物流よもやま話 Blog

新築倉庫と祭りのあと

カテゴリ: 予測

いまさらではあるが、近年建築された大型倉庫についてのハナシである。
REIT( real estate investment trust、リート:不動産投資信託)やら投資法人云々の説明や現状はさておき、もっと原始的で単純な懸念というか疑問を抱いてきた。
それは回収期間についてだ。
もちろん一概には言えないということも心得ている。

よく耳にするのは30年。
ご存じの方が多いと思うので詳細は割愛するが、要は元が取れるまでの期間のことだ。
12か月×30=360か月。
360×月額賃料収入=回収予定金額、となるはず。実際の試算では様々なコストやロスが勘案されたうえで総額が確定するのだろう。
逆にいえば回収必要額(ファンドなら配当原資となる予定収益込み)を360で除してやれば月額賃料総額が出る。賃貸対象の床面積や駐車場など以外に収入が見込めるのか否かも変数として考慮しなければならないが、それも面倒でややこしくなるので調査割愛。
つまりは30年間の収入を見込んで賃料額が決定する。
(あくまで素人の大雑把な思い込みである。根本的な誤認があればご指摘乞う)

個人的には「そんな先まで見通すような目論見って、、、」と戸惑うばかりだが、収益物件とは本来がそういうものなのだろう。
現実に数多い物件が稼働しているし、建築中だし、着工予定でもある。
ひと昔前なら、一般的なサラリーマンの会社人生の総時間に近い。
世の中には30年の住宅ローンを組む人々も少なくないのだから、そう考えれば「なるようになるのだろう」と受け入れるのも一つの理解である。

反面、そもそもが私の思い違いなのかも、と考えもする。
30年という設定期間や必要回収額は、あくまで現在の予定であるから、試算通りに完遂できないことも不可抗力的に起こりえる。
遠い将来の結果を約することは不可能だし、そんな気もはなからないゆえに、胸を張って目論見を口にできるのだろうか?
わからないし約せない将来は思考の外に追いやっておきつつ、とりあえず今現在は好調・好況と広報。そしてメディアはそれを鵜呑みにして報道しているのか?「まさかそんなことはあるはずない・・・」と胸中で即座に打ち消しながらも、背中が寒くなるのは私だけなのか?
と独り言ちるのみで、事の推移を眺めているしかない。

先々の目論見はどうであれ、今の日本で長期にわたる種々の「約束」はあんまりお勧めできないというのが正直なところだ。
不動産関連はなおさらである。過去記事で散々書いてきたので、その根拠は割愛する。

一部の特殊地域を除いて、一般の生活者や企業が入手可能な住宅や事業用不動産は投資時点での価値が最大。
あらゆる国内不動産の流通相場はもはや上昇しない。緩やかにしかし止まることなく下降し続けるだろう。低位の相場を維持しながらの取引数停滞が見込まれる。
その反面、永住用や自社営業用不動産としての投資なら非常に有利な条件で入手可能になるだろうし、あえて購入せずとも、市場にあふれる格安で程度の良い賃貸物件を選択肢に加えてもよい。先10年ぐらいの「お金の遣い方比較」を行えば優劣はすぐに判明する。
金額によるが、精緻な計算は不要までも、やはり今まとめて投資すべきか、月次ごとに経費処理した方がお金の遣い方としては有利なのかの選好は必須条件だし、そんなことはどの企業も心得て事に当たる。

法人・個人を問わず、個々のマインドに物申す気はさらさらないが、事業用の倉庫物件に限れば購入ではなく賃借で手当てするほうが圧倒的に有利ではないかと考えている。
購入=賃借料の全額前払い、と同じとしか思えないからだ。自前主義を貫くべきは物流業務の中身であって、建屋にまで及ぶ必要はなくなってしまったと感じている。
私見だが、固定資産税は現状維持どころか、歩率は上昇基調で推移するだろう。路線価を下げない政策は税収維持の基本原則として暗黙の了解となっているはず。
余剰利益の処分手法として自社倉庫建築により含み資産を増やす、などという時代は二度と訪れないのだから、購入ではなく豊富な賃貸物件のなかから自社物流に最適な倉庫を選定、がベストジャッジと考える。

