物流よもやま話 Blog

海の倉庫と山の倉庫と働く人たち

カテゴリ: 予測

商談後に時間がある時や休日などに、ふらーっと倉庫巡りをする。もちろん仕事の一環でもあるが、情報収集以前に元来の個人的興味が勝っているのだと思う。
今や10年以上続く月次ルーティンとなっていて、毎度出かけて行っては、各エリアごとにお決まりとしているコースの巡回や気まぐれに新規ルート開拓を楽しみつつ勤しんでいる次第だ。

古くは工業団地や流通団地と呼ばれていた倉庫立地エリアは、今も変わらずもしくは廃れつつ国内各地に存在するのだが、二分すれば湾岸エリアと内陸エリアに大別される。
近年では高速道路の延伸や新設に伴う山間部・丘陵部などの新興開発エリアに倉庫建設が盛んだ。内陸の平地では重厚長大産業の工場や自社倉庫などの跡地に国内外資本の開発事業者や投資ファンドが巨大な賃貸倉庫を建設している。

低利回りながら安定した収益が見込める、という目論見によって巨額資金が向かった物流倉庫への投資も、「少し前までは過熱していたが」と前置きが入るようになっている今である。
そろそろ「物件空室率と床稼働率は別物」なのだという数字の見せ方に気付いてもよさそうなものだがなぁ、と思うのは私だけなのか?
公表されている契約ベースでは空室率3%未満だが、いつまでたっても床稼働率70%以下のまま、という実態はどう説明するのじゃ?
なんてことを想いながら、毎度あちこちの倉庫街を車で巡回しつつ、時には徘徊よろしくテクテクうろうろ徒歩にて見回っている次第だ。

新築から数年たってもあまり入居テナントが増えないゆえなのか、閑散とした構内風景の賃貸倉庫が目立つことは何度も書いてきたが、この1年間に限って言えば、大阪湾岸部はほとんど内実が変わっていないと思える。
自分自身の認識とはかけ離れた統計値や広報に違和感を抱きつつ、自ら現地を歩いてみる。敷地入口に設置されたテナント一覧のサインボードに空白が目立つのは、「匿名希望の入居企業が多いからだ」とでもいうなら話は別だが、今時そんな冗談以下の言い草は無用だ。
旺盛な需要や空室ゼロに近い契約率の内実は、統計の読み手や報道の聴き手の理解や認識とは別にありそうだと気付く。冬季の日没間際になっても点灯しない階が多いことも、「自身の違和感は誤認識からくるものではない」と確信を強める現実のひとつになる。
虚偽ではないが事実でもない、が大人の解釈ということなのかもしれないが、いい齢をして青臭い性根の私には胸につかえた異物感が残ってしまう。
全部ではないからこそ紛らわしく鵜呑みにできない新築マンション乱立時代の「即日完売」と同種の、古式ゆかしいアドバルーン的発表に対する「なんだかなぁ」のため息に似ている。

近畿圏の沿岸部、とりわけ大阪湾岸部で建替え以外の新しい物件があまり出現しないのは、用地の問題だけでなく需要の衰えも否定できないところだろう。
かつて大規模倉庫が希少で、輸出入が隆盛を極めていた頃と今では経済構造や消費の中身自体が大きく変質している。港湾の機能は現在もしっかりとした需要に支えられているのだが、もはや必要十分の横這い状態を続けているため、新しい床の需要はさほどない。

神戸などの狭小エリアに限って言えば、長きにわたりニーズ過多が謳われているのだが、港湾局によれば「港湾業務自体の需給は均衡状態に近く、過不足などの切迫した訴求はない」ということだ。官民に意識のズレはあるものの、結局はそれで済んでいるのだから、現実の仕事量は横這いか漸減というのが実態なのかもしれない。
関西最大の業務量を抱える大阪港湾部にしても、時として港湾荷役の混乱や混雑が発生するのだが、それによって大きな障害が生じたいう報道や伝聞もないので、なんやかんやで「なんとかなっている」のだろう。もちろん港湾事業者の熟練や機転の織り込まれた業務処理能力が「毎度なんとかしている」という実情は言うまでもない。
結果として、湾岸部の物流風景は変わりなくいつも通りの日常が繰り返されていて、穏やかさに近い落ち着きを伴って街路や埠頭の佇まいが眼前に展がるのが常だ。

