物流よもやま話 Blog

もう一度あの現場へ

カテゴリ: 余談

小学生の頃、友人達の誰ともなく名付けた「ガンバルジイサン」という名の亀をよく捕った。
当時どの縁日でも人気だった「小さくてかわいいミドリガメ」のなれの果てなのだが、デカクてクサクて、くすんだ暗緑色の甲羅にオウドイロの裏側でイカツイ。
丸坊主の爺様のような風貌を眺めながら、「インドの汚い川にぎょうさんいてるお坊さんに似てるなぁ」と思っていた。

「みにくいアヒルの子」の逆パターンであるが、カメそのものには何の罪もない。
アメリカ原産の外来種で、奥ゆかしさに欠け、無駄にでかく、容姿に品がなく、動作がガサツで、アホみたいに何でも食う。
陸に上げると、どえらいスピードで走る。
ウサギといい勝負ができそうで、子供心に「おいおい、カメがそんな速いのはあかんやろ」と昔話がややこしくなる現実に辟易苦笑した覚えがある。

というハナシはどうでもよい。

高齢者の雇用対策、シルバー人材、生きがい労働、若者達との共存、働くことは生きること――という活字媒体によくある記事やテレビのニュースや特集番組に出てくる高齢者のイメージからはちょっと離れていただきたい。
亀仙人みたいなジイサンやバアサンがたくさんいるのだ。
しかも「現場」に。

驚異的な「入荷検品精度」
圧倒的な「ピッキング速度と誤ピックゼロ記録の継続」
想定時間の半分以下で完成している「特殊梱包」

ありえない。
考えられへん。
盛るのはええけど、嘘はあかんで。

他人がハナシを聞けばそう言う。
絶対にそう言う。
見てきた本人が認める。

とにかく元気なのだ、ものすごく。
あの現場にはえげつない「ガンバルジイサン」と「ガンバルバアサン」がいる。
外来種でもなくデカクもない。
たいして食わんし、容姿も地味で、普段はニコニコして穏やかで控えめ。
椅子に浅く腰かけ、背筋はまっすぐ。スマホで近視・猫背の若者達よりも凛々しく、汗をぬぐう姿は爽やかで、加齢臭など一切しない。

古い記憶がよみがえる。
学生時代に参加した河口湖マラソン(現、富士山マラソン)で、「韋駄天」とプリントされたTシャツ姿の、かなり腰の曲がったおばば様に35キロ付近で抜かれた時のモノクロでスローモーションな数秒間。
私も並走する友人も、高校時代には陸上競技で短距離や跳躍のそこそこな選手だったはず。
とか考えながら、うつむき加減で走っているのか歩いているのかわからん前進を。
恥ずかしいやら情けないやらの羞恥汗顔と自己嫌悪の極みだった。

生産性が、23歳の優秀な派遣社員の1.7倍。
「来年にはとうとう前期高齢者になってしまいます。あははは・・・」、って。

「今日はとびぬけて暑いからちょっと休憩してきてください。お先にどうぞ」
はい、ありがとうございます、と言えるはずない。
これが先日、「目の前で起こったこと」であり、動揺と感動と畏敬の充満だった。

現場の至宝である。
業界屈指のセンターマスターが率いる珠玉のジジババ戦士。
次世代倉庫の道標となるだろう。

「あの現場の作業手順は最高傑作と自負している」
なんてもう言えない。私は私の役割を更に突き詰めて全うするしかない。
微細な修正しかできないかもしれないが、それでもあの現場を再訪したい。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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