物流よもやま話 Blog

倉庫サラメシとドライバーのYouTube

カテゴリ: 余談

NHKのサラメシが大好きだ。
今さら説明するまでもない人気番組で、読者諸氏にもファンは多いと思う。
他人様のヒルメシ事情は興味深く面白い、と感じているのは私だけではないらしい。
ちなみに一番好きなのは――あの人も昼を食べた――で始まる「あの人が愛した昼メシ」のコーナーで、今は亡き各界の偉人たちにまつわるヒルメシ・エピソードは意外だったり納得したり驚いたりの連続で、いつも見入ってしまう。BGMの「ドリーム」と中井貴一さんのナレーションがノスタルジックで柔らかな雰囲気を醸し出して心地よい。観ているうちに涙が頬をつたうこともあれば、自分の行きつけだった店が登場して嬉しくなったりもする。
(放送直後から行列ができてしまい、従来どおりの利用が難しくなるのはつらい)
なるべく観逃さぬように心がけているが、幸いなことに再放送も2回あるので、ほぼ欠かさず視聴できている。

倉庫現場や車両ターミナルで働く人々、そして個配や長距離などのドライバーたち。
皆さんはいったいどんなヒルメシを食べているのだろうか。
現場スタッフは、社食がある場合はそこで、もしくは持参のお弁当など。
しかしながらほとんどのDCやTCには社食などというタイヘンけっこうな施設はないので、自宅から弁当を持ってくるか、出勤途中にコンビニなどで何か買ってくるか、出入りの仕出し屋さんの日替わり弁当を申し込んでいるか、外食するか、のようになる。

内陸の古い倉庫街なら、昼休みと同時にチャリンコや原付が一斉に倉庫の駐輪場から発進し、自宅での昼食を兼ねた短い休憩を過ごしたのち、午後の始業間際に戻ってくる、、、というのが圧倒的多数かもしれない。
つまり昼休憩時、敷地内にはほとんど人がいなくなる。それは住宅街に隣接もしくは真ん中に位置する倉庫では日常の光景だ。

そのような立地の倉庫では、お弁当持参組にしても、弁当箱などの「自宅の台所で、皿からおかずをピッキングして弁当箱に仕切りを挟みつつ詰めて、食べ終わって空いたら持って帰って洗って」なんていう、普通の主婦や学生さんたちの「あたりまえ」「そういうもの」と疑うことない手間は端からかけない。普段使いのお皿にご飯とおかずを盛って、ラップで密封してそのまま持参。食べ終えたら、休憩所にある流しでサッと洗って持ち帰る。なんていう究極の省力化・ムダ排除・合理的、を業務以外の時間にも実践しているのだ。ただただ「素晴らしい」と称賛する以外に言葉がない。まさに究極の「皿メシ」に、現場を支える方々のたくましさと日々のやりくりの実がうかがい知れるようで、陰ながら頭が下がる。
(弁当箱派を否定しているのではない。あくまで工夫や知恵の好例として挙げている次第だ)

倉庫会社なら、現場と本社や支社の営業や事務職と現場職ではヒルメシ事情が大きく異なる。
私が知る限り、会社の大小を問わず、社食がある場合は、職種の別なく弁当持参組・外出者以外はほぼ100%社食で済ませる。弁当組も同席して一緒に食べていることが多い。
社食などない大多数の倉庫は、外食に出るのは本社機能に属する事務職であり、現場社員は持参か仕出しの別はあっても、概ね弁当で済ますことが多く、パートさんたちは上記の「帰宅して済ませる」が目立つ。港湾や新興開発エリアの大規模倉庫なら、庫内にある入居企業の従業員向け食堂か持参の弁当類で済ます。

聞いたハナシだが、アマゾンは1棟占有使用の場合にのみならず、部分使用、、、つまり複数テナント入居倉庫の特定階使用の場合でも、自らの専有部分内に従業員用の休憩や食事スペースを設けるのだとか。倉庫建屋にテナント向け共用食堂や休憩スペースが用意されていてもだ。
一般的には専有部分は極力業務部分として運用、となりがちだし、そのためにも共用部の充実はマルチテナント型倉庫の付加価値として訴求点に数えられるわけだが、そういう点でも自前主義を貫いている点はブレなく素晴らしい。
スタッフの外部接触や情報交換を防止するため、という被害妄想気味の指摘もあるようだが、他社なら腰が引ける従業員の福利厚生コストの拠出を厭わない事実は評価するべきだろう。

