物流よもやま話 Blog

個配サービスの “ たとえばきっと ”

カテゴリ: 予測

個配便の今後について、自分なりの予想や仮想や夢想を記しておきたいと思っていた。
数社から関連するいくつかの質問投稿をいただいており、丁度良い機会だった。
独善的で偏向しているかもしれぬが、一個人の独り言として気楽に読んでいただきたい。

巷で論じられているとおり、二極化は急速に進む。
勝手な名称を付ければ「一方通行配送」と「相互通行配送」のような。
ここでいう「通行」とは情報と行動を意味している。

1)配送情報と実配送を個配業者側が一方的に決定・通知・実行する。
2)配送情報と実配送は購入者側が随意に決定する。(既存の仕組)

という二つの形態に分離する。
1)はコストが安く、2)は高くなる。
個配業者は1)の比率を上げるために様々なインフラ整備を行う。
現状実施されている、宅配ボックス設置、コンビニ受取、営業所受取、不在宅配達。
今後追加されるであろう、流通店舗のネットスーパー配送との共配、食材宅配業、新聞販売店、外食のデリバリーサービスとの提携、ガスや電気などの基幹インフラ業の参入、、、

こうなると、多様な事業者間でのグループが形成される。現在の個配大手三社を巻き込んで多種多様なアライアンスや資本提携、吸収合併が起こるだろう。
そのうえで相互に配送を利用しあう。路線・個配の共同化が当たり前になる。
当然ながらTCもDCも共用施設が増える。コストダウン効果は比類なく大きい。

集荷と出荷・配送までを同一のプラットフォームでまかなう仕組みが出来上がる。
誰がどこで利用しても、全く同じ書式の送り状と配送規定が適用・提供される。
インフラ化するというのであれば「配送」は競ったり差別化する機能ではなく、市場参加者が等しく負担し、等しく節制し、等しく改良するものでなければならない。
国、つまりは国土交通省・経済産業省・総務省などのかかわり方、参加者の資本配分や分離に課題は多いが、大きな方向性としてはそれが好ましいように思える。
商社や銀行が水面下で調整役となり、あんまり目立たず動かない巨人が背後に回る。大手物流会社などの ‘ 生活者が意識すらしない ’ すでにインフラ化している企業達である。

高齢化・実店舗の減少と売り手の固定費削減・販促推進もあいまって、個配サービスのニーズは増加の一途をたどる。
秀逸な共通プラットフォームがなければサービスの安定は難しい。
結局は価格競争による差別化が激しくなり、いつか来た道へと逆行する羽目になる。

過当競争の末のサービス劣化と強引な軌道修正は誰の利益にもならない。当事者であったガリバー達も心得十分であること言うに及ばずだと思う。
従って、呉越同舟よろしく協業・共通部分をビジネススキームだけでなく、設備やシステム面でも受け入れないと、インフラ化する個配ビジネスからはじき出されてしまう。
行政の調整作用はあっても、デジュール化は不可能なことを承知している市場参加者の企業グループ間で自然調和が生まれてくるはず。行政が介入するよりも、はるかに速い成熟と安いコストの基幹インフラが形成されるに違いない。

あくまでも私見だが、デファクト化の中核に参加できる企業は限られていて、いくつかのネットワークや機能を支えるたくさんの下請け業者ができる。
大昔から繰り返されてきた「世の中のしくみ」は永劫に続く。
時代によって顔ぶれが変わるだけで、国内の消費構造やそれに付随する制度を決定する暗黙の基幹システムの根本的な本質は普遍的なのだろう。
それを利権と批判・非難するのは容易いが、消費者の利便が増し負担コストが抑制されるのであれば、ステルス・ネットワークとして受容することを疑わない。
そんな実態は普通の生活者にはかかわりがないことであるし、一般事業会社にしても同様である。万人が望むことは「便利で安ければよい」なのだ。

年間に50億個の個配数があったとして、その中にさまざまで何らかの利権マージン10円が含まれているとする。
500億円がどこかの誰かに分配されるわけだが、消費者の利便性と合理性が満たされているなら、それは不開示でよいと思う。
「買ったものがストレスなく届く」
という根本的な要求を満たしている限り、一応の正解としていいのではないかと考える。
優先順位の第一は仕組みの中身ではなく、「買った品物がいつどう届くのか?それにはいくらかかるのか?」であるし、サービス内容とその対価が消費者の受容範囲に収まっているか否かの判断を誤らぬことであるはず。
ラーメンを店で注文する。
その店の家賃や人件費や設備費や水道光熱費、目の前にある器の値段とその中にある麺とチャーシューとネギとモヤシとメンマとスープの原価を考えながらラーメンを食べる客はいない。
その値段で美味ければ文句はない。
みたいなことであると思う

サービス供給者の市場需要に適応した柔軟で素直な対応を願う。

新規参入者の顔ぶれを予測すると、わくわくしてくる。
あくまで個人的夢想なのだが、結構いいのでは?と一人合点している。
私が知らないだけで、すでに現実に進行しているものがあればご容赦を。

たとえば、セコムやアルソックなどの警備保障会社。(不在時配達の特化に有利)
たとえば、ヨシケイやタイヘイなどの食材宅配サービス会社。
たとえば、国内生協事業者の共通プラットフォームによる宅配物取扱。
たとえば、大手5紙乗合で形成する新聞販売店の個配サービス。
たとえば、外食やファストフードのデリバリーシステムの拡張。
たとえば、過疎地の路線バス停留所に設置された荷物受取ボックスや荷物受取所。
たとえば、デイ・サービスの送迎車による宅配荷物の取扱い。
たとえば、地域公民館・会館内に常設される荷物受取代行サービス。
たとえば、上記に類する各種参入企業の協業とサービスの複合化。

