物流よもやま話 Blog

今月はEC物流特集 ‘ 安定のEC物流 ’

カテゴリ: 実態

昨年来、配送関連の記事も含めてECにまつわる内容のハナシが多くなっているので、今月はEC物流で通してみようと思う。

「1月往ぬる2月逃げる3月去る」
にとどまらず、この数年は「1年往ぬる2年逃げる3年去る」と感じて怖い。
昨年の2月なんて先月ぐらいの感覚だ。
なのに、具体的な出来事や記憶はあいまいでなかなか映像として再現化できない。
老イテマスマス耄碌」という書名が脳裏をよぎる。(ヨシユキセンセイの大ファンです)
年明けからもうひと月も経ったのか、、、と無言で唸る今なのだ。

物流会社の常だが、暮れのアガリ3か月(10・11・12)は入出荷のピークとなり、その正念場を乗り切れば2月下旬あたりまでは閑散期となる。
したがって前年後半に商談奏功した新規顧客の移転受入れや、既存顧客の倉庫移動もしくは庫内ロケの変更等を、年明けからバレンタインデーあたりまでの間にせっせと行う。
年初から2月までは営業数字が厳しい、は物流会社のアタリマエとして認識されていた。
往ぬる・逃げるのは日数だけではなく、仕事量も同様だった。

が、この10年足らずでその常識が変わりつつある。
EC専業企業の業務には年間を通じて大きな起伏があまりない。
1月でも2月でも平気で「半袖・ハーフパンツ」やら「水着」やら「ビーチサンダル」などを裏シーズン特価とか銘打って販売するし、裸でも耐えがたいほどの酷暑が続くお盆時期に「ダウンジャケット」や「マフラー」や「カシミヤセーターの」昨シーズン物の見切り販売など。
そしてそれに期待し、恒例行事として待ちわびて、時計の秒針を凝視しつつ即反応する顧客も多い。メルマガなどで事前告知しているので、数分・数時間で完売する商品も珍しくはない。特に人気の有名ブランド品はその傾向が強い。

季節品であっても、店頭のバーゲンに並んで鬼の形相でお買い得品を手に取らなくとも、ECショップのバーゲンで買えばよい。
何よりもじっくり選べるし、決済や配送も便利極まりない。
迷ったら手元の端末で何度も見直し、素材やサイズの詳細や現時点での在庫の有無も確認しつつ慎重に考え、貯まっているポイントやクーポンを使えば、実支払いがいくらになるのかも計算した末に最終決定する。自己都合によるキャンセルに送料や事務手数料などの自己負担なしだったり、交換も無料。
「とりあえず買ってみて、使うかどうかは届いてから」という購入者は珍しくない。

ECショップの多くは、在庫の動きが悪くなれば躊躇なく福袋やクーポンを発行して見切り販売を行い、値崩れや値付けポリシーの混乱、既購入者からの不評を恐れることなく換金する。
「不良品セール」も厭わない。B品・欠陥品を堂々と格安値で販売する。
もちろんノークレーム・ノーリターンの条件付きで。
普通の店頭小売業者は怖くてできないような荒業を平然と常時行っている。
何よりもそれを受け容れるユーザーが一定数存在するので、売り手は自らの手法を改めようとはしないし、商売の方法論を疑うこともない。

従ってECの寄託比率が高い倉庫業者は俗にいう「年初とGW」「ニッパチ」の波が小さい。
現実にはご祝儀出荷がなくなり、実質的な営業日数の少ない1月、もはや「バーゲン・シーズンという死語」とともに消費から遠ざかった2月、お金の遣いどころが「モノを買う」ではなくなる5月と8月も含め、数年前まで「赤字か、たまたまの黒」で当たり前だった1、2、5、8の4か月に及ぶ四半期相当以上の厳しく苦しい期間が、トントンもしくは黒字で抜けられる。
春先から夏のセール、秋口から暮れにかけての繁忙期を無難にこなしさえすれば、通期の営業数字は安全圏に着地する。パート従業員のシフト調整も減って、離職率が下がる。

EC荷役の請求額は安定しているのでありがたい。利益率も圧倒的に高い。
しかし経営が不安定になる場合も多々ある。
薄利多売型のショップなら個配料金の値上げは利益率に大きな影響を与える。
それに加えて、労務上の不可避なコストアップが荷主と物流会社の双方に身を削らざるを得ない追い打ちをかける。

・最低賃金のアップ
・有給制度の対象拡大と実施厳密化
・一定以上の労働時間の非正規従業員への賞与支給義務化やその他福利厚生の適用

などのような、商品や販売手法とは別の要素が経営の着地点を左右することが多い。
不可抗力であるし、従わなければ処分と罰金。その公表の可能性すらある。
利益を削って従うことが最善と納得するしかない経営者のため息が聴こえる。

EC企業にもっとも多いのは、自社の来た道を後発が驚異的なスピードで背後に迫り、並んだかどうかさえわからない速さで抜き去られてしまうパターンではないだろうか。
起業以来の経営方針は先行他社のモノマネと類似商材の格安販売で追いかけることだった。
背後からの追手には警戒心が薄いし、防御策も講じてはいない。メッキがはがれるようにリピート率が下がってゆく。

