物流よもやま話 Blog

オイルショックの時代と似たような

カテゴリ: 実態

拙稿で書くまでもなく、国内経済の冷え込みは深刻だ。
専門家が指摘しているとおり、超長期デフレーションを常態としたままの頭打ち消費社会にコストプッシュ型のインフレーションが足下からせり上がっている。なので無体としか言いようのない生活コスト上昇を、なす術もないまま受容せざるを得ない――というのが巷の声として最多ではないかと思う。

可処分所得の不可抗力的な消失は「ここで終わり」という見通しが立たないままだ。日常に居座ってしまった圧迫感や閉塞感への抵抗や憤慨は諦めや慣れに置き換わりつつある。
こんな状況をどこかで視たような聞いたような気がしてならない、、、そうか、昭和のオイルショックの時とよく似た状況なのだ、と思い至ったのは私だけではないらしい。
適当なキーワードを検索画面に打ち込めば、たくさんの関連記事が並ぶ。死亡診断書を読むに近い感情しかわかないかもしれないが、興味ある方はご参照あれ。

長くスタグフレーション状態であるのに、コストアップは容赦なく急速強硬に進む。
打開策はひとつのみで、それは全コストの上昇を皆で許容して、需給の凹凸やズレを均すことなのだが、そんな状況になったことは有史以来一度もない。
なのでウクライナ紛争終結への寄与、食糧需給問題、エネルギー代替問題、などについてひとつずつ解決や改善してゆく以外に道はないというのが正論。
という覚悟を国民が共有すべきという類のハナシは専門家の方々の言論を参照願う。

このような世相にあって、物流機能はどうなってゆくのか。そしていかにあるべきかを各社各経営者は考えなければならない。もちろん事業の下半身たる物流を考えるにあたっては、上半身たる各機能との連動や整合を第一におくべきである。
全部書いていては長くなるし、この「物流よもやま話」ではプレゼン資料や雑誌コラムのような突き詰めたハナシを書く気はない。あくまでバッサリザックリとした言い回しで切り出しと切り上げを留め置いて、解釈や取捨選択は読者諸氏に丸投げすることしか考えていない。
日本一の無責任著者を自認しているので、悪しからずご了承願いたい。

以下の数行については、関与先には随分前から説明してきたハナシばかりである。たいして難しい内容ではないが、そこそこに長くなるので詳細割愛して結論から書く。
この状況は中堅以下の事業会社の物流部門にとっては千載一遇の好機である。
かたやで自社物流を抱える大企業や大手物流にとっては体質改善の痛みや外科的手術が何度となく続くに違いないが、それを臥薪嘗胆と捉えて継続断行できれば、機能強化やコスト適正化や収益寄与が質実に叶う。
業務時間や効率性について課題を抱えている事業会社の場合、体質改善できなければ物流機能の切り離しや縮小といった、事業の下半身を義肢的な補助具でまかなう状態となる。
それを全否定するつもりはないにしても、精密で赤裸々なデータ試算とその検証や考察すらせず、たいした改善努力や鍛錬もないまま五体のひとつである自分の脚をわざわざ切り離して、義肢を装着したほうがより速く走れたり、より高く跳べたりできると考える経営者に同調することはできない。まるでアニメのモビルスーツのごとく、超人的な力や機能を得ることで成し遂げようとしているものはいったい何なのか。私には想像できないし、その方向に興味や情熱が向かうこともない。蛇足ながら、吊るしのモビルスーツを装着しても、カタログに書いてある超人にもヒーローにもなれないのが現実だということは言い添えておく。

蛇足の二段重ねになるが、2024年問題。
これについても「そもそも大騒ぎする必要などないハナシであり、事の本質は物流業界の覚悟次第で大きく変えられる」と関与先には説明している。他業界でも少子高齢化による労働力不足、価格競合やコスト上昇分の価格転嫁の難しさは等しく抱えている。しかしながら、全業界が残業時間の上限法令によって事業継続に深刻な不安を抱えているわけではない。