考え始めると楽しく限がない。
キーワードは、
「ついでに」「どうせ行くのだから」「サービス追加に無理がない」「付加売上が見込める」「公共利便向上」「施設やシルバー人材の有効活用」「自治体と企業の協業」
あたりが頻出しそうだ。
一定の基準を満たすサービス提供者には消費税の減免措置などの公的援護を期待したい。

ここで肝要なのは、参入者達が既存サービス提供者と価格訴求のみで競わないこと。
できることなら競うのではなく協業や提携の方策を探って欲しい。
個々の広報宣伝は自らの商圏やサービスドメイン内にとどめ、共通のプラットフォームを大きく盤石で合理的なものにすることに専一すれば、利用者に簡単便利という安堵と満足が品物と一緒に届く。結果的には利用者の増加が企業収益に還元される。

水道や電気・ガス・通信などのように生活維持・事業運営するうえで不可欠なインフラと認識すれば、他社との比較や差別化の切り口は大きく変わる。
「どのグループのプラットフォームを利用するのか」であり、通信にたとえれば、固定・携帯電話やインターネット関連の契約をどのタイプにして、それはどの企業のどのサービスが好適なのかを考える状況に近似している。
価格とサービスの選好は経るが、利用者側は一定の相場と価格の下限をある程度は認識しているので、意思決定には「どれを選ぶ?」というドアしか存在しない。どれを選ぶかの迷いやためらいはあっても、選ぶこと自体を疑ったり否定することはない。

大阪を例に挙げると光熱インフラの大半は関西電力と大阪ガスが担っている。
規制緩和による自由化で、その二社がそれぞれに相手方の事業に参入できるようになった。
両社とも広報で「大阪ガスの電気」「関西電力のガス」みたいな宣伝と契約実績の掲示をかなりのスペースと手間をかけてWEBやその他の広告で展開している。事務手続きだけの簡易申込でOKというプロモーションと、お得になる金額のシミュレーションも積極的に行っている。
いわば「魚屋の肉」「肉屋の魚」みたいなものである。勧められたら最初は戸惑う。
が、得なのだという言葉に敗けていろいろ読んで検討してしまう。家計を楽にできる方策で、怪しくない魚屋や肉屋のサービスだと確認できたらWEB画面で見積り依頼する。

もちろんだが関電・大ガスとも生存や事業改新を背にした本気ではない。
政策だからこそ「お断りします」とは言えなかった事情を察した上で述べるが、そもそも国内に数頭しかいない鯨のような両社が他所の陣地にわざわざ侵入するようなことを望んだのか?と勘ぐってしまう。
「両社が本気ではない」と書いたが、それはいい加減に予定調和でやっているという意味ではなく、巨鯨が本気で競えばインフラ崩壊の危惧が到来するからであるし、監督官庁はそんな料金設定の許可を出すはずがない。
規制緩和しておいて規制管理するというプラマイゼロの行政手法なのだろう。

光熱費の過当競争が起これば利用者は一時の利を得る。しかし、価格競争による提供者側の経営圧迫が限界に達した時、短絡的極まりない強烈で強引な揺り戻しが訪れる。
個配業界でついこの間起こったことであり、今もまだ余震は続いている。
揺り戻しではなく正常化だと言い張るガリバー達。
地震被災者のようなコストアップ直撃企業。
天災ではなく人災以外の何物でもなかったと解ってはいるが、誰も明言することはない。
普通の感覚を持つ大人がいる企業ならこんな愚かな遣り取りはしない。
「こうやればこうなる」と考えてから行動するのは当然だからだ。
「世間」という風に初めて吹かれたような認識と所見には驚いたが、この先同じ轍を踏むことはないと信じる。大きな組織であるし、内部に心あるサムライが何人もいるはず。顧客を想いつつ自社の行く末を案じるがゆえの真っ当な発言があだになり、もし今まで不遇であったのだとしても、決してあきらめずに内部から変えてほしいと願う。
世界一の個配水準を創り上げ、最前線のドライバーが近隣の道往く人々から挨拶されたり励まされたり礼を言われる事実は軽くないし貴い。陰ながら応援していることを記しておく。

もはや競う相手は同業他社ではなく、荷主と話すべき議題の第一は値段ではない。
その先にいる最終ユーザーの満足度や利便の向上についてが再優先されるべきではないのか。荷主を荷主たる存在にしているのは、個配業者が毎日対面している「受取人」なのだ。その対象が喜んだり望んだりすることを叶える配送者に魅力を感じない販売者は皆無だと断言する。
私に察知できることを、今から宅配サービスに参入してくる異業種企業の優秀な人材が気付かないはずはない。
個配先行組がやらなければ後発組が根こそぎもってゆくことは疑いようがないところだ。

現状の寡占状態が崩れる時。
それはより便利でわかりやすいサービスが増加する時、と期待している。
生活者の様々な場面を知る各業種のプロフェッショナル達が企画設計する配送サービス。
人の安心や喜びや笑顔こそが事業利益と企業存続の根幹をなす大原則なのだと知る事業者達。
想像するだけで期待は膨らむ。

送る。
届く。

単純だが難しいこの二行に挑む企業のすばらしい成果を切望する。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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