物流よもやま話 Blog

明日できることは今日しない

カテゴリ: 本質

いわゆる「齢のせい」なのかもしれないが、他者の訃報が骨身にこたえた一年だった。
鮮やかだった動画が突如として褪せた静止画に転じるようなやるせなさをあと何度忍ばねばならぬのか――年の瀬にはいつもこんな喪失や移ろいの寂寞に見舞われる。
寒気厳しくなり、また今年も越年の時が近いのだという思いがそうさせるのかもしれない。

以前から折に触れて書いたり口にしてきたが、今年意識的に発したのは、
「明日できることなら今日は無理してやり切らずともよいではないか。無理は禁物、無理は損。今からの国内物流は〝明日以降でも支障ない〟をいかに増やすかが肝なのだから」
という主旨の言葉だった。

近年の物流業界で起こってきたいくつかの問題や困りごとは、一年中時間に追われ、そのくせ時間を金で買うような予算など論外とされ、さらには工夫しようにも業務総量を減らすための部門間連携や経営層の理解やしかるべき人材投入などがあまり認められなかった――という因果のまま存えてきたことに尽きる。
それらの事象は物流業務に限ったことではないと承知しているし、他業務でも現実問題として「金がかかる」は最初に除外されることが多い。次の「工夫する」は、それを考え実行する管理者ポストに人材投入することがイロハのイなので、そのスタート時点でつまずきこけている企業が多い。

で、ワタクシ的結論は「時間猶予を認める」である。
誰に対しての言葉かといえば、まずは顧客。次に顧客に対面する営業部門。さらには経営層。
ちなみに時間猶予に拒否反応や即座に拒絶するのは上述とは逆の順番、、、つまり顧客から遠い順に「そんなことはできない」と始まることがもっとも多いパターンだ。
「発注から入荷計上、受注引当から出荷完了までの標準的な所用時間拡大について検証することはやぶさかではなく、緊急対応の補足あれば許容可能」という回答を用意する顧客は多い。
つまり内部抵抗で物流業務の所用時間延長が許容されないという実態がほとんどなのだ。
もちろん具体的な調査に基づいてのハナシである。

“Never leave that till tomorrow which you can do today.”
というベンジャミン・フランクリンの言葉は自律の心得として貴いが、今やそれが必ずしも至言とはならぬことも数多くなっている。念のため断わっておくが、私はフランクリンの十三徳のほぼすべてを守れない怠け者だと認める。
だからといって高潔で清廉な訓戒の言葉を否定しない。ただ単に実行できないだけだ。
しかしながら彼の時代から300年の時を経て、戒めたる金言が価値観の固定化や、カタイ頭の思い込みを招くことも散見されるようになった。故人が今現在の米国や未だそれを模倣してやまぬ20世紀では先進国だった国々を眺めたなら、「時勢や状況によってしなやかに考えなさい」と宣ったに違いない。

と文句を垂れていたら、藤子不二雄Aセンセイが掲題のようなことを仰っていらしたとか。
さらにはトルコのことわざに同じ言葉があるのだとか。
ついでに書けば、敬愛する遠藤周作センセイはそのトルコのことわざを引用して、人の生き方や価値観の捉え方という視点で論じている。

ワタクシ的に書くなら、
一日でやろうとするからシンドイ。
一日でやろうとするから人が足りぬ。
一日でやろうとするからミスや事故のリスクが高まる。

現場的言い回しなら、
期間割の一日が一日半、二日が三日、一週間が十日になれば劇的に楽になる。
少しだけ延ばせばたくさんの無理が減る。
無理が減れば働くリズムが好転するので働きやすくなる。
人の働く環境が整えば、人材定着率は下がらない。
時間猶予を認め確保するのは怠慢や拙劣とは別物、と経営が理解する要あり。

なんてことを言い続けたこの一年だった。
もちろん来年も同じく、である。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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