海側に比して、山間に切り拓かれた土地に建設される超大型倉庫や工場などの施設が居並ぶ風景は、心落ち着かぬ不気味さを抱かせる。「こんなところに、、、」という尻切れ言葉が毎度の決まり文句となってしまう。
突然幅が拡がり、歩道まで整然と整備された新設の道路。その勾配を上れば、CGの切り貼りさながらの光景が飛び込んでくる。
さらに綺麗な道路を進めば、やがて「〇〇〇高速道路●●IC」や「〇〇バイパス」と表記された道路案内標識が出現する。そのほとんどが最近新設もしくは延伸された道路である。新倉庫の建築計画も高速道路の延伸情報も、すべて読み聞きしていたものばかりだし、同種の記事を何度も目にしていた。しかし現実の建築物や新設もしくは拡幅整備された周辺道路や、コンクリート擁壁の直線的だったり曲線の優美で硬質感漂う造成区画を目の当たりにすれば、まったくの知らなかったことに近い衝撃的な印象を禁じえない。
若かりし頃に都心近郊の山間部にゴルフ場が建設ラッシュになった時と同じ感覚がよみがえる。宙に浮いたまま放置されているような不安感に似た戸惑いだ。
「いったい誰がこの倉庫で働くのだろう?住宅どころか鉄道駅やバス停すらないこの地域で」と現実問題を考えてみたりもするのだが、異様なほどの圧倒的規模と異物感甚だしい無機質な箱型建築物の存在感に思考が鈍くなり、無言のまま立ちつくすのが常だ。
そして帰路の車中で毎度同じ思いが過る。

あの倉庫に移動してくる荷は今どこにあるのだろうか?
荷が出て空いた現倉庫にはどんな荷が入るのだろうか?
はたして、もう決まっているのか、今現在も次の荷を募集しているのか?
その倉庫で働く人々の代替業務は用意されているのか?

信号待ちの刹那、そんな言葉が巡って視線がさまよう。

少し前、、、といっても5年程度遡ればよいのだが、内陸の大型倉庫は恒常的に不足していた。
特に関東・中部・関西の主要都市近郊部では、斑(まだら)ながらも床が余りだした湾岸部と対照的に、内陸部での新設物件情報が出るや否や、即引き合いが続く状態だった。
そこに目を付けた外資系投資ファンド、続いて国内ディベロッパーなどが斜陽化したり余剰化しつつある大規模工場や遊休地を倉庫物件化し始めた。

当初は着工前に内々定しているテナントとキャンセル待ちまで含めて、名実ともに満床スタートの物件が頻出したが、それもこの2年ほどですっかり勢いが衰えた。
「竣工前に満床」と広報していた築後数か月しか経っていない新築倉庫のテナント募集情報がいくつも回ってきたり、中には一般情報として空き倉庫情報サイトなどに掲載されている。
つまり「アイミツの末キャンセル」か「引き合いはあったが、確定や内定していたわけではない」か「実態は関係会社や3PLなどへの転貸もしくは転売予定を満床と表現していただけ」だったのか、、、一般事業会社、つまり荷主からすれば「?」の続くハナシがあちこちから入ってくるようになっている。
ディベロッパーのテナント募集活動にケチをつけるつもりは毛頭ないが、入居者たる事業会社は候補物件やその近隣を自分の目で見ることが第一行動であることは言うまでもないだろう。

山間部や内陸の盆地や扇状地にはBTS型倉庫の建設が目立つのも最近の傾向だ。
それは無用の駆け引きを削ぎ落した貸し手側の本音むき出し呈示と、それを受容することがベストジャッジと決した事業者たちの「折合い」の現れと言いかえていいのかもしれない。
集約や縮小という不可避の明日を認めた企業の経営陣には、貸主と庫内を請け負う3PLが作成した提案書の長期目論見に記された数字が意思決定の後押しとなる内容だった、とも解せる。
至れり尽くせり、設備や各種仕様も貴社の望む内容のままに、すべて倉庫側で用意の上、諸々の償却無用の純然たる一括リースを提案。本業で予定利益が稼ぎ出せれば、全額損金処理できる税効果も期待できる、という利点もある。
たとえて書けば、住宅販売会社が家具・家電・その他維持管理サービス付き住宅を買主のセミオーダーメイドで提供しているようなもので、ひとえに競合との差別化が動機となっていることは明白だ。
大手不動産会社や電鉄会社の開発部門に多い傾向だと聞く。

