物流よもやま話 Blog

BCP再考「そして夏がやってくる」

カテゴリ: 余談

まもなく過酷な夏季となる。
都市部では耐え難い高温と高湿がほぼ24時間途切れることなく長期間続く。
さらに台風やそれに等しい猛烈に発達した低気圧などがもたらす風水害。
例年のことなので、すっかり慣れて、、、なわけない。

自然の脅威は我々の想定と備えをことごとく上回り、さまざまな災害をもたらして、爪痕ともいえる惨状を残したまま去る。
暴風雨による都市機能と主要交通網のマヒは、物流業界の関係者に不可抗力的な「断裂」や「停止」を強いる。復旧には大きな労力と時間を費やさなければならなくなる。

早くも書く手が止まりそうだが、奮い立たせるように俯かず続ける。

コロナウィルスの脅威が人々を苦しめ、社会活動に大きな支障や制限を及ぼしている。
それに加えて過酷で災い多い夏季の到来が目前に迫っている。就業体制の根本を改める必要が急務となっている気候への対処と労務運用。それらについては昨年掲載したいくつかの記事に掘り下げた内容の検証や提案があるので、ご参照いただければ幸いだ。
地震などの予測不可能な天災を憂い怖れすぎることは無用の悲観でしかないが、ほぼ毎年間違いなく見舞われるであろう気象現象には備えておかなければならない。
といっても、予備行動としては基本的なことばかりだ。

雨仕舞、水仕舞などに関わる雨どいや排水溝、暗渠などの点検と清掃。
浸水時を想定した倉庫内保管物の退避動線と順序の確認および予行演習。
簡易土嚢やシート・水かきなど、道具類の備蓄確認。
窓や扉などの風圧耐力とコーキングなどの劣化チェック。
ヤード及び建物外周部に置いてある備品や什器の緊結固定や不要物の廃棄。
(放火等防犯上の観点からも、敷地内の屋外部には何も置かないことを常とすべき)
耐久性と経済性向上のための照明器具LED化。
災害ランクの規定とそれに応じた従業員の行動規範作成。全員への周知と確認。
通信不能時の集合場所や災害ダイヤル等の利用方法の規定と周知。

いわゆるBCPやそれに類する各社規定に記載があるはずだが、運用にあたっては予行演習などでの内容確認が必須となる。
借り物の総花体裁まる出しの防災対策や、形骸化した予行演習の大きなツケを支払った企業は数多いという事例が何よりの教訓となるだろう。
部下任せにせず、経営トップ以下経営層や管理層参加で、本番さながらの予行演習を実施していただきたい。上席者であればあるほど、実演習の不備や想定の甘さへの指摘が具体的に出るはずだし、何よりも「締まった空気と進行」となること請け合いである。

事業の速やかな再稼働のためには従業員の息災と地域の復旧が不可欠。
各人の居住地域のハザードマップに記載されている避難経路や場所の事前確認も、組織として励行しておきたいところだ。
各企業は自社のBCMの要点をまとめてWEB掲示しているが、「閲覧しておくように」にとどまらず、プリントしたものを全員に配布し、自宅保管の備えに加えてもらいたい。

大きな厄災に見舞われた時、目前の現実とはかけ離れている事前想定や機能不全甚だしい予防策のむなしさを痛感した過去。備えは決して無駄にはならないが、万全万能ともなりえない。それはこの四半世紀を振り返ってみればあきらかだ。
だからこそ「必要だったのに足らなかったこと」を書き出し、現場での需要供給の食い違いを最小限に抑える準備の中身を徹底的に検証し続けることが求められるのだ。

今回のようなウィルスの流行に対しては、マスクに優先して各自の手洗いと他者との接触を控えることが最優先事項だ。現況下でも稼働を止めることが許されない運輸業務、庫内作業や事務仕事などではアルコールスプレーによるこまめな殺菌が有効かと思われる。
一部の運輸・倉庫、流通などに代表される特定業種を除き、何をおいても励行すべきは「人と接触する機会を減らす」だ。つまり人間の体一つで行えることが「対策」や「対処」の最重要事項となっている。