20年後には1300万人の人口減少、高齢化率は35%に達すると予測されている。
国内経済は人口動態を過不足なく消費に反映し、それに連動して物流は動く。なので小さく鈍い動きとなってゆく物流に現在のような倉庫総床面積は要らなくなる。
来年から婚姻率が目覚しく上昇し、出生率も同様に、、、みたいな夢を見たいが、あまりにも荒唐無稽すぎて片腹が痛んで顔面がひきつる。

理想を叶えるための夢想だが、築後40年以上の無登録営業倉庫は今後20年間でバンバン取り壊し、再築を含む全新築は竣工予定年月の3年前までの申請を義務化して許可制とする。
申請と許可の手順や要件は可能な限り簡易で僅少にして、建築主の負担軽減に努めることは必須条件である。
流れに逆行する「許可制」を推す理由は、現在の倉庫建屋数とその仕様、利用の実態などの野放し状態を考えれば理解を得られるはずだ。規制ではなく正確な現状把握を主眼とする処置として欠いてはならない。倉庫業法の改正が必要になるが、現在の運用では順法の徹底が望めないのだから、国土交通省は大鉈を振るうべきだと思う。

そうすれば数年後からは総床面積が試算できるようになる。
次に国内の物流総量を想像し、相応の倉庫需給バランスを割り出してみたとする。これは国土交通省と経済産業省が連携すれば試算可能だろうし、必要であると考える。
もちろん計算根拠となる数字にはさまざまな捉え方や根拠があるので、万人が納得する正解を確定することは難しいだろう。
しかし「売れないからたくさん作らないし、入出荷も大幅に減るうえ、資金繰り圧迫回避のため無駄な在庫は持たない。ゆえに保管面積は減る」という共通事由は間違いないはずだ。
残念ながらそんな試算をする場に加われないが、誰がどうやろうが「ごっつあかん感じ」は目鼻口からあふれ出そうに胸中で膨らむに違いない。

昭和の種が平成で花咲いて枯れた「祭りのあと」があちこちに散らばって今もある。湾岸部や山中や開発途中で放置されたエリアに、褪せて静かに鎮座している姿が物悲しい。
教育によろしくないので、ご息女・ご子息を連れての見学は避けられた方がよい。
少年少女たちのまっすぐな質問に正直な解答を返すことは、親世代は尊敬できない一団であり、そのせいで自分たち若年層の将来は制約と重負担が確定した地点からの出発となった、
と知らしめることに他ならないからだ。

平成から令和にまたがる祭りがもうすぐ終わろうとしている。
沖から眺めれば、港湾に居並ぶコンクリートの大きな塊は、どれが昭和でどれが平成でどれが令和なのか識別できない。
空から眺めれば、山地を貫く高速道路から葉脈のように拡がる新しい道路に生る実のような巨大物流倉庫がいくつも。

最近グーグルアースで国内をさまようことが増えた。
テレビ番組に感化されたわけではないが、空からならポツンと、地上なら突然とも感じるであろう倉庫や工場らしき建屋を見つけては、拡大してブツブツ独り言を吐いている。
「どこの誰が建てたのだろう」
「何を作るのか?または何を保管するのか?」
「誰がここで働くのだろう?」
「いつまでこの建屋は稼働するのだろう?というか、現在は動いているのか?」
「従業員はどこから通ってくるのだろうか?」
「若い人は周辺にいないはずだし、いたとしても工場や倉庫で働くのか?」
「災害時には完全に孤立するに違いないが、その際の手当ては想定済みなのだろうか?」

かつて高度成長期と呼ばれた時代に、沿岸部や山間部の過疎地域に突然現れた工場や倉庫。
建設現場には全国から集められた作業員が現場と宿舎をバスで往復する。
竣工後に稼働し始める工場には建設要員とは別の労働者が、にわか造りの宿泊所や麓の村から送迎バスで往復搬送されていた。
実態はマイナス成長に近い国内経済にあっても、半世紀前の高度成長期さながらの光景が地元の人間の生活圏から離れた場所で繰り返されている。
「あんな場所に何を建てるのだろう」
という素朴な疑問が過疎地の住民の口から漏れ聞こえてきそうだ。

前のオリンピックの時に起こったことと似たようなもんです。
すぐに静かになって、森に呑み込まれますよ。

そんな語り部のようなお役目は御免こうむりたい。
今回の記事、物流屋の身の丈を超えた話になってしまったことをお詫びする。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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