物流よもやま話 Blog

玄人の物流現場「この上ない」の正体

カテゴリ: 余談

物流倉庫の実稼働はパート従業員で成り立っている。
組織的には正社員が運転し、車掌の役目も果たしているバスのように見えるが、実は乗員であるパートさんたちが降りてしまうと物流現場というバスは運行できなくなる。
社員だけで動かすと、すぐに事故を起こしたり、出端にエンストしたり。
車庫入れさえまともにできなかったりする。

昨今話題の自動運転と同じで、運転席の社員は座って進行方向を眺めてはいるが、ハンドルやアクセルやブレーキにはほとんど触れることはない。
車掌には乗降者の確認と停留所を告げるぐらいしか仕事はない。
優れた物流現場ほどその傾向が強く、それこそが理想形といえる。

駆動部と追随部の相互依存的な「牽引したりされたり」ではなく、「全輪駆動型」の倉庫機能は、あらゆる意味で安定している。
車輪の数は倉庫によって異なるが、基本的には「入荷・保管・出荷・事務」の四輪車が多い。
もちろん一人で二輪以上の役割をこなす多能工者が多数を占める。四輪全ての位置で駆動可能というツワモノも珍しくない。
意外かもしれないが、そういう現場は平凡で地味な様相となる。
静かで一見のんびりしているように見える。

それこそが、まさに玄人の現場なのだ。

正社員は作業させたらポンコツ極まりないが、「プロのパートさん」へ明確な作業手順の順守を徹底し、作業の要所は必ず巡回確認。毎日飽きることなく欠かすことなく。
現場に異変や困りごとがないかを検視し続け、余計な会話を控える。
自身は現場作業のプロになれないし、なってはならない。
プロを育てるのが管理者の仕事。
黒子に徹し、面倒を引受け、責任を負う。
それが玄人の物流管理者の本分。

毎週毎月、能力優秀者を皆に知れ渡るほどの声量や人目に付きやすい掲示でほめる。
毎日毎時、ミスが発生したら、声量を絞り、対面で冷静に穏やかにエラー原因の特定と修正を本人と共有する。
性格起因論や環境論は絶対にしない。
ルールの徹底とくどいぐらいのOJT反復だけで足りる。
耳だけでなく口にも眼にもタコができるほどやって丁度よい。

ここまで書いていて、以前教えてもらった話がふと浮かんだ。

東京都の三鷹市は宇宙観測用光学レンズの世界最高品質を誇る生産地。
意外にも、宇宙工学とそれを支える光学技術は機械やコンピューターでは完成しないと聞く。
いかなる最新検査装置をもってしても、はるか及ばない最終検査技術があるのだという。
「レンズ表面の万分の一以下の歪は、その表面をなぞる職人の指先の皮膚感覚でしか検知できない」
人間だからこそ感知できる領域なのだとか。

比べる対象として適当かどうかは別として、「物流現場も同じですよ」と言いたい。
素晴らしい現場には、最新技術のマテハンやチェックシステムが及ばない感知力がある。
違和感であったり、リズムの微妙なズレであったり、予想外の時間短縮や延長であったり。
全輪駆動型の物流現場は全方位型の検知センサーが張り巡らされているのと同じ。
プログラムや赤外線よりもはるかに繊細で死角の少ない感知網。
「しかし、よく気付いたねー」という現場の一場面に立ち会った者なら、周囲の笑顔とお手柄本人の含羞交じりの謙遜な受け答えの光景を、掛け替えない貴い瞬間と感じるだろう。

光学職人の「神の指先」も、物流現場のパートさんの「一心不乱な眼差し」も同じように大切で有難く、そして敬うべきものと感じるのは私だけではないはずだ。
なぜそのようなファインプレーができたのかといえば、それは管理者が現場全員に作業手順厳守を徹底し、ひたすらにルーチンの反復を求め続けたからに他ならない。
単調な反復作業の積み重ねが、微細なエラーや差異や違和感を逃さないセンサーを培わせた。
特殊から入って普遍に出る。
そんな言葉が過る。

運転手や車掌は、宝物のような乗員を守らなければならない。
正しい道順で正しい目的地に到着するよう、細心の注意をもって運行管理する。
そんなバスのような物流現場を持つ企業は手強いことこの上ない。
他社からはその理由が視えにくいことこの上ない。

高額なマテハンや省人化のための諸システムなどには無縁の何の変哲もない平凡な倉庫。
掃除や整理整頓はいきとどいているが、それ以外に特別な設えや目立つ個性もない。
いったいなぜこの倉庫が素晴らしい業務内容を続けられるのだろうか?
わが社もそん色ないどころか、これ以上の建屋と設備と労働環境を維持している。
何がどう違うのか?

他社が欲して止まないぬきん出た感知装置。
その正体とは横にいるパートのオバチャン。
そんな現場が大好きである。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

最近の記事

アーカイブ

カテゴリ

お問い合わせ Contact

ご相談・ご質問等ございましたら、
お気軽にお問い合わせください。

お問い合わせフォーム