物流よもやま話 Blog

倉庫の仕事を好きになれない理由

カテゴリ: 本質

倉庫の仕事は人気がない。
正社員もアルバイトも応募者は少ない。

その手のハナシはうんざりするほど聞かされてきた。
求人誌や人材派遣業の営業担当者、職業安定所や人事関連のWEB媒体の編集者など、各方面の人々が押しなべて口にする言葉がある。
それは、
「仕事が単純で面白みがない」
「空調不備や暗い照明、言葉遣いが荒く殺伐とした雰囲気など、労働環境が悪い」
「職を転々としている中高年が多い職場。若年層は少なく新入者がなじみにくい」
などだ。
もちろん、実際の説明では言い回しや口調には細心の心遣いをもって、角が立たぬよう、偏見と突き放しの感が出ぬようにしてはいる。
なぜなら対面する私が業界関係者であるからで、そうでなければ上記のような直截表現になっていたはずだ。

「他では務まらぬ・もしくは他の仕事に就けなかったから、やむなく倉庫で働いている」のように思われているのかもしれない。同時に「誰でもできる仕事だが、喜びややり甲斐を持てない」のようなネガティブイメージを抱いてしまうのではないだろうか。
いちいちが不本意であるし、あまりにも誤解や曲解が過ぎて、怒りに近い感情が湧いてくるのは毎度のことながら、すべてを否定しきれない場面や事業所があることも事実だ。
いきおいに任せての反論ならいくらでも書けそうだが、憤りや不快感は脇に置いて、まずは世間一般の誤解や偏見の原因となっている要素を考えてみたい。

厚生労働省の直近統計によれば、倉庫労働者の平均年齢は約43歳から44歳の間で推移しているそうだ。この統計対象施設が「平均」を導くに偏りなく分布しているか否かの検証はここではしないし、運輸業や自社物流の多岐にわたるまで言及することに大きな意味を感じない。
地域や事業者によって差異は大きいと思うが、実感としては二分化していると考えている。
大手ECでは派遣中心の人員確保が主のため、当然ながら平均年齢は低くなる。アマゾンをはじめ、大手の通販企業などの物流業務現場では、20代から30代前半の派遣従業員が目立つ。
それとは対照的に、中小の倉庫会社や事業会社の物流現場では、圧倒的に40代以上の女性が過半を占めており、地域によっては50代が主力となっている事例も珍しくはない。
いずれの地域や施設でも、昨今では50代・60代の男性従業員の比率が増加傾向にあることも書き添えておく。

拙著では常に、
「誰でもできるようにすることが管理者の仕事」
「ミスしたくてもできないような作業手順書とOJTこそがすぐれた現場の条件」
「決まり事を一心不乱に行うことだけに専念してほしい」
などと述べているし、それは現場運営のイロハのイだという信念に揺るぎはない。
そして常に書き加えている言葉がある。
「規則と制約だらけの業務の中に、欠片のような自由裁量の隙間を見出して、より良くしようと心がける従業員は、現場の宝物である」
読み手の皆様はこれを必ず下の句として添付してほしい。
あたりまえのことをあたりまえではないほどに突き詰める貴さを知る物流管理者は多い。
だからこそ、平凡の中に非凡さを求めて止まぬ人材は必ず報われるはずだし、そうなっていないのなら責任者は資質を問われるだろう。

「自社物流と営業倉庫では違うのか?」
――営業倉庫は殺伐としたイメージが強く、時間当たりの生産性監視や行動管理が厳しい。
――休憩頻度、有給や残業手当などでも自社物流倉庫のほうが恵まれているのでは?
のような質問に対する回答は以下のとおり毎度同じだ。

