつつ行う。
EC専業なら主訴の数はとても少なく、解決までの手順もさほど難しいものではない。多くの営業倉庫がEC事業者の仕事を大好物としている理由のひとつである。
しかしながら、ワタクシに回ってくる相談事は、製造業の複雑で一定規模以上の物流案件がほとんどである。一見一聴の段では系統的・論理的であるかのように装飾されているわけだが、そのような化粧はあくまで基本業務フロー、基本作業手順についてでしかない。整然と敷き詰められた畳や床板をめくり、しわも汚れもない壁紙をはがしてみれば、、、以下省略。

最初に聴いた「基本」を冠する約束事の大きな囲み枠の上下左右斜めには「例外」「別枠」「一時」「短期」「特別」「季節」「補足」「予備」、、、限がねぇだろっ!(失礼しました)
のような「大」「中」「小」項目から矢印がニョキニョキ伸びて、何度か曲がって、どこかを経由して、寄り道して元に戻って、、、やっぱり限がねぇだろっ!(重ねて失礼しました)
という「複雑怪奇な相関図」がヒアリングの深化とともに姿を現わし始める。

それは、素麺を床に散らかしたような絵柄に似た、
「無数の矢印でつながっている恐ろしい数の業務種別」
「もはや何を意味しているのかがよくわからん在庫ステイタス」
「眼を凝らすと微妙に一文字二文字が違っているだけの多数の出荷種別」
などの構成物からできている。
さらには各業務区分に強固な緊結具や接着剤もしくは強烈な分離具や不着剤として「大昔からの踏襲」「人間関係」「部門間の垣根」などが激しく効いている。不肖ワタクシの経験則に過ぎないが、物流業務以前のモンダイとして、第三者的視点なら「?」となる固有区分や固有業務は、数多の事業会社でアタリマエに根付いているので、いちいち驚かなくなった。

キックオフ時に正論かざして改善の名乗りをあげても、面従腹背やネグレクトなどの排斥行動と否定感情が強まるばかり――という反応はおそらくどの企業で改善業務を請けても似たりよったりだと思う。センセイ面した外部からの侵入者に、すんなり胸襟開く者など皆無なのは至極当然であるし、こちらも承知の上だ。
なので淡々と静かに、聴き取りと観察を入念かつ迅速に行わねばならない。

第一次ヒアリングが終ったら、業務フロー・現場作業手順・事務手順にそって情報仕訳し、解析・検証・修正などの作業。矛盾や錯誤はひとまず棚上げしておくのがコツである。
言うまでもなく、すべての作業の目的は「業務改善」と銘打った方法論の合理化や簡素化。
技術改善(業務ミス削減など)は下流域での対処法に過ぎず、先述のとおり現場での「現象」を防除する行為でしかない。

順序としてはその原因が生まれる場所を突き止めて処置せねばならない。
「原因と結果は同時に生まれる」という言葉を久々に書いたような気がするが、物流業務の本質は因果具時の四文字で言い表せるというのが大昔からの持論である。
なので、単純なルール無視が招いたミスでなければ、結果や現象が出現した場所につながる矢印の対極に原因が生まれる場所が存在しているはずだ。
業務フロー図や相関図には整理整頓の元図となるが、原因と結果の特定に有効な業務俯瞰図としても大いに活用できることは読者諸氏ご承知のとおりである。
無論、平常からこまめに勤しむべき業務フロー・作業手順・業務相関などの図示化と改善改新は基本中の基本であるし、その点については何人も異論あるまい。

このあたりの段階をサクサクこなしてゆかないと、大本命である「自社物流の存在価値」の考察と試算、さらには内製or委託の是非を問う際の指標、にはたどり着けない。
くれぐれもご用心いただきたいのは、物流部門はもとより社内に常在する「グレー」や「あいまい」を白黒明確に裁こうなどと夢にも思わぬことである。
そもそも適時適宜の「白黒ハッキリしない・曖昧なまま先送り」は商売の本質をなすものなので、物流機能だけが白河の清き流れのごとくあり続けることなど叶わぬ夢想だ。
(濁った田沼がよいと推奨しているわけではないので、くれぐれも誤解なきよう)

次回の後編では、基本作業の後に着手すべき試算について書くつもりだ。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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