物流よもやま話 Blog

物流会社と物流子会社

カテゴリ: 本質

「お仕事は何ですか?」
と問われて、
「物流会社です」
と答えた人と、
「機械部品のメーカーです」
と答えたもう一人がいたとする。

機械部品メーカーの場合、
どういった機械のどのような部品を造っているのか?
その会社での貴方の役割は何なのか?
などが続くのではないかと思う。
「物流部門です。倉庫業務の管理をしています」
まで答えて、説明が終わる。

で、ここからが多いパターンなのだが、質問者は上記の二名にそれ以上の質問をしない。
もし相手が「物流会社」や「物流部門」でなければ、さらに深掘りする質問が続くのかもしれないし、事実そんなやり取りは巷にあふれている。
しかし、「物流」と聞いた途端に言葉が続かなくなる。
なぜなら、あまり興味を持てそうもないし、気の利いた質問をするだけの知識や経験をもちあわせていない。
したがって、当てが外れた会話の流れを終わらせるための「難しそうなお仕事ですね」とか「専門的な内容なのでしょうね」とか「スケールの大きなお仕事というイメージです」といった類の、湯に浸かりながらの放屁みたいなモゴモゴ言葉が浮かび上がってすぐ消え、臭いの名残もなく静かになる。
私が居合わせば「ぜーんぜん興味ないわなぁ、そりゃ」と呟くだろう。
自分が答える当事者だったことは数知れず。
その時のその相手に「物流は主業務です」と気張ってみてもしかたないので、思いっきり作り笑顔でゆっくり頷きながら、会話の中心からそーっと撤退するのだ。
そういう仕事だし、意識されることない重要業務だと自負しているので、分かりにくさは正常な反応と納得している。

こうなると掲題のハナシなど一般的には論外の話題となってしまう。
違うことはほとんどの人が理解しているが、「どう違うのか」には誰も関心がない。
似たようなもの、と書いたり言ったりすると、業界内の関係者は、
「いやいやぜんぜん違うんですよ。おっかさんと落下傘ぐらい違います」
みたいなツッコミをするかもしれない。

天邪鬼でも皮肉の憎まれ口でもなく、
「似たようなものどころか、中身は同じであるべきなんですよ。本当は」
と思っているし、そうなっていない現実を憂いている。
なぜなら、同一企業の物流を捌く現場が子会社であろうが外部の委託先であろうが、その業務は同じはずだからだ。
それは常々書いているとおり、企業には独自の物流設計が必要という信念と確信に因る。

同一の設計から生まれる業務フローは同じでなければならないし、その先にあるルールやOJTもぴったりと重なるはずだ。
複数の選択肢が存在するなら、設計に隙があってゆるいか、解釈違いのいずれかだ。

設計趣旨にそった全業務パーツは、後付けの加工なく実務に下ろされなければならない。
OJTでの刷り込みに至るまですべてにだ。
携わる者は自身の解釈を上席に未確認のまま、実務に着手することは許されない。
そもそもが、内製と外部委託では物流業務が変わってしまうという事態が異常なのだ。
「配送完了」が無難に行われたのだから、方法論の不統一は許容の範囲内。
などという理屈は迷路をさまよう長い時間の始まりと覚悟しなければならない。

「答えが間違っていることは単なるミス。式が間違っていることは大問題」

と以前書いたが、それを不文律の第一条としている。
式が正しければ、誤答は単純なミスであることがほとんど。
式が間違えていれば、正解は偶然の産物であり、次はどんな答えが出るのかわからない。
物流業務における「式」とは業務フローと作業手順である。
正しい業務フローと作業手順は、内製であろうと委託であろうとひとつに決めるべきだ。
その作成者は自社の物流設計担当者であり、それを自社の公式と認定するのは経営者である。

自家用車であろうとレンタカーであろうと、同一者の運転技術に変わりなどないし、スピードやブレーキのタイミングも個人それぞれの癖やこだわりのままであるはず。
物流委託をタクシーや乗り合いのバスと考えているならこの理屈は通じない。
「運転のプロに任せた方がよい」という方便が聞こえてきそうだが、顧客満足に直結の主業務である物流に関して「素人でよい」、と開き直る姿勢を評価する気にはなれない。
「物流は主業務ではない」がその経営の意思ならば、深い落胆とともに沈黙して去るのみだ。

内製でも委託でも自社の物流業務は不変。
商材や営業方針へのこだわりと同様に、物流にも自社の血脈が存在しなければならない。
その中を流れるものは経営理念から生まれた事業に対する自らの倫理。
顧客が存在するかぎり、物流業務の血液純度を保つ意思は、貫かれるべき絶対の掟。
その言に子会社・委託先云々の入り込む余地はない。

物流部門は品質管理と事業推進の最終門番。
門を出たその先は顧客の領域か、自社と市場のまじりあう汽水域になる。
そこは満足や納得、安心や信頼という巨大な岩壁が立ちふさがる難所。
創業以来の経営理念と事業沿革の中に、座礁せず航行する方策が記されている。
全部門が一様に読み込めば、船はつつがなく進む。
物流部門は船底で粛々と動力を維持すればよい。

無言の反復作業こそ物流部門の本懐。
機関長たる責任者は船が自前か借り物かの別を問うことなどない。
物流専門職がいる企業はそんな船に似ている。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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