待遇格差や労務順法は営業倉庫、自社倉庫といった物流形態に連動しない。
雰囲気の良し悪しについては客観的な物言いができない。
和気あいあいや会話が多いことと良い職場であることは必ずしも一致しない。
それから仕事の「きつい・らく」は個人的感覚が強く、一概に判断や評価できない。
その点については物流業界固有のハナシではなく、全業種で同様の議論がある。
有給取得や残業手当については基準となる法定値があり、それ未満ならば違法状態である。
基準ラインを超える待遇については倉庫現場の問題ではなく、その経営体の属する業種によるところが大きいと言える。つまり自社物流vs営業倉庫という比較ではなく、物流業界の〇〇社vs〇〇業界の〇〇社倉庫部門という表現が適当。すなわち会社単位での比較となるので、現場形態だけを取り出しての比較には無理がある。
私以外の業界関係者でも類似の回答になるはずだ。

倉庫に限らず、物流業界の求人に対する不人気や不本意な反応は、身から出た錆であると言い続けてきた。
本来は単純簡素化に適した労働集約業務の典型でありながら、属人業務ややっつけ仕事の繰り返し放置に甘んじてきたツケの清算を強いられている昨今。いくつかの課題を解決するための必要条件のひとつに人材の問題があるだけだ。

勝負所にさしかかったとき、戦のできるサムライがいない。
目の前には将来性に富んだ業務が漂っているのに、それをつかんで取り込めない。
「今日も何とかなった」と安堵し、明日を疑わないまま次への戦略と備えを怠ってきた。
商機や商運は天から降ってくるものではない。仮にそう見えても、実際には地道に備えて努力を積み重ねた来し方があったからこその因果であるはずだ。

それゆえのあくなき人材募集なのだ。
新たに加わった人材によって、会社の方向性が大きく変わったり、組織活性化を促す刺激となったり、視野が拡がることは健全な現象だ。もちろん内部育成による世代交代と事業改新は王道であるが、外部からの人材獲得は加速や浮力の大いなる助けとなるだろう。
新しい人材を得るにあたっては、まず自社の魅力を説明する必要がある。戦いの場を想定し、戦士や策士を探し求めている旨を経営者を筆頭に語らねばならない。
物流会社や物流部門が突き詰めて本気で語れば、応じる逸材は必ずいる。
事実、異業種からの転職者は年々増加しているが、その反面離職者も多い。
転職して数年内に離職してしまうという事例に共通する要素や本質は何なのか。その事実や実態の具体は、我われ業界人が真摯に対峙しなければならない命題だ。

まずは「誇りなきままのバイプレーヤー意識」は間違いであると正さねばならない。仮に企業内で物流部門が主役扱いされないとしても、主業務だという自尊心は持ち続けてほしい。
物流は基幹業務であり、企業経営の未来を支える下半身だ。
目立たず物言わぬ大きな骨格と筋肉が、きしんだりこわばったりすれば、たちまち歩行や走行や跳躍に支障が出るだろう。ひどい場合には屈んだりとどまって静止すらおぼつかなくなるかもしれない。それはもはや健常からほど遠い姿であり、そうなってからでは内科だけではなく外科の世話にまでなりかねない。
ゆえに健康や健全を正しく自覚でき、広角な視野をもって進むべき方向を先導し、環境や内部事情の変化に応じて柔軟に動きを調整できる人材は代えがたく貴い。

倉庫業務を好きになれないのは倉庫部門や倉庫会社を好きになれないからだ。
この先は物流各社・物流部門を抱える事業会社の経営層・管理層がそれぞれに考えることだ。
もちろん不肖私も助太刀いたす所存である。お声がけいただければ嬉しい。

最後に冒頭の言葉に類するQ&Aを記しておく。

Q1 他では務まらないから倉庫作業しているのか?
Q2 誰にでもできるのか?
Q3 人間関係が希薄なのか?
Q4 高齢者が多いのか?
Q5 仕事に面白みがないのか?

A1 他では発見や評価されなかった能力を認められて活躍している人材多数
A2 誰にでもできることを誰にもできないほどやることが物流人の矜持
A3 希薄ではなく淡交を是とすべき。挨拶や業務伝達以外の言葉に会社は関与しない
A4 多い。今後はさらに増える。年齢性別の偏りや比率にこだわる時代は終わった
A5 3か月経って「面白いがむずかしい。でも楽しい」と感じないなら、管理者に責任あり

物流なめんなよ。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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