物流よもやま話 Blog

‘できない’は‘やらない’と同じ(上)

カテゴリ: 経営

―承前―

もう一週間、、、というつぶやきのような不肖ワタクシの愚痴はどーでもよい。
前掲に続いてのハナシを始めなけばならない。が、先週の時点ではものすごく書く気満々だった憤懣(ふんまん)まじりの主張が、週明けと同時に激しく意識低下しているではないか。
「いったい何に対して怒りや不満を抱いていたのか」を正座して思いだす作業から取掛かり、「そうじゃ、あのハナシだ。そうじゃ、ズーっと昔から腹立っていたのだぁ」と、先ほど我にかえった次第なのだ。
「〝うっかり忘れてしまう〟ということは、さほど重要だと思っていないからではないのか」
という厳しいご指摘に対しては、「誤解を招いた不徳についてはお詫びするするが、単なる老化健忘の進行によるものなのです」と思いっきりの言い訳をお返ししておく。

前回追記にあるように「特定業種・職種については難しい」という事情の説明を業界内で散見する。「できない理由の念仏唱え」にうんざりしているのは私だけではないと聞く。
俗にいう〝エッセンシャル・ワーカー〟は、社会経済活動の持続的な稼働を支える源なので、業界内外での活発な議論による抜本的改善が喫緊の課題として…のような対岸から眺めている非エッセンシャル・ワーカーのコメントやねぎらいの言葉も腹の足しにはならない。
(現状への理解と改変賛同の意を表することは世論の後押しとなるのでありがたい)

かといって何でもかんでもバッサリ切捨てるのはちょっと乱暴かもしれぬが、現状の傾向説明ばかりが目立ち、具体的で即効性のある対策を講じて実施する動きがあまりにも少ない。
死亡診断書を精査しても死人がよみがえることはないが、死因の正確な解明は明日の医療の糧になることぐらいは承知している。なので過程の検証を否定するつもりはない。
ここで問うているのは、物流の労働力モンダイに関する死亡診断書ナナメ読み的議論や、労務環境は死に体状態という事実を嘆き憂うばかりで、明日の物流への布石として無駄にせず活かそうという具体論や行動指針の開示が少ないだけでなく、対症的に過ぎるという点だ。

わが国でこのまま少子高齢化による人口減が進めば、あと15年ほどで1000万人超の労働人口が失われる。しかるべき方策を講じなければならないのは物流業界に限ったハナシではない。
2024年問題にしても、運輸業の時間外労働枠の優遇措置が来年終わることなど2019年4月の改正労働基準法施行の時点で確定していた。なのに、昨年半ばごろから今年にかけていきなり火が付いたごとく騒ぎ立てるメディアや業界団体には呆れてしまう。もっとひどいのは、メディアなどの報道で「初めて知った」という業界関係者や一部の荷主企業経営者たちだ。
他人ごとでも対岸の火事でもないのだと自覚できていないらしい。

時間外労働の上限枠順守と監視厳密化がもたらす総労働時間の短縮問題以前から、物流業界の労働力不足は暗黙の了解と化した不法労務のなれの果てとして膨張し続けてきた。
なので今回の総労働時間短縮と業界の致命的欠陥ともいえる労働環境の低水準は、現象としての「人手不足」は同じでも、まったく出自が違うということを知らねばならない。
医療や介護もしくは教育などの業界でも、似たような不合理や劣悪な労働条件下の上にサービスが成り立ってきた業界体質の歴史があるので、参照すればよりわかりいいだろう。
物流業界を特殊扱いせずに、他業種同様の合理化や労務健常化を行えば、現状の「ぜんぜんダメなところ」や「まったく遅れている」という要素が激減する。そこから先は、世間一般の業種業態とおなじく、理想と現実の乖離を埋め合わせるべく日々努力するのみとなる。

世間並みの報酬と労務条件を約束できないのなら、その業種や職種の就業人口は減るに決まっている。2024年問題とかいうドタバタ騒動にしても、物流危機などと煽る必要は全くない。
危機などと憂い案じる暇があるなら、頭と手と口を正しく働かして、最も人員不足・人材減少が顕著な4t車やら10t車の中長距離を担うドライバ―の給与水準と労務順法の厳密化を今日から徹底すればよい。そうすれば後継を担う人材が必ず増加する。なぜなら単独行動での業務完結を望む人材は一定比率存在するので、そういう求職者にとってドライバー職は好適なのだ。

蛇足ながら書いておきたいのは、残業時間の上限自体が適当な数値なのかについてだ。
厚生労働省の作成した「働きかた改革」の素案に、現場実状を酌んだ反論と代案が出せなかった国土交通省――で、そのまま決まった「年間960時間」となったのではないのかと勘ぐらぬわけではないが、今それをあげつらっても不毛でしかない。
幾人かのドライバーの声として参考になったのは、「残業といっても、単なる荷下ろし待機や到着時間調整などの拘束時間が含まれているので、その間は実働している感覚は鈍い」
というものだった。
なので現実には月平均100時間、つまり年間1200時間程度の上限でも支障ないかもしれない。
(あくまで勝手な予想である)

2024年問題云々以前に、今後わが国を見舞う労働力不足に対処するために、すべての荷主企業は集配の時間的猶予を認めなければならない。
具体的には着日が24時間、長くても48時間程度余分にかかることを受容すれば、運送業者の運び方は変わり、ドライバーの働きかたも変わる。どう変わるかはまさに運送会社によって千差万別であり、それは各社の経営能力の優劣が赤裸々に反映される競争力の源となる。

ちなみにこのハナシを聴いて、抵抗や難色を示した荷主企業は皆無だった。もちろん私の知る範囲でのハナシなので、一般論とするには無理があるのかもしれない。
しかし多くの荷主は人件費・燃料費の上昇差額分を一定期間ごとに転嫁するという「実費スライド」以外のコストアップにはシビアでも、時間猶予には柔軟な反応を示す傾向が強い。
つまり、荷主理解が得やすい集荷から配送完了までの所用時間拡大や、実車率向上のための弾力対応をコスト抑制と労務水準維持に変換することが一つの解になりそうだと考えている。

それ以外の運輸関連については、まずは「同業他社の重複労働」の見直しを建前や意地を外して断行することで労働力不足を生む要素のひとつは改善できる。何でもかんでも競争せず、呉越同舟さながらに協業体制や掛け繋ぎ連携などの相互譲歩を受け入れればハナシは早い。

今週頭のヤマト運輸と郵政のメール便協業などもその一例であり、大手食品事業者が「物流機能では競わない」と宣言して設立したF-LINEなども先駆的存在として有名である。
いずれも合理的であるし、本質的な個客便宜を協業によって実現したに過ぎない。言わずもがなだろうが、幾重にもそびえる企業間の高く厚い壁および各企業内の旧い壁や堀の撤去には相当な内部労力が必要とされるに違いない。しかしながら、そこを打破することことで明日の物流に陽が射し込むようになるなら、今の苦労を厭わぬ関与者諸氏は少なくないと思う。

次回(下)に続く。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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