自然災害も同様だ。
最新の防災仕様の建屋や備品類の勇ましい喧伝が、眼前に展がる被災惨状の中、そっと取り下げられて後ろ手で引き出しの奥にしまわれてきた過去。
平時には免災や制災の技術革新や防災対策の進化をあれほど論じていたのに、実際の災害発生時に人々が行わねばならないことは「すぐに逃げる」だ。少なくとも昨日まではそうだったと記憶しているし、政府以下自治体やマスコミに登場する専門家たちも異口同音に「逃げる」を最善とした方策を連呼するだけしか印象に残っていない。
今現在の「動かない」も災害時の報道や告示と似たような後味を残すのみだ。

われわれ人間は疫病や天災についての根本をほとんど解明できていない。
手先でコチョコチョと技術やら予測などをいじくって安堵や期待を懲りずに繰り返すが、実際に厄災に見舞われた時、誰もがおろおろとし、右往左往し、あたふたと取り乱し、途方に暮れて投げやりになったりもする。もちろん私もそのひとりだ。
自然災害の圧倒的な猛威や疫病の容赦ない蔓延の前では、誰もが怯えと不明と閉塞の暗い穴に陥って苦しむ。

そんな状況を解決するのはいつも時間と人の力だけだ。
機械や設備に先駆けて、身を挺しての尽力や不屈の意志がすべての契機となる。
そうでなかった被災の現場を知らないし、その時に最新技術によって防災免災できた施設や建築物が復興の端緒となったというハナシを耳にしたこともない。

ウィルス蔓延の終息宣言はワクチンの完成・効果実証・普及を待たねばならぬだろう。それには開発に要する時間が必要であり、可及的速やかにとはいえ相当の月数経過は不可避だ。
不可抗力という点では、毎年各地を見舞う自然災害にしてもしかりで、ある程度の備えと想定訓練を実施する「できる限りのこと」と併せて、避難とその後の行動の具体へと注力するほうが現実的だと考えている。

つまり自然災害には抗うことも避けることもできないゆえ、人知の及ぶ限りの避難行動と施設想定を綿密に行い、機能停止の期間をあらかじめ考慮しての事後計画を練っておくべきだ。
避難所の被災者用寝食と衛生設備の仮設準備の増強や、近隣自治体・都道府県との情報共有手段の確保。
たとえばだが、物資供給の調整には一定以上の規模と機能を有する地域所在の物流業者があたるなど、被災して被害と機能停止ありきでの対応策準備は最も必要なことではないだろうか。
拙著で強縮だが「BCMは地域の方舟」もご参照いただければ、本稿の補足になるはずだ。

「BCMは地域の方舟」第1回(コラム連載)

炎天の赤道直下、極点の厳寒地、不毛の砂漠、風雨波浪にさらされる海洋の島々。
そんな地域に生きる人々たちの覚悟に似た無抵抗と受容。
我々を含む先進諸国の人間は今一度考えてみるべきかもしれない。
諦めることと受け容れることは違うということを。
それを体現していると感じて止まぬ彼の地の人々たちを想うとき、われわれ日本人の災害に対する在り方が視えてくるような気がしてならない。

ワクチンが完成すれば疫病への対処は終点への道筋がつく。
避難とそのあとの行動に具体的な指針と計画が共有できれば、災害対策の最重要点は整う。

長く辛い制限や忍耐の時間を経たのち、何からどう手を付けて「ふたたび」を始めるのか。
考え議論する時間が有り余るほどある今、開かれた場所での各界実務責任者たちを交えての反転開始の起点想定と復興計画の具体案作成を待つ世界中の生活者たち。
その日が到来するまで、物流関係者の臥薪嘗胆は続く。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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