物流よもやま話 Blog

ロケーション設計の交差点

カテゴリ: 実態

ロケーションの切り方は入出荷作業に大きく影響する。
したがって、保管物によってはたいへん悩ましい。
現場責任者や担当者は「どうすればいいのか?」ではなく「どちらにすればいいのか?」の岐路に立って唸る。業務フロー設計者が別にいる場合でも悩ましいことに変わりない。
自動倉庫なら存在するはずがない「迷い」や「選択肢」がパズルのように散らばっていて、その組み合わせや順序を間違えると、現場業務が重くなったり大きくなりすぎたりする。

「ルービックキューブみたいだな」
は業務フロー設計と作業手順策定時の常套句で、物流屋なら誰もが頷くところだと思う。
一面をきれいに揃えるだけでは完成にほど遠い。
すべての面が同時にそろって、正解への入口にようやく立つことができる。
「一面ずつコツコツと順番に」
は実務上では不備の母としかならないし、全面揃い以外は未完成な作業手順のままで仕事をしている状態となってしまう。起承転結が滞りなく記述され、ことわざの意に反し、その画に描いた餅は食えなければ意味がないうえに味も良くなければならない。

なによりもそんな理屈を画餅と切り捨てることはもうやめませんか、と正面切って言いたい。
できない説明を正論化する余裕はどの企業物流にもないはずだ。
今やそれは「できない」のではなく「やらない」のだと評されるだろう。
ルービックキューブのような業務手順書作成は実務以前のフェーズであり、「うまそうな餅」が描かれた画と同じだ。実際に食べて味わう場面が現場実務にあたる。
「うまそう」が「うまい」になり、目論見どおりの結果と出荷先である部外者からの評価を得ることで、やっと仕事として認められる。

作業手順にはいくつかの工程区分があるが、それは商材によって難所になったり平易であったりする。
たとえばアパレルなら在庫のとり方などがその例として頻出する。
一昔前の経済媒体風に書けば「ユニクロ型かしまむら型か」というやつだ。
在庫管理だけのハナシではなく、商材に対する基本的な考え方と販売戦略あっての在庫の持ち方となる。「倉庫をみれば売り方がわかる」と言われるゆえんはそこにある。
物流屋なら「個数行数テカズアシカズは?」「奥行・間口・フェイス・親在庫・子在庫・補充・先入れ先出し、、」などの文言が行き交うのが会話の常である。

選択した手法の正誤が客観的に判定できるもの・できないものがあり、独自でありながらも独善性を排除した測定基準を設けなければならない場面は多い。
評価自体も数値で表現できるものには異論が出にくいが、形態や合理性を問うて、その結果の時間やコストの検証に共通定規があてられなければ、もはや議論の決着は望み薄い。
自己完結のまま時間が経過し、久しく同じやり方で庫内業務が離島化する。
次に島外から人が上陸してくるのはいつになるのだろうか。
その人は身内なのか他人なのか。
物流センターをそんな状態にしてはならないと思うのは私だけではないだろう。

在庫量自体は物流部門のみの力ではいかんともしがたい部分がある。
造りすぎればあふれるし、売れなければ滞留物が増えて入荷のたびに膨らんでゆく。
倉庫内から発信できるのは、好況時の在庫ポジションを基準とした現状の数値化や品番別の滞留状況の可視化ぐらいのもので、仕入や販売の動向次第という要素が在庫状態を左右する。
「在庫データみてりゃわかりそうなもんだけどなぁ」
は物流部門や倉庫担当者の頻出ことばだが、仕入や営業部門ではそれを聞いて聞かぬふりか、見て見ぬふりかがわからないほどに、庫内状況を顧みずに仕事を進めることが多い。
「経済ロット」という過剰仕入や長期取り置きを放置したままの同品売り越し。
書き出せばキリがない。
文句の言いようが尽きて、最後は沈黙に徹するしかなくなる。

