物流よもやま話 Blog

破顔一笑「大いなる手抜き」

カテゴリ: 本質

日本文化の「様式美」は我々の暮らし方やものづくりなどの根底に流れている。
極限まで削り、排し、除すことで「最小と最少」に至ってよしとする美意識は貴い。

「いったい、なんのハナシやねん?」とまゆをひそめられそうな始まりだが、今回は冒頭の二行がフリとなって、この後も展開してゆく。
なんとなくオチがバレバレな感は否めないが、それは毎度のことなのでご容赦願いたい。
物流現場は究極の引算でできている、という内容が含まれたハナシを以前書いているが、在庫と商品の可変性を切り口にした別テーマの補足的説明だった。
今回はその「引算」を真中に据えて掘り下げたいと思う。

物流業務設計の要点。
それは「いかに作業しないか」に尽きる。
何度でも書くし、誰に対しても断言するし、永遠に追求し続けることでもある。
「しなければならない」「せざるえない」「したほうがいい」を徹底的に疑い、分析し、最小作業単位まで分解してみる。バラバラのパーツ化した「物流業務の部品」と完成品たる「業務フロー」を交互に見返す。それを何度も何度も繰り返す。近接凝視したり、少し離れて眺めてみたりをうんざりするほど反復。そのうちに視えてくるものが必ずある。
概念を述べているのではなく経験を記している。

生来の横着さと面倒くさがりの気質が大いに作用しているに違いないが、私の業務フロー設計は「いかに働かないか」を大前提に、思考が組み立てられている。
現場であれこれ面倒でややこしいことをするのはまっぴら御免だし、酷暑の夏季や厳寒の冬季なんか特に、倉庫作業に費やす時間や手間はできる限り少なくしたい。倉庫内に滞在する時間を極力減らしたい。やることやって、なるべく時間を余らして、エアコンの効いた明るい別室でダラダラ過ごしていたい。
と、「私自身が当事者なら絶対に思うはずだから」が全てのスタートとなっている。
「ちゃんと届けばいいのだ」を念仏のように唱え、その結果にたどり着く経路は最短距離であり最少の工数・人員で。
常に「これってやらなきゃいけないのか?」という、現状への疑問と固定観念の払拭や否定をいかにもな理由で掲げてはいるが、言動をよく観察して突き詰めていくと「ナマケモノ」というささやきがたくさん聞こえてくる。幻聴であってほしいと願うが、声のもとは自身の内側にあるような気がしないでもない。
このハナシはここでやめておく。

・正解を導くための式は短く簡素なほど良い。(偉い数学者の言葉:名前は忘れた)
・結果が伴う手抜きは健全である。(ロジ・ターミナル代表者の言葉)

うーむ、、似ている。(ややわかりにくいかもしれないが)
根本的な真意は全く同じだと言っていいだろう。(ややわかりにくいかもしれないが)
ロジ・ターミナルのほうは庶民的・大衆迎合的表現がなかなかよい。

あくまで「結果が伴う」という条件付きで「こんな仕事アホらしくてやってられん」を大いに推奨しているし、実践しているのだ。「こんなん面倒くさいやん!」とか「こんなんせんでもええんとちゃうの?」とか「こんなんいつからやってんの?」なんていう言葉を多用するところが特徴である。

ちなみに仕事以外でも似たような言葉を一日中遣っているような気がする。日々の積み重ねが大事であると信じているので、そのへんは周囲のいかなる反応にも屈せずに貫徹している。
というような一連の行を「物流現場のミニマリズム」とかなんとか言い張って、かなりどや顔で格好をつけている今のワタクシであります。
自己満足こそオリジナリティーの源泉なのだと信じてやまない。
したがって、この理屈はずーっと言い張り続けることになるだろう。

必要最少限の手数と脚数を業務フローから割り出して総労働時間を算出する。
現場にありがちな「ぜんぜん手間とも思わない」「これぐらいなら平気」「多少の無理は仕方ない」は絶対禁止であるし、それは熱意や誠意や勤勉ではない。実直や愚直は生き方の美徳として大いに尊ぶが、現場作業の負荷と工数の最適化にはなじまない。盲目的な自己犠牲を美化しているだけの妥協と惰性の産物としか評価できないことが多い。

物流現場に忍耐や犠牲は不要。面倒や厄介は全部声にして、責任者に丸投げすればよいだけ。それを余すことなく選好みなく引き受けるのが人の上に立つ者の仕事なのだ。投げかけられたら整理整頓、簡単簡易に加工して最短で現場に返す。場合によっては「廃止」「割愛」という判断も少なくないはず。

私の主張する健全性は過度に合理的で無機的と感じるかもしれない。
なぜそこにこだわるのかといえば、全体調和や仲間意識や迎合協調を掲げる現場には、歪んだ仕事観や環境感が根付いてしまっていることが多くみられるからだ。

職場は家庭ではない。
現場は団らんの場ではない。
そこに会しているのは家族でも友人でもなく、協働するスタッフでしかない。
家庭やその団らんを維持するために働いているのだから、その場所に「労働対価を得る」以上の優先順位を振ることは奇妙。うわべの懇親や浅い思い遣りの演技は、簡単に捻じれてしまう人間関係のトラブルや諍いの種になりかねない。

正規・非正規の別を問わず、人が辞める原因のほとんどが、業務以外の人間関係や業務への過度な忠義だてに似た勘違いにある。
どの会社のどの現場でも起こることであるし、管理者は多能工化による作業ローテーションで、人間関係と担当業務の固定化を回避しようとするが、ゼロにはならない。

無責任な物言いに聞こえるかもしれないが、
「仕事も人間関係も適当に手抜きするほうが上手くいく」
と思っている。
仕事は「簡易・簡単・簡素」
人間関係は「淡交・単純・短縮」
こんな表現で説明してきたし、今後も変わることはない。
物流業務は引算の勝負。
質を落とさずに、いかに間引くかが肝となる。

・最少人員を維持できる最少工数の設計。
・最短経路を維持できる直線的・直列的業務フロー。
・基本的な礼節だけに留めた必要最低限に近い会話。
・淡い人間関係。
・一人が複数作業をこなせる多能工化。

これがロジ・ターミナルの掲げる物流現場ミニマリズムの目次。
贅肉のそぎ落とされた業務フローには、冒頭に記した様式美に近いものを感じる。

全員が正々堂々と「いかに作業しないで済ませるか」を「大いなる手抜き」と破顔一笑に付し、物陰で人知れずこっそりうなづく現場責任者。
冗長や過剰手間の排除・削除・消除。
そして原因の駆除と再発の防除。
過不足ない適切な加除。
そんな現場を目指すことが、我々の命題だと信じている。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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