物流よもやま話 Blog

模範解答「人が足りません」

カテゴリ: 経営

物流関連企業および部門の人手不足は慢性化しているので、他業種に比べて耐性が強い。
という内実のハナシを厚労省の統計に絡めてLOGISTICS TODAYに寄稿したのは先週のこと。
今回はその派生記事だと思っていただければわかりいい。
業界・職種を選ばない要素も多いと思うので、そこのところを少し深堀りしてみたい。

(参照)“腕におぼえあり”ならば物流業界へ

“腕におぼえあり”ならば物流業界へ

「人が足らない」には2種類ある。
ひとつは現業全般に共通する作業人員の不足。
他方はその現場に不可欠な管理者の人材不足。

作業人員の不足については、やはり2種類ある。
ひとつは業務量に対して必要な労働時間を満たす絶対人数が足らない場合。
もうひとつは本社管理部門からのコスト削減要求をかわすためという場合。
「うちの現場は余裕でまわってます」なんてうっかり口を滑らそうもんなら、「もっと減らせるのではないか?」と指摘されることが目に見えているので、「いやはやもうぜんぜん足りません。ヒィヒィ言いながら毎日乗り切っています」などと、とってつけたようにハァハァゼィゼィしながら早口で返答する。
巷でよくある挨拶時の「景気はどうですか?」ではじまる業績やりとりに似ている。

現場人員は足らないぐらいでちょうどいいはず、というお約束的な認識が会話の底には横たわっているらしい。
不足ながらもやりくりしている、が正しい説明であり、求められている回答なのだろう。
実際に足らない状態で綱渡りのような毎日を続けているのなら、その管理者は意識と能力が低いということになるわけだが、業務品質を切り離してのコストについてのハナシになると様子が違ってくる。
それは物流部門に限ったことではなく、企業内の全部署に当てはまるのかもしれない。
程度問題なのは言うまでもないが、予定された会話が毎度繰り返されることが、変わりなくつつがないを感じさせる気がするのは私だけだろうか?
そんなこんなで一日が終わることは、企業活動の日常としてほほえましい。
不謹慎、意識が低いとお叱りをうけそうだが、あんまりカリカリしてもなぁ、と頭を掻きながら欠伸まじりでフガフガ言う私である。

作業人員の不足は業務処理能力の不足に直結するので、管理者は常に業務量の予測や情報収集に気を配り、相応のシフト管理をあれこれと考える。
毎週追われているというのなら大問題だし、根本的な見直しをすぐに行う必要がある。
毎度で恐縮だが、総作業量を減らすという策が最良であると付記しておく。
現在の人員で間に合うようになるどころか、人が余る可能性も高いはずだ。
ギリギリまで絞るのは報告書での表現にとどめて、実際にはやや余裕をもって現場運営にあたっていただきたい。
と書けば、「結局は同じかい!」とツッコミがきそうだが、ハナシというものは聴き手に合わせてするものなのだ。
業績堅調なら、許容範囲内で手短に丸く収まる方便として「それでいいのだ」とバカボンパパのように頷いていればよい。
ただし現場では、お日様が西から昇るようなことは絶対ダメなのだぁ、とも付け加えておく。

かたやで現場管理者の人材不足はお気楽な毎度の茶番劇では済まない問題だ。
企業によっては全経費の中で最大の金額となる物流費の管理に注力しない「今」や「今から」はあり得ない。
なんとなくで済んだ「今まで」はもはや昔話でしかない。
その大きなコストの管理者たる物流部門の現場責任者や管理者の養成や確保は、企業収益の着地点に大きく作用する跳躍前の助走動作と同じである。
踏み切った後の跳躍を空中で調整することが不可能なように、動き始めてしまった事業の結果は、途中で修正することが困難なのだ。
「着地」してみないと評価ができないし、やり直しではなく、修正点や伸長の目標値は次の跳躍・次の期に持ち越される。
その結果を直接担うことが現場管理者の責務の第一である。
すべての段取りや日々の努力は、顧客満足の維持と向上の産物である決算をつつがなく迎えるために存在している。
企業の決算に問題がなければ、かかわる者すべてに一定の約束事が実行されるし、次への計画も実際に動き始める。

物流管理者に求められる固有で特別な資質などない。
他業務の管理同様の常識的な判断力と実行力があれば足りるし、強靭な肉体や人員を束ねるための風体や口調なども無用だ。
俊敏や明晰は邪魔にはならないが、地道や持続、忍耐のほうが優先順位が高い。
観察力は最も意識的に高めてこだわらなければならない要素だが、それも技術のひとつとして習得できるので、個人の資質や才能に依存しない。
誰が任命されてもよい、と書くと誤解を招きそうだが、事実はそれに近い。ちなみに他業務を管理する人材についても似たようなものだろうと思っている。
つまりは人材不足ではなく、求人内容の錯誤か配属ミスが実態なのでは?
という私見を述べる機会が増えそうな予感が強まっている。

人が足らないという現象の原因は何なのか?
現業忌避という根本的な志向を源とする作業労働力の不足を解消できる術を知る者はいない。
企業側は機械化やシステム制御で人員や属人業務の削減に動いているので、その種の現場に就業させるための活発な議論は減っていくだろう。
労働現場の環境整備や福利厚生などで給与条件の補完をするという既存の方策が今後も踏襲されると推測できる。

管理者をはじめとする物流機能を担う人材の不足は毎度のように深刻な問題として挙げられるが、その都度「そんなに難しいのかなぁ」と首を傾げていた。
原因を外に求めているだけ、、、労働市場の現状や職業・職種の選好で劣勢に甘んじざるをえない、、、ということが多いが、それは大きくも致命的でもない要素だと考えている。
企業自らが偏見を持ち、行動以前に腰が引けているだけではないかということだ。
物流業務に人材投入や内部養成してこなかったのは、他ならぬ自社だ。
それゆえいざ外部から人を得ようという段になって「物流部門の求人は厳しいのでは」と偏見を持ってしまっている。
自社がそうなのだから他社やそこに属している人材も同様、と狭い視野と硬直した思考が先走ってしまいがちだ。

自社業務の要所である物流をないがしろにしているのは自分たちなのかもしれない、という自省も必要なのではないだろうか。
そこを外側から見るようにできれば、求人の内容や訴求ポイントは大きく変わる。
変化の先に訪れる結果は今までと全く違ったものになるだろうし、そう仕向けることが採用業務の本筋である。

足らないのは人ではなく意識の変革と行動。
大きな期待を込めて苦言を呈す次第である。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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