一方で、倉庫スタッフと対照的なのが、ドライバーたちのヒルメシ事情だ。
一括りにドライバーと言っても、軽貨物車両での個配から、大型トレーラーでの長距離運送までさまざまだ。
最近は数多いドライバーたちのヒルメシ事情を知ることができる。それはYouTubeなどの動画投稿サイトの普及によるところが大きい。
ドライバー職は孤独で数多い制限のある仕事だ。個配便なら日々の配達ノルマに追われ、昼食も運転しながらや路肩に停車させておにぎりを口に放り込んで終わり、のような車両の給油作業とさほど変わらない現実は珍しくないし、長距離ドライバーの「駐車場難民化」は食事だけでなくトイレや入浴などの基本的な生活品質の最低限度維持にまで及ぶ労働問題と言える。

ドライバーがそれぞれに発信しているYouTubeはまさに千差万別で、中でも一番多いのが「お気に入りの食堂」紹介だ。
単に味付けやボリューム、価格の説明にとどまらず、例えば大型車両のドライバーなら、利用可能な駐車場の有無は大前提の条件として挙げられる。そして車中泊や仮眠の際の注意点やアドバイス、コインランドリーや風呂・シャワーなどの施設があるトラックターミナルやPA/SAの紹介は、同業者にかかわらず興味以上に実用として貴重で有用な情報の発信なのだ。
WEB情報だけでは得られない現地の詳細やちょっとしたアドバイスが、実際の利用者にとっては親切で具体的・合理的である点も人気チャンネルの特徴だ。
「参考になりました」「助かります」「今度から利用したいと思います」
視聴者によるそんなコメントの書き込みや視聴数の多さは、運送業務の従事者の労働環境が、いかに制限や不足に満ちているかの裏返しでもある。

高速道路だけでなく、主要幹線道路などでも、道の駅の改良版として「大型車両専用駐車スペースの増設や拡張」を今以上に進める必要性の実態が垣間見れる。直接の利害関係者だけでなく、物流にかかわりを持つ各社各位がそういう意識で駐車スペースを眺めてみれば、あまりにも少ない整備拡張状況が実感できるのではないかと思う。昨今導入が目立つ連結車両用の駐車スペース確保などの動きはあるにしても、まずは既存の大型車両に対するケアを優先的に促進してほしいと願う。

立ち寄ったことがある主要高速のSA・PAの情報などは、懐かしさや過去のイメージを良い方に裏切る施設の進化に驚きや興味を持って楽しませてもらっているし、未知の諸施設や幹線道路沿いの店舗情報なども面白いことこの上ない。中には人気YouTuberとして有名になっている職業ドライバーの方も何人かいて、ご本人にとっても生きがいとなっている様が垣間見れる。
業界人のそんな姿を見聞きするたび、こちらまで嬉しくなってしまう。

孤独ながらも他者の干渉を受けにくい「ドライバーの職場」に比して、倉庫内従事者には別種の制限が多い。しかしながら、生の声を思うままに伝える欲求は職別によらず同じだろうし、社会性・労働者モラル・業務情報守秘などに目配りの上であれば、どんどん積極的に発信して、できれば双方向のコミュニケーションを構築していただきたい。
ドライバー職に代表される「密室での孤独」が辛く寄る辺ないことは承知しているが、それにもまして「集団の中の孤独や孤立」のほうが、人を追い詰めたり明日を望まなくさせたりする深さや強さが大きいのではないかと常々危惧している。
自己解放や表現や交信の欲求を満たせる環境がないのなら、各種WEBサービスは個人の属性や境遇を選ばぬ平易で簡易な手段として有効なはず。ひょっとしたら自分だけの意志と行動で新しい世界を知ることができるかもしれない――ならば試してみる価値はある。

踊る阿呆に見る阿呆。
貴方はどちらの阿呆をお望みだろうか。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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