物流よもやま話 Blog

入荷のことば「待ち・予定・次第」

カテゴリ: 実態

一般の方々に限らず、物流関連の人間でも「ややこしいなぁ」と眉をひそめることがいくつかある。
たとえば「入荷」に関しての言葉がそれにあたる。
掲題の入荷待ち、入荷予定、入荷次第は微妙に違うのだが、表記や意味のみならず、現場によっては時間や作業区分の違いにまで及ぶ。
紛らわしいことは不親切であり、誤解や不信の元となりかねない。
なぜそんなことが起こるのか?
倉庫現場や物流部門の事務処理を綴ることで、その「理由」のいくつかを説明をしてみたい。

とある人気商品があって、それは多くのECショップで売り切れている。
いろいろ探してみたものの、欠品中である状態には変わりない。
再入荷しそうなショップを検索してみたら、以下のような表記があった。

【A】というECショップの購入画面では「入荷待ち」とある。
【B】というECショップの購入画面では「入荷予定」とある。
【C】というECショップの購入画面では「入荷次第」とある。

そして、それぞれに説明が続く。

【A】入荷したら通常表示に戻り、買い物ができるが、その時期は「頃」としか記載がない。
【B】入荷予定日の明記はないが、販売中止や休止とも書いていない。
【C】予約できるようになっており、登録者には入荷通知が届いて、優先的に購入できる。

のように、似たような表記ながら微妙な違いがあるということは多い。
従って、購入希望者たちはそれぞれに「解釈」をする。
欠品表記に続く説明によっては、読み手の理解内容に微妙な違いが生じたりするのだ。
「これはどう受け止めればよいのか?」
という疑問を、メールや電話で販売者に確認する人がいるかと思えば、自分なりの思い込みを疑うことなく事実にしてしまうユーザーもいるだろう。
そもそもが、紛らわしかったり人によって解釈が異なる説明に問題があるのだが、ショップ側にその自覚がなければ改まらない。
販売画面にとどまらず、その在庫情報の上流に位置する倉庫や仕入部門でも、表現や指し示す中身の微妙な違いは少なくない。
自社特有用語であったり、自社物流部門や委託先によって異なったりするので始末が悪い。
「解釈」の誤差は、物流業界に統一された規格や用語の運用が存在しないゆえに、恒常化して改まる気配など皆無である。
「大きなトラブルの原因を生む素地のひとつなのでは?」
という追及などされぬまま毎度看過されることがほとんどなので、完全な消し込みが喫緊課題とならないのかもしれない。

それを物流現場とその管理業務の視点で表してみる。

まず、入庫と入荷処理と入荷計上と引当可能は違う。
次に、引当可能日と出荷可能日は会社によって違う。

このあたりが混乱や誤解の生まれる場所になっている。

すなわち、仕事が速いか遅いか。
もしくは、作業が丁寧か粗雑か。
はたまた、処理が簡素か煩雑か。

といった、「区分すらあやしい要素」が大きく影響する。
さらには企業なりの、もしくは管理者・責任者なりの「やりかたの好み」が優先され、合理性や迅速性が二の次に回されることも珍しくない。
このように書けば奇異にしか思えないが、一向に改まらない理由として一番多いのは「ずっとそうなっているから」である。
これは物流に限らず、事業運営上でも頻出事例であり、経営の本質とは「惰性と無関心」なのか?と唸ったこと数知れない。
仕事は「簡素・丁寧・迅速」が基本、は誰に訊いても「あたりまえだ」という返答となる。
しかし、実際の現場ではドタバタの連続で粗雑、処理手順が冗長、であることも少なくない。

ぞっとするのは「悪意なき無意識」だ。
「たしかに多少の問題はあるが、だからどうだというのだ?」と開き直りに近い自意識が根付いてしまっているなら、改善の初動は厄介この上ないものとなるのが常だ。
手前味噌で強縮だが、その種の問題を抱える現場責任者がベテラン・上席になるほど、「イメージスクリーン」を習得してもらうことが最善で最短の改善方策となる。
過去の実績では100%の率で有効極まりなかった、と添えておく。

ハナシを戻す。
入荷すれば「待ち・予定・次第」の表記は消えるはず。
しかし傍目から見ている限り、昨日入庫したはずなのに、欠品状態が解消されない。
なぜなのか?
と疑問を抱き、上記【A】【B】【C】の物流センターに質問したとする。
各センターの回答は以下のとおりだ。

【A:入荷待ち】の入荷担当者
確かに昨日入庫したが、まだ入荷処理できていない。
着荷口数の確認だけして、今日の午前中から開梱検収の後、順次在庫計上予定。
全品が出荷できるのは来週から。
引当可能になるタイミングについては商品部の管理ゆえ承知していない。

【B:入荷予定】の入荷担当者
入庫と同時にとりあえず入荷処理完了。在庫反映は商品部次第。ローカル側の在庫計上はマスターに自動連動しないので、商品部が同期処理しなければ営業部門から実在庫が見えない。
現場では開梱検品の後、ロケ振りを進める。
WMS上では、ロケに入った段階で引当可能となるので、ローカルでは実際の販売可能日、つまり在庫計上日は入庫日でも入荷日でもなくロケーションへの収納完了日となる。
繁忙期などは「予定どおりに入庫済みだが入荷処理完了待ち」の商品が滞留して置き場に困ることも茶飯事である。
所長の口癖は「こっちを先に上げて(在庫計上)、商品部に連絡してくれよ。営業から催促されてるんだよ」

【C:入荷次第】の入庫担当者
入庫と同時に売り越し分(購入予約分)を先に、入荷処理→在庫計上→引当→出荷処理。
余裕があれば全量を入荷処理して在庫計上し、当日の〆までに売り越しデータ分を引き当てて出荷処理。
実務的には売り越し分の出荷作業後に、残りをロケに収納することが多い。
入荷処理=在庫計上なので、現場事務所は計上カウントを見ながら、順次引き当ててゆく。
なので、WMS上でリアルタイムに在庫数が変動する。

このように「倉庫に届いたが未処理」「在庫はあるが欠品表示」「入荷後すぐに売り切れ」という現象には現場や各社それぞれの理由による事務処理上のタイムラグが影響している。
能力不足や社内手順書の不首尾による欠品補充の鈍化や放置も多いが、致命的な理由は皆無に近いはずだ。
顧客第一主義、と謳う割には、手際の悪い入荷処理などに起因する入荷情報の不開示と頻繁な延期など、言動の不一致は珍しくない。
一方で、入荷の正確な情報発信ができている物流現場を運営している企業なら、まず間違いなく仕入や営業が堅実で正確な仕事をしていると考えてよい。
そんな基本動作の徹底は、市場で評価されるための最低条件のひとつでしかないわけだが、ここでつまずいて「いいかげんな会社」という不評を買うケースはけっこう多い。

ECショップに限らず、情報の正確性と一貫性は事業者評価の簡単な測定具となる。
商品情報の開示や表記があいまいで不正確。納期についても顧客本位ではない。
などが明らかならば、購入前に立ち止まって一考するべきだし、不明点の問い合わせへの返答で判断の確度はより高くなる。
サービスの最前線である販売画面から最後尾の物流現場まで貫かれている「顧客本位」の真偽はごまかしきれるものではない。
わかり易い入荷情報の表記は、物流現場の情報整理と事前準備、簡素で迅速な入荷処理と在庫計上による最前線への情報反映に裏付けられている。

販売場面から物流過程まで一貫した共通語があればいいなとつくづく思う次第だ。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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