さらに書けば、港湾部の倉庫から内陸の新しい倉庫へ、荷が移動する事例が続いている。大手SPAの何社かは港湾部から山間部へDCを移転したし、その流れは他社にも波及して今後も続くだろう。
マルチテナント型の空き物件は、借主を求めて「貴社の要望はすべて叶えます。すべて設えて移転入庫をお受けします」と膝詰めの交渉を積極化すること必至だし、そこまでしなくては、広大な空き床は埋まらない。

海の倉庫は漸減と激減のはざまにあって、自社の荷主動向に注意を払いながら、国の仕組や経済の動きが変わらぬうちは地道にテナント募集しつつ他社動向を静観。
山の倉庫は、そろそろ出尽くした観が強い同業各社のカードをじっくりと眺めては検分し、自社はいかにして活路を見出すかに余念のない今なのだと推測している。
この類のハナシになると、いつも思うことがある。
「海の倉庫・山の倉庫で働く人々は、今後どんな顔ぶれになるのだろうか?」ということだ。
老若男女の混じった庫内で、どのような業務をどうやってこなすのだろう。
まさか、新しい倉庫の大多数が機械化や自動化の恩恵により、著しい省人化に成功しているとは思えないし、事業者の業種業態によっては、とてもそこまでは至っていない事実も心得ているつもりだ。

港湾部のように、最寄りの駅から送迎用のバスを往復させてアクセスの不利を補うにしても、その場合は本人の希望以上に長くなる通勤時間という「無給状態」を埋め合わせるための、相場より高額な賃金呈示が必須となるはずだ。わざわざ損しに山の中の倉庫まで通ってくる奇特なお方はめったにいるもんではない。
倉庫エリア合同の住宅などを用意する企業もあるようだし、それは単身者向けにとどまらず、夫婦とその他親族などのファミリー向けのタイプまであるという。今はめっきり少なくなった「夫婦住み込み」に近い待遇を思い出す。そういえば昭和の時代には、製造業などが自社工場や物流施設の敷地内に社宅を設置することは珍しくなかった。最近では大阪・堺にあるシャープの工場(現本社)に隣接する集合住宅型社員寮がすぐに思い浮かぶ。

期間労働者や派遣作業員を多く抱える企業の生産・物流施設では、はるか昔から常設されていたし、今も多数存在する。それが新設の大規模倉庫に併設されることで労働力確保の安定化に寄与するなら、場所や企業を選ばずに採用されるに違いない。
大阪南港とその周辺エリアの大規模団地群は、かつての港湾繁忙時代に貴重な労働力供給住宅として活気ある街区を形成していた。今では住人が高齢化して、労働者の数も減じる一方だが、よくよく考えれば実サンプルが最寄にあるのだ。南港だけでなく、日本国内の各地に類似するエリアは点在している。
その沿革と変化の途を知れば、今開発中の各所の未来を占うヒントになるかもしれない。

高齢者が労働力として求められる時代が到来した。それは年金依存型の生活から、現役労働者として直接・間接の各種納税者であり続けることと同意であり、各自治体は少子化対策と同様に高齢者の積極的な移住促進を進めるだろう。ついこのあいだまで「高齢化は重篤な財政危機を招く」などと後ろばかり向いていた自治体の運営者たちは、発想転換と着眼点を変えることで、楽市楽座的な自治体運営手法を採るはずだ。労働力だけではなく消費者としても現役を貫く高齢者たちの囲い込みに奏功する自治体こそが、生き残り組としてその地と名を残せるのかもしれない。
具体的な方策として、地域内物流の自前化や物流機能を不可欠とする企業の誘致など、我々業界人が提案できる実案は多い。
活路を見出すべきは海も山も区別なく同じ。
海の倉庫も山の倉庫も、今一度考えてみる価値はあるはずだ。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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