物流よもやま話 Blog

ひとはしろいしがきほり

カテゴリ: 経営

先月初旬だったか、「ユニクロがすげぇことを始めた」と知り、内容を確認してみた。
確かにすごい。TOYOTAのアパレル版をやろうとしていると感じた。
しかしながら物流業務全容からトリミングされているので、切り落とされた残りの部分が気になった。「すげぇこと」と「今までどおりのこと」の業務連動や庫内同居に支障が出るのではないか?という外野の老婆心みたいなものだが。

巨大メーカーのような一方通行物流なら完結可能だと思うが、国内外で多数の実店舗とECを運営するアパレルSPAなら不可避の、二次派生業務はどう処理しているのかがよくわからない。なぜなら今回の「すげぇこと」では処理不可能ではないかという要素が多分に含まれているからだ。
つまりは返品入庫・検品・分別・仕分・リバイバル・リパック・再計上・再保管・再出荷という流れまで自動化もしくは別施設で捌けるなら、段差のない業務フローが出来上がるが、そこまでの情報を得ていない。機能追求という面では今後も注目したい。

ただし、変わらぬチャレンジ精神と行動力は素晴らしい。
リーディングカンパニーが最多の努力と現状改新をやめないのだから、追随する他社(そんな会社がはたしてあるのか?)は追いつくどころか背中さえ見えないのではないか。
SPAの強みを物流まで貫く経営力は圧巻としか言いようがない。
SPAだからこそできる。SPAの中でもユニクロのような商品企画だからこそなじむ。製造段階で物流現場までの初動の業務フローが出来上がっている。つまり物流現場と製造現場が完全に整合しているのだろう。
絵に描いた餅を実際に焼いて旨そうに食っているのがユニクロなのだ。

一昔前から「ユニクロの物流コンペはきつい」とされてきた。他の大手SPAとは異なり、値段がきついとかタイトであるとかだけの意味で吐かれた言葉ではなかった。
「完璧な物流業務設計と原価企画」が内部で出来上がっており、仮に入札者が独自の提案をしたとしても、それを凌ぐことがほとんどないからだ。落札会社は単純に建屋や設備や人員の供給を行っているだけで、物流会社としての規格ノウハウの提供は不要とされた。アマゾンと日通の関係に似ている。
すでにある規定とそれにそった指示に従って運営することのみが求められる。
現在は自社物流に切り替えたので、運営形態としてはアマゾンと同じになった。
自前で設計し、業務フローを運用し、コスト管理も行う。アマゾンが世界にさきがけて行った物流戦略と同じだが、今回は更に進化させた内容といえるかもしれない。

両社の最大の違いは「人員」ということになる。
しかし、庫内作業員の人数の多寡でユニクロとアマゾンの物流機能の優劣を比較することなどできるはずがない。偏に「取扱商品構成とアイテム数・SKU数・出荷行数・行当たりの個数」が全く異なるからに他ならない。物流屋なら誰でもわかる理屈。
もちろん、ユニクロがそんな理屈を気にする理由は皆無だし、自社の信じる改善と最終顧客へのフィードバックが見込めれば、それ以外には興味を示さないに違いない。

危険なのは、省人化や自動化を「善」や「優」や「正」とする価値観への安易な傾倒だろう。
「最適な人員数」と「省人化の極限追及」はそもそもがねじれの関係にある。
同じ面上や線上で論じたり比較してはならない。なぜなら、企業によっては良薬にも毒にもなるからで、実行前の計画評価には多面的な検証が必要だ。
過ぎると企業内の良心や道徳を踏みにじるような暴力に近い論理や行動となる可能性もある。
人員削減や効率化やコストダウンの徹底が進むにつれ、その企業の創業以来培われ大切に引き継がれてきたモノが消失し、もはやどこの会社なのかが判らないようになってしまう。
得たモノは経費削減で一括りにできる「お金」であるが、失ったものは何日も寝ずに語らなければならない「マインド」であったりする。
管理者と絞り込まれて残留したわずかな従業員。無人に近い倉庫の中で、もの言わず壊れるまで動き続ける機械とそれを制御するシステム。
そんな光景が浮かぶ。

人口増加と経済成長で沸騰し続ける東南アジア諸国に、氷温の内部システムに裏打ちされた戦略をもって挑む。
煮え立つ水路で低温鮮烈な「合理性」の曳航ができるのか。それとも溶かされてしまうのか。
指示思考と反応行動が一致するのか否かのせめぎあいになるのかもしれない。

ユニクロの物流戦略を否定批判しているのではない。
属人業務を極限まで廃し、徹底的な予実一致型のコスト管理による予定利益の確保。
その利益を次の開発に転生させることで品質向上の輪廻が生まれる。
創業者であるCEOが健在で、舵取りを担ってのことなのだから、現在の戦略や実施方策がFRの創業の精神の進行形なのだろう。
そんな身勝手な解釈をしてしまうほどタイトで簡潔な思考と実行力である。
その点については純粋に敬意を抱く。
「恃むところある者は恃む者のために滅びる」という言葉の主と重なることも幾度か。

しかしこんな言葉も是非聴きたい。

人は城 人は石垣 人は堀 情けは味方 仇は敵なり

と、穏やかに微笑みながら独り言ちてくれる経営者もいて欲しい。
私が差し向かいで相槌をうちます。
何度も何度も。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

最近の記事

アーカイブ

カテゴリ

お問い合わせ Contact

ご相談・ご質問等ございましたら、
お気軽にお問い合わせください。

お問い合わせフォーム