むしろ運輸業界の特定業務に顕著な傾向であり、低賃金長時間労働の人使いでしか商いを保てなかった業界人へのダメ出しが行われている。したがって、そこを矯正・修正できれば、運輸業界は人材を得て、速やかに立ち直ることができるはずだ。ここでもキーワードは過去からたびたび説明してきた「許容時間」である。
他業界に遜色ない労務整備は人材確保の絶対条件。それから「実は誰にも強要されていない」が実態の大勢を占める「自ら招いている安値受注」を止めること。
「他社との差別化は値段以外にない」という安直な言い逃れに終始する経営者は市場から退場すべき。人間をいじめる仕組は排除されることなど歴史を読めばあきらかであるし、法令違反労働という人柱で自らの事業を支えようとする荷主がいるなら、即刻告発されてしかりだ。

と書いてはいるが、荷主企業のほとんどは「もう少し安くなりませんか」「他社の見積に合わせてもらえないでしょうか」「この値段だとお願いするのはかなり厳しいです」と渋い表情と絞り出すような声色でのたまうこと数多いだろう。
・・・あたりまえである。
「まことにお得なお値段ですね」や「御社のお見積もりはいつも妥当ですね」なんていうありがたいお言葉を嫌味抜きで毎度下さる荷主企業がどこにいるというのか。
そもそも運送業者と荷主は商流において一蓮托生ながら利益相反者でもあるのだ。なので商談では「笑顔で握手しつつ、片方の手ではつねりあい」となるのが健全な姿となる。そういう笑顔のつねりあいを如才なくこなすことなど商売の最低条件に過ぎず、駆け引き・面従腹背・腹芸のひとつふたつなども商売人なら適宜使い分けて当然だろう。
硬い表情と貧しい語彙で頑なに値引拒否するかと思えば、一転してサンドバッグのように相手に打たれっぱなしで血がダラダラ流れているのに、愛想笑いと揉み手を止めず。
いずれにしてもダメダメ営業の典型である――と、たとえ話的に切り捨ててはみるが、現実にはもっとひどい状況があちこちに散らばっている。

なのでコストプッシュ型インフレおよびスタグフレーションのような絶不調時にこそ、ちゃんとした商売ができない会社は淘汰されて業界が健全化すると前向きにとらえている。
事業者が減ったらますます物流クライシスの危険度が上がる、と怖気づく必要などない。
正確で約束事に偽りない運送サービスを用意し、それを求める荷主を探す労をいとわず。求める相手に出会えたあかつきには、希望する内容に見合う適正な見積を提示し、相手との駆け引きや遣り取りに臆せずひるまず挫けることなく、成約を勝ち取れるまで粘り強く説明する。
そんな基本的な行動ができない事業者まで含めたまま、物流クライシスを憂いて恐れているとしたら、それは自業自得でしかなく、淘汰の対象となってしまうのは当然のなりゆきだろう。
視点を変えれば、健全労務・適正利益・社会寄与――つまりそこそこ儲かる・そこそこ給料がもらえる・そこそこやりがいがある、のように業界体質が移行するなら、新規参入者も転職希望者も現状よりも増加すると期待してもよいだろう。
長く閉じられた囲みの中にあって、濁りや曇りだらけで旧態依然のまま存えている業界は、赤い海で戦ってきた者の眼には大きく展がる青い海と映るに違いないからだ。

赤い海からの新参者たちは辣腕で明晰で迅速だが、冗長や多重や複雑を嫌うので、囲みの住人たちの中には違和感や不快感を禁じえない者たちも少なくないだろう。人によっては抵抗や否定を専らとして相容れず、既存の手法や申し合わせを頑なに護ろうとするかもしれない。一方でわが意を得たりと異国からの来訪者と握手して、ともに歩こうとする者もいるだろう。
どのように行動するかは各社各人が決めることなので、ここで○×付けるつもりはない。他の業界の沿革を少し読めばいくつかの結果を知ることができるので、あとは各人次第である。

他業界の風が吹き込み、水が流れ込むことで、今までの囲みの中にあった海がどう変わるかは誰にもわからないし、もたらされる結果をどう評価するかは個々それぞれだ。
ただし不透明な予定調和や安値受注による不健全経営、慢性的な人材不足の苦しみ以上に苛酷で厳しい現実が見舞うに違いない。もとの濁りが恋しいと嘆いても後の祭りである。
競争原理やパブリックプライスという言葉が行き交う業界には、敗者や落伍者が身を寄せる氷室のように凍える日影が付いてまとう。
どんな世界で生きるかを決めるのは自由であるが、決めた後には不自由の連続かもしれぬと覚悟しておかねばならない。

あくまで国内向けの物言いである。
国外では言わずもがなのハナシである。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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