もっとしゃれたモノマネとさらに安い売値のECショップが出現し、大きな支持を得ている。
背後に接近しての徹底的な分析と急所を狙いすました追矢を仕込んでの追随ゆえ、万事抜かりない。
追い越される側は、躍起となって100円セールやら全品送料無料などの従来どおりの定番施策を繰り返すのだが、すでに焼け石に水状態であり、売上利益に見合わない仕入れと販促のために借入過多となり、まもなく資金繰りに詰まって倒れてしまう。
倉庫側はクレームだらけだった過去の事実を重々認識している在庫品を留置して換金せねばならない。
レベルと品質が上がる一方の「バッタモン市場」にすら参加できない預かり品を「ゴミ」としないように東奔西走する。

・破綻企業の破産申立人である弁護士(一番儲かる。漁夫の利的な焼け太りの典型)
・泣き寝入りを口にしないが、内心はある程度の覚悟をしている多数の債権者
・裁判所に指名されて、儲かりもしない仕事をこなすために嫌々やってくる破産管財人

などを待たせて、真っ先に自らの債権回収を必死で行う物流会社。
倉庫屋の特権なのだが、奏功する確率は下がる一方という現状である。
新規契約時の見立てには妥協なしで、とつくづく思う。

創業間もないEC企業と契約する場合、何を寄る辺として可否判断するのか。
私の場合は「経営者の人柄と価値観」のみ。
各種の数字を無視はしないが、最重要視もしない。
何らかの定規を自身の中に持たないと、その都度判断の基準が狂う。
したがって、正しいか否かは別として、上記の2点を大切にしている。

契約後、大化けといってよいほど業績拡大した会社もあれば、業績微増を年々重ねて、こだわりの強い良質な商品を供給し続けている企業もある。
そんな顧客企業に優劣をつけたことは一度もない。
それぞれの生き方であり、それぞれの選択の結果なのだろう。
その経営者と対面して認めた瞬間から、私は評価や裁定を下す者ではなく、その企業を内部から強くする者の一人となった。
「強く」という言葉をどう捉えるかの価値観と、それに向き合う考え方に納得や共感できる部分があれば、喜んで傭兵として参加してきた。

EC市場はまだ拡大する。
既存の形から次々に分岐し、多様なサービス体系が生まれるだろう。
EC物流も同様で、倉庫 → 個配業者 → 注文者指定の配送先、というパターン以外の選択肢が次々に提供される。

なので地図内の線引きや分布状況はめまぐるしく変わり続けるが、かつて「小売業」とひとくくりにしていた領土では、消費者との相互通行がたやすく叶うEC色が拡大する一方となる。
物流拠点からピンポイントの住宅や事業所に届く個配システムは、今後も必要不可欠なインフラとして定着してゆくに違いない。
しかしながら、その一方で複雑な想いもよぎる。
縮小する消費マーケットの中で拡大するEC。
良いのか悪いのか?
考えた最後には言葉に詰まる。

ロジ・ターミナルは取引先の業種業態を選ぶつもりも必要もないが、物流会社は取捨選択の判断が難しくなるだろう。
特に中堅から中小は、
「見えている魚をどう釣るか」
「見えているが釣っていいものなのか」
「釣れてしまったが食えるのか」
の意思決定に尽力せざるを得ない。
EC企業向けの一括見積サイトに登録したり、広告をたくさん出したり、ECサイト向けのシステム会社と提携してセミナーを開催したり。
そんな方策のすべてを、まだEC物流の黎明期にあらゆる手立てを尽くして行った経験がある。
だからこそはっきりと視えるし、確率的な裏付けもある。

販売力より商品力。
宣伝力より開示力。

実感としての私見だが、売り物の品質と情報開示にこだわるECショップは評価が高くなる。
リピーターが増えるので安定する。それイコール「大きくなる」という意ではない。
たくさん売るほうがエライ、などという価値観はすでに時代からずれている。
20億の売上の会社は200億の会社より劣るのか?という幼稚なハナシと同じ。
価値観の「キー」を顧客の満足度と安心感に置けば、こんな比較はあり得ないこと明白。
もちろんだが、その最終サービスである配送まで顧客満足を貫徹することが仕上げになる。

EC企業の隆盛は続く。
そして付随する物流業務も増加する。
玉石混淆の売手達。
アプローチに迷う物流会社。
マッチングのトラブルは絶えないだろう。
EC専業企業で「自社物流」を望んでいただければ、ハナシははやいのだがなぁ。

以下、我田引水で強縮。
業務が自己制御・可視化できて、他社との交渉や調整が不要になる。
労務と施設と現場の品質設計と事後管理をロジ・ターミナルに75%ぐらい丸投げ。
(といっても、自社内にノウハウとしての財産が残るやりかたではあるが)
全社漏れなく絶対確実に、というわけではないだろうが、想像以上に安定して、かなりの確率で総コストが下がる。
具体的なシミュレーションのサンプルは、弊社のサービスページをご参照願いたい。

そんな選択肢は「なし」なのだろうか?
検討すらせずに、選ばない理由がよくわからないのであります。
私の気付いていない大きな不都合があるのかなぁ?

なんていう毎度の〆でござんすよ。
おあとがよろしいようで。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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