そんな後ろ向きなハナシばかりではない。
掲題の交差点をどう行くかは難しく悩ましいが、腕の見せ所でもある。
特にSPA・小売のパワーセラーや人気商品を持つメーカーや需要が大きな部品を取り扱う商社や製造元などでの物流現場では毎度の思案しどころとなる。
業務フローに個人的な好みを持ち込んではならないはずだが、ロケの切り方については結論の出ない議論が長く続いており、その中でも「親子か複数か」の問題は一般化や教科書化ができぬまま現在に至っている。自動倉庫やシステム支配の現場には無縁の葛藤や迷いであるが、人間が手掛ける限りはついてまとう。それを「無用の時間」と切り捨てるのは容易いが、自動化やシステム支配には程遠い、世の中の大多数を占める物流現場では、管理者にとって立ち止まって考えなければならない忌々しきポイントである。

ロケを親子に設定すれば、ピッキングゾーンはすっきりとするし、頑愚はなはだしい念仏のような「ワンロケワンエスケイユウ」が維持できる。
それはフリーロケーションを使いこなせないか、そのシステム化ができないことを自白していることと同じだが、管理者本人は得意満面だったりする。
小綺麗で生活感のない部屋は、大量の生活品を壁面や別部屋の収納に押し込むことで維持できている。その手間を強いられる家族は不便極まりない。
そんな「うわべの見てくれ」だけが自慢の絵面と重なる。
現場に過度な外向けの見栄は不要。質実な機能美だけで充分だ。
入出荷の圧が高いなら、せめて複数ロケで補充頻度を下げて欲しいし、それができるなら親子ロケの解消も時間の問題なのだが、一向に先に進む気配がない現場は多い。

アパレルの重衣料や部品メーカー・商社に多いのは入荷物をすべてピッキングゾーンに振る、というパターンだ。
棚内マスか本立て区切り、軽量物なら巣箱型の紙マスを採用している。二段までのハンガーラックや引出型収納も散見するが、効率面で不利なこと明らかなので減る一方。
現場では同一SKUが複数ロケに分散収納されており、先入先出を実現できるシステム記述がおり込まれたWMSが入出荷を制御している。

設計者によっては、複数ロケへの割り付けを嫌い、見てくれは無視してカートンを開梱した状態か入荷検収を兼ねてオリコンに移し替えた全量をパレットに積んで、それ自体をロケにしてしまうというのもありえる。保管場所に余裕があれば支障ない選択であるし、非常に単純でわかりいい。

親子ロケが嫌われる最大の理由は補充作業があり、出荷量と頻度によってはピッキングの最中にロケ内欠品による作業中断と補充が起こるからだ。
ちなみに複数ロケでも同じようなこと、、収納数の切れ目によるロケまたぎ、、は起こるが、SEが心得ているなら、その回避方法を事前に手当てするべく記述するはずである。
ロケまたぎによるピッカーの移動を嫌って、同一SKUの複数ロケを並べるSEや管理者がいるが、業務フローの基本事項の習得からやり直さなければならない。

親ロケからの補充をピッカー以外が事前に手当てする方策は、さまざまな物流現場で出尽くしている感が強い。流通加工や大量梱包の現場で当たり前に行われている約束事と同様の思考回路をもってすれば、対処的な処置はとりあえずできる。
「親子ロケは悪だ」と強弁する頑なな物流屋もいるが、それは比較実証を伴わない理屈のみの好き嫌いであり、井戸の中でうるさく啼いているカエルのようなものである。
能力論にいきついてしまうので、本人の気付きと学びを待つしか改心の方法はないが、外部者の指摘と検証を目の当たりにすれば視点や意識も変わってくるかもしれない。
まずはやってみることから始めて欲しいと願う。

・素晴らしい親子ロケの運用を目の当たりにしたが、効率面でも申し分なかった。
・複数ロケの弾力的な運用によって、親子ロケ廃止と合理化に成功した現場を作ってきた。
・機械化よりも現在の作業手順のほうが合理的、と評価いただいている。
・ピッキング作業の属人性をゼロにすれば、ロケーション設計は平準化されるはず。
・生産管理と受注管理が連動すれば、倉庫内の業務は簡素化できるはず。

すべて生の声である。
物流業務の交差点は喧騒と混雑に満ちている。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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