物流よもやま話 Blog

送料無料と送料込と送料別途

カテゴリ: 予測

EC事業者にとって、「送料コストの負担を誰がするのか」は大きな問題だ。
購入者以上に敏感になっている傾向が強いと感じるのだが、当事者である売手側は聴く耳を持とうとしないことが多い。
過去にも何度かECの経営者に「送料無料ではなく、送料相互負担ではだめなのですか?」と尋ねたことがあったが、ほぼ全員の回答が「それはできない」だった。
試みたうえでの判断ではなく、試みるまでもないこと。
そんな内容だったと記憶している。

5000円の商品を「送料無料」「送料込」か「送料別途」とするかで逡巡している企業があるとする。その表記は粗利の一割以上を左右するので決断に迷う。
値引きや上乗せは純利益の増減と同じ。経営直結の切実な問題であるし正解を確定できない。
結局は「顧客印象の良し悪しと売上への影響」を考え、販売情報に恐る恐る記す。
競合他社はいうまでもなく、同業他社や異業種の情報も収集したうえで決めた。
でも配送料金の実コストを完全負担するのか完全転嫁するのか按分するのかは、世間のどこを探しても基準や統計はない。
「こんなに売上維持が厳しい上に、粗利圧縮してまで送料負担するのか?」
と経営者は苦しむ。
厳しいからこそ、我慢してでも購入者が魅力と感じる要素を増やすべきであるし、他社と同等もしくはそれ以上でなければ生き残れない。
と別の経営者は覚悟を決める。
時には二つの選択肢に挟まれて、眠りの浅い夜を過ごす。
別の夜には「価格転嫁して送料込と表示するか?」とか。
しかし翌朝「安直な価格転嫁は滅びの道。その毒で過去に数多の企業が沈んだではないか」と思い直したり。

2019年10月には消費税率が10%に上がる。
個配をはじめとする配送料金も一度目の嵐の後、とりあえず階段の踊り場で一時停止しているだけであって、再び上に向かい始める。ほとぼりが冷めた頃を見計らって配送単価の値上が実施されるに違いない。
来年の今頃になれば、ECのとあるショップで商品購入すると、最終確認画面では以下のような並びの表示が出たりする。

ご購入商品代金 5000円
消費税(10%)  500円
送料(内税)   600円
―――――――――――――――
合計      6100円

商品代金の20%余りを購入者は追加負担することになる。
この事実を販売側が不可避と腹を括り、自社決定した顧客負担額の説明について、購入者から理解を得られるか否かが分水嶺になる。はたしてどの方向に流れる水量が多くなるのか。
他社の動向などを横目で追いつつ、じっと実行の時をうかがう。
切り替えるタイミングが遅れれば、「頑張って送料無料やってます」が「頑張りすぎて会社経営が苦しくなりました」という逆流現象に見舞われることになりかねない。
流れに逆らう者はいつか力尽きて溺れてしまうことなど、どの経営者も心得ている。だからこそ「流れとその方向」を模索しているのだ。
もちろん不肖私も一緒に考えて探る覚悟である。
寝ても覚めても考えるうちにこんなことまで、、、

政府主導で、思い切って配送料金を「配送税」に変えてくれたら、合計金額に表示する際にどれほど気が楽だろう。表記も「内送税」「外送税」みたいになったり。
ん?そうか!ネコも飛脚も〒も全部国営化してしまえばよいのだぁ~

と叫ぶところで目が覚める。
寝起きにやりきれぬ苦笑と倦怠感が同時にやってくる。よろよろと冷蔵庫にたどり着き、送料無料につられて買ったミネラルウォーターをぐびぐび飲む。
「なんだかなぁ~」とため息まじりにつぶやく。

コスト負担の問題だけではない。
少子高齢化と都市部への人口集中に拍車がかかる一方で、構造的な歪みともいえる課題が急速に大きくなっている。
人口減少傾向で高齢者比率の高い地域にとっては、郵便や個配便は利便性という言葉だけでは収まらない「生活インフラ」でもある。
自動車の運転に不安が大きくなってきたので、数年前に免許返納した。しかしながら、今現在はとても健康であるし、徒歩や自転車での外出も支障ない。
にもかかわらず、スーパーマーケットや各種店舗が撤退・閉店し、徒歩やチャリンコ圏内にはその施設がない。
したがってECや各種通販で購入せざるを得ないという状況になる。

配送コストの負担は、消費者・企業双方が不可避で、受容に工夫と苦慮が伴う大きな課題。
さらに外側では、国民生活のインフラストラクチャーを改変強化するという命題が明瞭な輪郭を現わし始めた。
国として、国民生活への基本物資の兵站方針と具体的な実行内容策定が求められている。
さきがけて市場が答えを出すのか。
それとも政治が先導するのか。

デファクトスタンダードなのか。
デジュールスタンダードなのか。

我々大人達が後世に迷惑をかけないための踏ん張りどころという気がしてならない。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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